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「越境者」を具現化する。
2022年6月12日、日曜。
午後1時半からの開演を待っていた天使館には、突如、雷鳴が轟き、窓は風雨に殴られた。
いきなりの荒梅雨(あらつゆ)は、いきなり晴れた。
光が差し込む。
そうして静かに、チェロソナタがはじまった。
オイリュトミーは、すでにある音楽に合わせて踊るのではなく、その音楽が生まれたところに立ち返り、自らの体を通して生み出していく。
基礎練習になると、音楽が生まれたところより遥か彼方、音の響きそのものに立ち返る。
そういう体の手続きに入るために、最初にチェロを担当したわたしと、ピアノを担当したデュオパートナーは、「共通水位」のイメージを保つ練習をしていた。
最初のA音が流れ出すための海。
周波波が「波」であるためには、少なくとも五つの形成的な力の作用が働き、海はその形態形成場のひとつだ。
共通水位に集中することで、小脳の無意識世界に入り、同時に音の要素をすべて暗記する大脳もフル回転し、その中継点は、異様な緊迫感が流れる。
それらは主に神経系の働きであり、神経系の観察者や、音楽感情の担い手は、血液系となる。
オイリュトミーをやって、みて、おもしろいところは、この緊迫感と、血液系が神経系から解放されていく瞬間だ。
今回の発表会は、先日のあわい公演の土台にあたる。
本来は内輪だけでの作品見せの予定だったが、笠井叡先生、笠井禮示先生を含めた18名の方にお立ち合いいただき、チェロの山崎明子さん、ピアノの橋本祐子さん、そして演者の5名が集うことができた。
おかげさまで、記念すべき会といっていただけた。
いまこうしてやれていることに、感謝しかない。
次は、何をしようか。
次の活動はもう決めてあって、大きなテーマとしては、表題のとおり「越境者」を具現化したい。
モチーフは、白拍子。
平家物語の中で、男性神話からの越境者が、先日観たアニメ「犬王」なら、女性神話からの越境者は、「祇王」だ。
祇王は、貴族から武家社会へと移り変わるなかで、男装で舞い、散っていった芸能者の名。
わたしは祇王という脚本を完成させるためにオイリュトミーをはじめたので、次はこの脚本を完成させ、舞台に具現化したい。
もう半分以上書いて寝かせてあるが、実際の動きを学んでみて、ほぼ全部書き直しだ。
そこには、あらゆる越境がある。
性、トランスジェンダーの。
聖と俗との。
意識と無意識との。
世界観としては、西洋と東洋が有史で初めて出会ったところ、ガンダーラ文化に力点を置き、その結実としての琵琶を音とする。
琵琶にも日本のもの、中国のもの、いろいろあるようだが、調べてみると、平家物語だけを語り継ぐ、「平曲」というジャンルがあるらしい。
平曲!!これはやってみなければ!!
チェロから、琵琶へ。
ベートーヴェンから、平家物語へ。
その抑揚と響きが、楽しみでならない。
まずは8月の体験に申し込んだ。それまではプロット作り。プロットができたら音、音ができたら動き。
もちろん、古めかしいことをやって気取ってみたいわけではないから、現代の「越境者」が、何を聴き、何を語り、何を生むのかにこそ興味がある。
世界観からつくりはじめ、台本に起こす。
すると場が生まれる。
その場に何が乗ってくるのか、誰と出会えるのか。
白紙からの出発だ。
チェロソナタ発表会のあと、演者たちは、先生のご自宅でコーヒーとお菓子を馳走になり、今後の示唆もいただいた。
久子さんには、文章修行には翻訳がいいとアドバイスいただいたので、越境にまつわるさまざまな作品の原書にふれて、翻訳もしてみようと思う。
何か、音楽や文芸で、越境にまつわるおもしろいものがあれば、ご紹介ください。
いや、そもそも越境のない芸術作品なんてないとも思うけど。