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ムク

同音異義語が許せない
同じ音なら同じ意味であってほしい

例えばムクだ
ジャイアンの犬は
なぜムクという名前なんだ
そんなことはどうでもいい
牙を剥くからムクというのか

仕方なく俺は辞書を引いてみた
辞書は俺の嫌いな同音異義語の嵐だった
これらをすべて同じ意味にしてみせる

尨犬は
牙を剝くという意味ではなかった
犬という字に毛が三本
もちろん三本しかないわけではない
毛がふさふさなのである
いきなり俺の出鼻はくじかれた
漢字というやつがあったか
漢字は基本は象形文字らしい

じゃあなぜムクと呼ぶんだよ
ふさふさなら
フサでもいいじゃないか
ここで俺はひらめいた
毛がムクムクなのだと

椋鳥はきっと
毛がムクムクしている鳥だから
そう呼ぶんだ
そう喜んで調べてみると
椋の木の実を好むから
椋鳥と言うんだってー

俺はまたもや出鼻をくじかれた
いや二度目だから「出鼻」とは言わないか
ここで「出鼻」という言葉を
調べたい誘惑は抑えられた

とにかく椋の木の語源だ
すると「椋鳥がその実を好むから」
という説明が出て来た
椋鳥と椋木の無限ループだ…
どっちが先なんだー
と思ったら、それだけでない
「樹皮が細長く剥けるからだ」という説を発見
よく茂るから「茂くの木」だという説
葉っぱが木工用のヤスリになるから
「木工の木」だという説明も

語源は一つじゃないんかい!!
「茂く」も「木工」も単なる駄洒落なので
俺は皮が「剥ける」からという説を採用した
ここで俺は
「椋鳥が椋の木の皮を剝く」
という状況を夢想した

そして木を剥くから
その木は「無垢」になるのではないかと思いついた
無垢には
「垢一つなく清浄でピュア」
という意味がある
無垢は仏教用語でもあり
如来は無垢とされる
きっと無垢なる如来は
良いおこないに報いてくれるに違いない

俺にとってムクのイメージは
表層を剥いて
その奥底にある仏のような
穢れのない
欲望をそぎ落としたような
性質を意味するのだという
結論に辿り着いた

そして突然
では毛がムクムクしている
尨犬は何だったんだという疑問に
舞い戻った

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