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土のルネッサンス

土は、人間の文明史上もっとも古い建材。中欧では19世紀まで、主要な建設マテリアルだった。20世紀になり、工業生産の建材各種が登場してきてからは、土は古建築の改修で細々と使われるくらいで、忘れられていたが、ここ20年ほど、古い建材である土に静かなルネッサンスが起こっている。

9月末に、日本からのKANSOグループと一緒に、TAKATUKA建設を訪ねた。フライブルク市郊の増改築中の現場を2箇所、社長のヨハネス・オットが案内してくれた。彼の工務店は、ドイツで有数の、木と土を組み合わせた建築のスペシャリスト。OSBボードや気密シートは使わずに、無垢の木材と木質断熱材、土で、呼吸(調湿)する躯体をつくる。

ヨハネスは、2000年代はじめ、普通の工務店で、現代主流の木造建築を学んだ。木の骨組みの間にグラスウールなどの断熱材を詰め込み、OSBボードと気密シートで蓋をして、石膏ボードを取り付けて、その上に壁紙を貼る。木という呼吸(調湿)するエコロジカルな素材の特性を、工業生産の建材で覆って閉じ込めてしまう建築に、不快さを感じた。建材の生産に大量のエネルギーも使用されている。まったくサスティナブルでない、と思った。

職人(ゲツェレ)の資格を取得した彼は、中世のころから続く伝統である「放浪の旅」に出た。彼は南米で、土を主要な建材として使う古き良き建築に出会った。土という素材の多面的な特性や土建材の製造にわずかなエネルギーしか必要ないことを、体感的に学んだ。

3年間の旅を終えてドイツに戻ってきた彼は、スタンダードな現代木造建築の現場に戻ること、すなわち一般的な工務店で働くことは、心情的にできなかった。自分がやりたい木と土の建築を、2007年から、細々と始めた。数年後にマイスターの資格も取得し、会社を設立した。最初は1人だったが、顧客も従業員も徐々に増えた。リクルートの必要はなかった。真にエコロジカルな建築を行いたいモチベーションの高い大工が彼のところに次々に集まってきた。現在、17人の従業員(うち数名は職業訓練生)を抱え、年間約200万ユーロ(約3億円)の売上がある中堅の工務店に成長した。

ヨハネスは日本人のグループに、木と土がとても相性が良いことを強調した。土の平衡含水率(重量%)は0.4〜6%と、10〜15%ある木材に比べて非常に低い。土は、絶えず木材から水分を吸い取り、乾燥させる。木材にダメージを与える害虫は、木材に生息するために、含水率が最低15〜18%、カビ菌は20%必要である。土に隣接する木材は絶えず乾燥しているので、それら虫やカビの被害に遭うリスクが少ない。建物の耐久性と人間の健康の面でポジティブに作用する。その他、木と土の組み合わせは、蓄熱、断熱、調湿、消臭、電磁波緩和など、多面的な機能を発揮する。

ヨハネスは、建築市場において土がトレンドになっていて、土壁パネル(壁暖房のパイプ入りのものも)など、新しい商品も開発され、市場が徐々に大きくなっていることも説明してくれた。彼が独立して仕事を始めた15年前は、地域の建材商社に行っても、土の建材はほとんどなかった。しかし彼のような業者が「こんな商品が欲しい」と長年言い続け、市場の需要も増えたことにより、いまでは、どこの建材店でも多様な土の商品を扱うようになった。流通量が増えると価格も安くなった。


土壁の仕上げが終わった入居間近の現場

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