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秋の味覚- 梨

大学生の頃、友人と5~6人で梨狩りに行くことになった。
私ももれなく「大学生、暇はあるけど、金はない」状態だったので、その日は、朝食も食べず、梨でお腹を膨らませる予定で参加した。

電車に乗って、梨狩り会場がある、梨農園へ向かった。電車の中で和気あいあいとしゃべりつつ、初めての梨狩りはどんなもんだろうと考えていた。

梨はみずみずしいし、そんなにお腹にたまらない。それに果物自体、最近、食べてない。余裕で10玉くらいいけるだろう。。。

梨農園に着くと、農園の方から、熟した梨の見分け方、梨の採り方などのレクチャーを受けた。それと注意事項で、梨を採って良いのは食べられる分だけにしてくださいとのこと。時間は2時間。

レクチャーが終わり、早速、みんな思い思いの方向へ、梨を選びに向かった。私もたくさんの梨の中で、「おいしそう」と思われる梨を選んだ。そして友人の1人が持って来たレジャーシートの上で、各々、梨の皮を剥いて、食べていく。もぎたては美味しい。冷やしてないから、甘味をもろに感じる。空腹の状態で食べているから、余計にお腹にしみ渡る。

食べ終わったら、2つ目を採りに行き、レジャーシートに戻って、食べて進めていた。ふと、梨を取りに行く時間と剥いている時間が、大きなタイムロスになるのではないかと思えて来た。時間は2時間しかない。そこで、次から2個ずつ取ってくることにした。

3つ目・4つ目を食べ終わり、5つ目、6つ目を食べていると、友人の中で、もう食べられないという人も出てきた。私も大分、腹八分目くらいに溜まってきている感じがしていたので、次の回で最後かなと思っていた。

残すことはできないので、2個ずつ取るのはやめ、7つ目の梨を1つ持って、レジャーシートに戻った。

7つ目の梨を剥いていると、これまで気付かなかった満腹感が急に襲ってきた。気分的には食道あたりまで、梨が詰まっている感じだ。それでも、手元には剥きかけの梨が1つある。これは食べきらなければならない。。。

なぜ、7つ目を採ってしまったのかと、自分で自分を恨めしく思いつつ、休み休み食べ進め、何とか、7つ目を食べ終えた。

帰りの電車では、行きの賑やかさはなかった。「梨でこんなにお腹いっぱいになるとは」とか「梨は今シーズン食べなくていいね」とか、静かに話していた。食べ放題となると、ついつい食べ過ぎてしまうのは、私だけではないようだった。

各々、満腹のお腹を抱えながら、各自宅へと向かった。夕食時だったけど、誰も「どこかで食べて帰ろう」とは言わなかった。

私も自宅に戻り、食事はもう要らないなと思い、お風呂の準備をしていた。すると、家の扉をノックする音がする。

「こんな時間に誰だろう?」

扉を開けると、隣に住んでいるおばあちゃんが立っていた。
何かご迷惑なことでもしたのだろうか?とも思ったけど、おばあちゃんはニコニコ笑っているから、そうではないみたい。

おばあちゃんは、
「あんた、梨、好きか?」
そう言って、袋に入れた大量の梨を私に差し出して、こう言った。

「たくさん貰ったんやけど、おじいさんと2人やから、食べきれへんのや。もらってくれたら嬉しいわ」

もちろん、私は「ありがとうございます!」と言って受け取り、翌日からも梨を食べ続けることになった。

「秋の味覚は梨」を、特に感じた年だった。

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