クルド系政党議員来日とその意義
先月末から3日(月)未明まで、トルコのクルド系政党DEM党から2人の大国民議会議員が来日していました。日本の議員らと、トルコにおけるクルド人の状況などについてのワークショップを開いたということです。
2日(日)には、記者会見およびクルド歌謡コンサートが開かれました。そこで見聞きした出来事や、今回の訪問の意義について少し書きます。
今回の記者会見では、私もトルコの状況について簡単に説明するという役目を預かりましたので、早めに会場の日本クルド文化協会事務所へ向かいました。事務所のほうへ歩いていると、不良外国人がどうたらというビラを用意している2人組がいました。署名活動をしていたようですが、会見が始まる前の時点では、残念ながら5人ほどしか集まらなかったようです。
聞くところによると、トルコと関係の深い人物ということで、わざわざ愛知から車を飛ばしてきたそうです。彼らは会見後が終わる頃には、コンサート会場がある浦和に移動したらしく、いなくなってなっていました。彼らの動きを監視をしていたクルド人は、浦和で転回禁止の違反を何度も犯していたと話していました。
成果は皆無な上、毎日が休日という方でもなければ貴重な休日を潰したと思われます。トルコがガソリン代はもとより、日当にも弾みをつけてくれていなかったら地獄ですね。
さて肝心の記者会見ですが、逮捕の口実になるという理由で話せないことが多数あったのが残念でした。しかし、そもそもなぜ本来、不逮捕特権があるはずの大国民議会議員が国に関する不都合な発言をした程度で逮捕される可能性があるのでしょうか?
記者の皆さんの中からこれについて問いが出ず、クルド協会側からもそれについて触れられることがなかったので補足します。トルコでは2016年、当時のクルド系政党のなかで最大の人民民主党(HDP)の議員から不逮捕特権をはく奪する法案が議会を通過しました。それ以来、何かにつけてクルド系政党議員は不当逮捕攻撃に晒されています。
そしてこの時、世俗派の最大野党・共和人民党(CHP)も賛成しました。トルコのクルド弾圧について、与党だけが悪いかのような説明がなされることがありますが、野党も大差ないです。欺瞞とはいえまだイスラム的な諸民族共存の観念がある与党より、さらに酷いとも言えます。
さて記者会見後には、懇親会が催されました。その中で笑ってしまったのが、「クルドヘイトデモは回を重ねるほどに人が減る。カウンターは逆にどんどん増える」という趣旨の地元の方の挨拶です。
コンサートでは最初に関係者のあいさつがあり、議員さんの「日本のクルドコミュニティも民主主義運動の重要な一部」というメッセージには、クルド人でなくとも胸が熱くなるものがありました。魂を揺さぶる言葉を持つ政治家が数多くいるクルド人を羨ましく思います。
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さて、本題に移ります。今回の来日は、大きな話題を呼ぶということはないかもしれませんが、その意義は小さくないと思われます。
現在、日本では、トルコが背後にいるとみられるクルド人に対する不当なヘイト攻撃が続いています。こうしたなかで自分たちの代表を無事に招いたことは、彼らが卑劣な攻撃を前に委縮していないというメッセージを示せたと思います。
そしてこの来日と議員の主張をメディアが報じることで、また少しずつトルコという国の問題が広まる――これがトルコの最も嫌うところのものです。トルコは日本でクルド問題が広がることに、欧米におけるそれとは次元の違う不快感を抱いているのです。
日露戦争で日本が辛勝して以来、オスマン帝国やイラン、アラブ諸国では自分たちに都合良い、欧米のようにルサンチマンを刺激しない大国としての日本像が形成されていきました。「ミカドをイスラムに改宗させ新たなカリフとしてイスラム世界を救ってもらう」という、日本人からすると荒唐無稽な論も展開されていました。
トルコでは、クルド問題を欧米による内政干渉の手段をとらえる向きがあります。これは全くの被害妄想ですが、このように合理化することで自国の原罪、そして現在進行形で続く犯罪と向き合う精神的苦痛から逃れようとしているのです。
その点、日本はトルコと同じ欧米の圧迫を受けた国です。日本人の側にも黒船来航以来の欧米コンプレックスから、トルコの物語に共感しやすい傾向があります。トルコは日本を何もかも無条件で受け入れてくれる国とみなしています。
そして、日本が一応先進国の末席に加わっていることも都合が良いのでしょう。先進国にもトルコの理解者はいるのだと。
こうしたことから、日本人からクルド問題で批判を受けるのは耐えがたいことであると思われます。私は以前、トルコのニュースサイトで「テロ組織のシンパ」と書かれたことがありました。その記事に寄せられたコメントの中で印象的だったのが、「この人は悪くない、ただトルコの真実を知らないだけなんだ」*というコメントです。クルド問題を知る日本人というのは存在してはならないという思いを感じました。
私は議員さんにも、トルコが日本でクルド人ヘイトを仕掛ける背景、クルド問題における日本という国の意味についてこのように説明しました。
今回の来日に関する話題を一人でも多くの日本人が知ってもらい、トルコの真実に気づくきっかけになれば幸いです。
*コメント全体が削除されたのか現在は閲覧不可