見出し画像

もしも町工場が焚き火の部活をはじめてみたら

 突然ですが、柳川市って知ってますか?

 福岡県の南側に位置する人口6万人程度の町で地方都市の例にもれず高齢化と若い世代の転出による人口減に悩まされていますが、福岡県民の間では観光のまちとして知られています。そんな柳川市で一番人気の観光コンテンツが川下りです。川下りを目当てに来た観光客がうなぎを食べたり旧柳川藩主立花家の別邸や城下町を散策する…というのが柳川観光の王道コース。

 コロナの影響で落ち込んだ観光客も最近はインバウンド観光客を中心に回復しているもの、柳川の観光業には昔から言われている課題がありました。それは宿泊客が少なく一人当たりが使う金額が少ないというもの。旅館やビジネスホテルもそれなりにあるので、泊まれないというわけでもない。

「もしかして柳川に夜のコンテンツがあればいいんじゃない?」

 私、ひらめいちゃいました。

水の都を支える水門

 こんにちは。柳川市の水門メーカー乗富鉄工所の代表のノリドミです。はじめましての方からしたら「水門メーカーってナニ?」って感じでしょうが日本の国土、特にここ柳川市にとっては超重要なインフラなんです。

 柳川市は「掘割」と呼ばれる水路が縦横無尽に走る水の都。掘割の総延長は930kmであり、これは福岡⇔東京間の距離に匹敵します。有明海の潮汐でできた湿地帯に2000年ほど前に人が住み始めたのがはじまりで戦国から江戸時代にかけて現在の形に掘割が整備されました。

 掘割の入り口と出口には水門があり、巨大なプールのようになっています。この掘割を船頭さんのお話をききながらどんこ舟でゆつらーっと(柳川の方言で"ゆっくりと"の意)まわるのが柳川名物川下り。当たり前ですが掘割がないと川下りはできませんし、大雨の前などには水門を開け掘割の水量を減らすことで水害リスクを下げる機能もあったりします。

 で、そんな掘割に欠かせない水門をつくる会社が創業76年の水門メーカー、株式会社乗富鉄工所なのです。長かった…

掘割と水門

水門メーカーミーツまちづくりプレイヤー

 そんな乗富鉄工所ですが、2010年代から少しずつですが水門の受注が減っていきました。昔は鉄で作っていた水門がステンレス製になったことで製品寿命が大幅に伸び、作り替え工事が激減したのです。地球には優しいけれど水門メーカー的には死活問題です。

 そこで2020年地域で活動するデザイナーと共同で水門製造で培った職人技を生かしたアウトドアブランド「ノリノリライフ」を立ち上げました。鉄工職人がデザインした炎が透けて見えるメッシュ式焚火台や木と鉄を組み合わせた安全な多機能ピザ窯など斬新な商品を作り本格的に販売を開始したのが2021年。斬新なアイデアと質実剛健な作りで玄人を中心に受けて順調に売上を伸ばしてきましたが、様々なガレージブランドが雨後の筍のように生まれていた時期でもあり知名度的にはイマイチ。せめて地元では知られてほしい…

炎が透けて見える"ヨコナガメッシュタキビダイ"

 そんな話をある経営勉強会でしたところ、「柳川でまちづくりやってるおもしろい人紹介するよ!」と紹介して頂いたのがスナックうずしおのゆきこさん夫妻とSDGs未来ラボの安部さん夫妻。

 ここで冒頭の話に戻ります。こんなシチュエーションで「焚き火台で柳川の夜のコンテンツを作りたい!」みたいなめちゃくちゃふわっとした話をしたら「まちづくりの"ま"の字も知らん奴がデカいこといってんじゃねえ!」と一喝されてもおかしくないところですがはみなさんは違いました。「面白いねそれ!」とノリノリになってくれて座談会がスタート。スナックうずしおの中庭で焚き火をしながら「焚き火フェスをしよう」とか「焚き火できる宿つくろう」とか妄想しながらも、いきなり大きいこと始めてもうまくいかないから小さく始めてじわじわ仲間を増やしていくのがいいということで最終的に出た結論が

「まずは部活をつくって毎月焚き火しよう」

 柳川で一番人通りが多い西鉄柳川駅前でやりたいという話になっていましたが、安全上の問題で市の許可が下りず断念。その後、市の職員さんから紹介いただいた三柱神社さまの境内前のスペースをお借りすることができ、2022年3月に「焚き火部やながわ」をスタートすることができました。

 知名度ゼロのイベントに果たして人は来るのか…めちゃくちゃ不安だったのですが、初回は花見の時期と重なったことで観光客の方がちらほら来ていただきました。また、地域ですでに知られているゆきこさんがお友達を連れてきてくれたり阿部さんがミニ図書館「あかりのたまご」を開催してくれたおかげもあって、いい雰囲気で第1回の部活動を開催することができました。

焚き火部やながわ

焚き火から生まれたコラボレーション

 小さく始まった焚き火部でしたが回を重ねるごとに少しずつ新しい方が増えていき、これまでほとんど関りがなかった観光業の方や行政の方とも繋がり、様々な形でコラボレーションさせて頂きました。

 たとえば、ブルワリー柳河さん、ゲストハウスほりわりさん、柳川市地域おこし協力隊のみなさまと開催した「タキビアガーデン」。掘割沿いのゲストハウスのお庭でクラフトビールを飲みながら焚き火の火でお肉や野菜を自分で焼いて食べる最高に楽しいイベントでした。

タキビアガーデン

 あとは立花藩の末裔の方が経営する旅館御花さん、柳川で最も古い川下り会社柳川観光開発さんと企画した「お舟でグランピング」もスタートしています。柳川の掘割の歴史をききながら水門メーカーが作ったのピザ窯で焼きたてピザを楽しむ贅沢な観光プログラムです。

お舟でグランピング

「焚き火フェスをしよう」と言っていましたが、これは新入社員が中心になって企画した乗富鉄工所初のオープンファクトリーイベント「NORIDOMI FESTIVAL!2023」で実現しました。ノリノリプロジェクトや焚き火部の活動でお世話になった方々にも出店頂き初開催で400人以上の方にご来場頂きました。

NORIDOMI FESTIVAL!2023

 「工場見学もしてみたい」という声を受けて夜の工場見学と焚き火体験が楽しめる「NIGHT FACORY CAMP」という観光プログラムを柳川市公式の観光プログラムとしてスタートし、毎月開催しています。

NIGHT FACORY CAMP

増える仲間、広がるクリエイティブの輪

 焚き火部の活動をきっかけにまちづくりに関わりはじめたことで「柳川に変なことやってる鉄工所がある」と評判になり、会社にも変化が生まれています。

 たとえば2024年に入社してくれたカメラマンは地域おこし協力隊の求人を探していたらなぜか乗富鉄工所の求人を見つけたそう。ほかにも知り合いから評判を聞いて「楽しそう!」と大手機械メーカーから転職してきた開発職、「職人になるのが夢だった」とアルバイトに来てくれてる元市役所職員の方などユニークな経歴の方が続々と集まってきてくれています。最近は「入社を考えてるんですけど」とイベントに来てくれる方もチラホラ…焚き火が採用に効くなんて思わなかった。

 焚き火部の活動で知り合ったイラストレーターのoume_styleさんが会社に来てくれてイラストを描いてもらう、なんてこともありました。地域で活躍するクリエイターとの繋がりが増えたのも嬉しいことのひとつです。

oume_styleさんによる鉄工職人のイラスト

 新しい人が入ってきたことで会社の雰囲気もぐっと明るくなりました。昼休みにピザパーティーが開かれたり、イベントや焚き火部の活動に遊びに来てくれる社員が現れるなんて少し前だと考えられないことでした。

突然開催されるピザパーティ―

焚き火部はTOMARIGIへ

 三柱神社さまの境内前をお借りして2年以上続けていた焚き火部やながわですが、安全に焚き火ができる実績ができたことで2024年4月からは柳川駅前のスペースでやれることになりました。これまではまちづくりに興味がある方が中心となった部活動でしたが、これからは多くの方に来て頂きゆくゆくは柳川を代表するようなコンテンツに育てていきたいという想いでイベント名を「TOMARIGI(とまりぎ)」に改めました。

 イベント自体のクオリティもあげるべく、新入社員中心に什器をつくったり内容を工夫したりと現在進行形で企画をブラッシュアップしています。

職人の指導を受けて看板をつくる新入社員

 駅前開催の第1回となった4/19のイベントには福岡市で活動されているミュージシャンの和色さんをお招きして弾き語りライブを行いました。その中でなんとTOMARIGIのテーマソングを披露してくれるという嬉しいサプライズがありめちゃくちゃ感動しました。後日送って頂いた音源に最近入社してくれたカメラマンMくんが映像をつけてできたミュージックビデオがこちら。最高なのでぜひ見てみてください…!

焚き火から生まれるなにか

 「焚き火を柳川の夜のコンテンツにしたい!」という思い付きではじめた焚き火の活動。現状月イチ開催なので当初思っていたところはほど遠いのですが、次々に思わぬ展開をよんでいます。次になにが起こるのか…全然予想できないけどワクワクしています。

 ちなみにこのTOMARIGI、会社的には鉄工所と地域を混ぜる実験場だと捉えています。無料だから収益はないのでやればやるほど赤字だし、この活動を通して得たものはPLにもBSにも乗ってこないのだけど、経済合理性の外側でなにか面白いことが生まれるかもしれない謎イベントに月イチで課金しているって感覚です。たとえるなら小遣いの1割で毎月大穴の馬券買ってるみたいな…競馬やらないから怪しいけどたぶんそんな感じです笑

 まあ小難しい話はこのへんにしましょう。焚き火は楽しいもんです。水門メーカーの突飛な思い付きから灯った小さな火がいつか水のまち柳川を明るく照らす大きな炎になれたらいいなと思っています。

 TOMARIGIは毎月第4金曜の夕方、西鉄柳川駅西口で開催してまして、直近の日程はノリノリライフのインスタで告知してます。

 マシュマロ用意して待ってます。あたたも焚き火、しませんか?

TOMARIGI

本文中でご紹介した定期開催中のイベントまとめ

TOAMARIGI(とまりぎ)
内容:ノリノリライフの焚き火台で焚き火体験。マシュマロ配ってます
日時:インスタで告知 ※ 原則は毎月第4金曜 17:00-20:00 
場所:西鉄柳川駅前
料金:無料
事前予約:不要

NIGHT FACTORY CAMP
内容:夜の水門工場見学と水門操作体験、焚き火体験。写真撮影OK。その場でノリノリライフの商品購入もできます。イベントの様子はこちら
日時:申し込みフォームよりご確認ください 
  ※ 原則は毎月第2金曜 18:00〜19:30 約90分
場所:柳川市三橋町柳河912(Google map)
料金:2,500円 軽食込(マシュマロ、コーヒー等)
事前予約:申し込みフォーム よりお願いします


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集