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美味しいパンと牛乳と父

(2005年に書いたものを加筆訂正)

父の日なので、私の父について書く。

私の父のエピソードは脚色なしなのに小話としてかなり完成度がたかい。当時高校生だった私は、同級生にせがまれて、父の話を落語のごとく何度もした。落語が、噺家が話しているのを聞いて初めて面白いように、書いた物を読んで面白いかはわからない。
でもかく。

たくさんあるからシリーズ化してもいいかもしれない。


ある日曜日、私は父を連れて新しいパン屋さんに行った。私は高校生だったし、車を運転したのももちろん父だったが、私の感覚は「私が 父を 連れて」行った。そういうキャラの人だ。

店内に入ると、父はすぐに興奮しはじめた。
落ち着きがない。
よほどパンがおいしそうなのだろう。
かなり危険信号だ。

さっさと買って、さっさと帰ろう。

私は完全に把握している父好みのパンを素早くトレーにとって会計の列に並んだ。この間1分もなかっただろう。

3~4人私の前に並んでいる。

父:くっていい?くっていい?
私:え?かえってからたべようよ!ていうかせめて会計すんでからにしてよ!

私の番がくるまで繰り返し。
なんとか私の隙をついてパンを食べようとする父と私の静かな戦い。
あー、もうここで猛烈に恥ずかしい。
私は自意識過剰な17歳である。
私の番が来て、お店の人が最初のパンを手に取って、値段をレジに打ち込み、違うトレーにのせた。

それをすかさず手に取ってほおばる父。だからまだ金払ってねぇってば!

お店の人もくすくす笑っている。
はやくかえりたいはやくかえりたい。

たくさん買ってしまったのでなかなか会計が終わらない。


うふぉうふぉうふぉうふぉ!!

な、なに?!

振り向くと、あまりに勢いよくパンをほおばったので思いっきりむせている父。

涙目でレジ横のショーケースにある牛乳を必死で指差している。
お店の人も察してくれて、すかさず牛乳を差し出す。
やっとなんとかお金払い終わったのにまた会計。

必死で牛乳をあけている父に背を向け、なんとか他人のふりを演出しつつ会計がすむのを待つ。

だーー!!!

こ、こんどはなに?!


振り向くと、あまりに急いで牛乳を飲んだため、口の左右から牛乳を勢いよくこぼして床にまき散らした父。

お店の人は笑いながらモップを出してきてくれた。

えへへ、と照れ笑いしながら自分で牛乳を拭き取る父。
お店の人に謝りまくる私。

あれからもう13年経つ。

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28年前?! でも肌で覚えてるなー 

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