【谷や沢が多い日本では】
今回の熱海の土砂災害では、谷筋の窪地に埋められた盛土(土木工事の残土など)が主要な原因との推測がされている。また尾根を削って造成されたメガソーラーや、雨が降ると土砂を運ぶ川のようになる水を制御できない構造の林道との関連性も議論されている。
いずれも、雨が多く、繊細な地質と土壌の場所では、やってはいけない開発である。私が住むドイツでは、いずれの類の開発も、幸いなことに、法的に許されていない。
土木残土を谷や沢の窪地に埋めることは、作業は楽でコストも安いから、日本全国で何十年もの間、慣行されている。だが、谷や沢は、地中と地上の水が集まる場所で、生態的にも地質・水文学的にも非常に繊細なエリアだ。できるだけ触らないほうがいい。そんな繊細で水の動きが強い場所に、残土を埋めたり、伐採残木を無造作に投げ捨てたり、水を集めてしまうような構造の道を作るのは、防災の観点では、地雷を埋めるようなもの。
10年前から年に1〜2回くらいのペースで日本の山に行って仕事をしているが、そんな地雷を各地で見るたびに、心が痛んだ。地雷が爆発して被害を受けている映像や傷跡も何度も見た。
残土を出さないような道のつくり方もある。地形に合わせ、等高線に沿った、丁寧なライン取りをすれば、土砂の掘削量は少なくて済む。また、半切半盛というやり方もある(ただし、上で削った土砂を下で盛るのではなく、押さえ踏み固めながら強固な路体をつくる)。そんな道は地形に合わせてカーブが多く滑らかで、美しくもある。一方、できるだけ最短で目的場所にたどり着きたい人間の傲慢と怠惰で、真っ直ぐに設計施工された道では、掘削量も多く、見た目もあまり良くない。
持続する道には、水を路上に集めない、加速させない、分散して、ブレーキをかけて排水する水のマネージメントが必要になる。古代ローマの道にも、日本の古道にも、それがある。雨が多く、谷や沢が多い日本では、とりわけ入念で丁寧な施工が必要になる。
人間が自然の恵みを計画的に定期的に得ていくためには、自然にアクセスするインフラが必要になる。自然の生産力も生態的多様性も防災機能もレクレーション機能も維持発展できる質の高いインフラの作り方は、昔からの知恵や経験、現代の知見や技術の中にある。
拙著「多様性」の2章では、ここの写真にあるような、日本の自然の繊細さに配慮した、美しく多機能な森林インフラ作設の事例(参照:写真)も紹介しています。