熊川哲也『カルミナ・ブラーナ』2021
(写真は https://balletchannel.jp/14707より)
ギリギリで2回観た、熊川哲也『カルミナ・ブラーナ』2021。
わしづかみにされるような鬼気迫る音が、そのまま人間の姿に、見える動きになっているようだ。作曲者オルフのリズムを、ダンサーの足が一つも漏らすことなく拾っていく。
冒頭とエンディングで「おお、運命の女神よ」と歌われる女神フォルトゥーナ。けれど、運命の輪を回す女神の時代は過ぎ去り、もう舞台にはいない。
代わりに、たった一人の「人類」がいる。
それが熊川哲也。
「HUMANITY AGAINST COVID-19」と題された、現代のカルミナ・ブラーナ。
人間の生み出した「悪魔」を、アドルフ役の関野海斗が踊る。
悪に目覚めたアドルフは、コロナ・パンデミックとして世界を翻弄するが、これほど美しいコロナ・ウイルスはいないのではないか。
「人類」熊川哲也と「悪魔」アドルフは、対立するものではなく、互いを新たに生み出しあう関係をみせる。
通底するテーマはオイリュトミーとも似ていて、作品のできたナチス・ドイツ時代から、100年経った現代においても、姿は変われど本質は変わらない。
ナチス政権やコロナ禍を取り上げているようでいて、それらはどこまでもメタファーでしかなく、こうした悪のメタファーを現実に投影し、受け入れ、かつ憎むのは、いつの時代も一人ひとりの闇だ。
「いやよね、いつ終わるのかしら、コロナ」とか言いながら除菌してる場合じゃない。無関係の顔をしている場合でもない。
少なくとも自分の中では終わらせようぜ。
現実に悪を投影している自分を終わらせる。
弱いまま受け入れることを終わらせる。
憎むのを終わらせる。
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