お客様のニーズは、聞けばわかるってもんでもない。イノベーションってのは全く新しいってもんでもない。
有名な話です。ホームセンターにドリルを買いに来る人が本当に欲しいもの。それは性能のいいドリルではなくて、「穴」である(セオドア・レビット先生・意訳/私)。そんでもって、イノベーションは技術革新じゃなくって、組み合わせの妙である(シュンペーター先生・意訳/私)。今回は、そういうお話。
「当たり前」追わないせんべい(2023/8/4/日経MJ)
「前触れもなくヒットする商品があります。青森県八戸市の菓子メーカー、しんぼりが2021年に発売した「チョコQ助」は好例です」。
私の実家(青森市)にもたまに置いてあります、チョコQ助。母親に聞いたら「ひとり3個まで」とか決められてることも多いんだとか。もはや、一昔前のビックリマンチョコ状態です(ひとり2個までだよって、駄菓子屋のおばちゃんに言われたよね?)。
このヒットは偶然か
記事はこう続きます。「このヒットは偶然か。そうは思いません」。その理由は2つ、と言ってるんですね。
①地元客優先の姿勢を貫いたことでむしろ熱い支持が広がった。
②マーケティングで当たり前のように語られがちな3つの要素をあえてなぞっていない。
そんでもって記事を書いた先生は、②に「注目したい」と言います。
マーケティングで当たり前のように語られがちな3つの要素
マーケティングで当たり前のように語られがちな3つの要素。記事の先生は、この3つだと指摘してます。
①差別化を目指せ
②消費者のニーズを聞け
③物語を紡げ
ふむふむ。どれも王道だ。それで、この①~③をあえてなぞっていないとな。それぞれ興味深いのだけれど、私も一つ注目するとしたら、②に注目しようかな。当然やるべき「消費者のニーズを聞く」をなぞっていない、ようするに「消費者のニーズを聞かなかった」わけだ。
消費者のニーズを聞かない
記事にはこのようにあります。「消費者というのは、実は真の欲求に気づいていません」。
それな。冒頭ではドリル理論って言ったけど、スティーブ・ジョブズもiPhoneを初めて世に出したとき、言ってたね。「消費者ニーズを聞いてもしょうがない。消費者は実際に商品を見るまで、自分は何が欲しいのかわからない」ってね。
バッテリーの持ち、決済機能、カメラ...お客様の全てのニーズに合致した(かのように見えた)ガラケーを、バッテリーも長持ちしない、決済機能もないiPhoneがあっという間に駆逐しちゃったわけだけど...それって要するに、ニーズは聞かなかったけど、ニーズを満たしたってことだよね。記事はこう続くのです。「だから逆にチョコQ助のような企業発の着想がここで重要になります」と。
イノベーションは組み合わせの妙
企業発の着想って、要するに「イノベーション」のことだと思うわけです。イノベーションって「技術革新」って訳したくなるんですが、イノベーションの父・シュンペーター先生は、既にあるものと既にあるものを組み合わせて新しい価値を生むこと、って言ったんですよ。要するに、組み合わせの妙です(新結合って言うらしいぜ)。
パソコン+電話=スマートフォン。ただ、iPhoneの前にBlack Berryっていう、当時のイケてるビジネスパーソンが使ってたスマホっぽいのあったんだよね。だから、パソコン+電話だけじゃなくて、そこにプラスアルファの組み合わせの妙があったんだろうなって。
パソコン+電話+iPod+キーボードがない=iPhone、みたいなね。
チョコQ助の組み合わせの妙って?
で、ようやくチョコQ助だ。南部せんべい+チョコレート=チョコ南部せんべい。これはいっぱいあるな。さっきのBlack Berryと一緒ですわ。チョコQ助の組み合わせの妙って、なんだろうな。
色々ググってみると、単純に南部せんべいの規格外品(これを久助/キュウスケって言うんだってね)を使ったんじゃなくて、サクサク触感のせんべいをチョコQ助専用に作ってるんですって。ほうほう。
で、全面にチョコをコーティングするんじゃなくて、せんべいの塩味との絶妙なバランスを考えて、チョコをナナメがけしていると(ナナメ、好きです)。
専用に考えたサクサク南部せんべい+塩味との絶妙なバランスのチョコレート比率=チョコQ助。これかな。
地元客優先の姿勢を貫いたことでむしろ熱い支持が広がった
最後に、記事の先生が挙げた、ヒットのもう一つの理由にも触れたいと思います。「地元客優先の姿勢を貫いたことでむしろ熱い支持が広がった」。
南部せんべいって、なんだかんだ言って、青森県民の(うちは津軽せんべいなんだけど、それはややこしくなるからここでは言わない)の戸棚には、南部せんべいあるんですよ。自分で買ったり、近所からもらったり。
ということで、チョコQ助って、地元のお客様をターゲットに、ソウルフードの南部せんべいを、イノベーション(組み合わせの妙)で。「誰に?何を?どうやって?」のマーケティングの”基本のき”がしっかり守られていると思うんです。
中小企業の皆さんは、世にはびこる色んな誘惑に惑わされず、基本に忠実に行こうよ。この記事って、そういうことを言いたかったのかなって、そんなことを想って、スマホを閉じたのでした(おしまい)。