マルチタレント「バイオ炭」 - 気候保護、土壌活性、解毒、生産性向上、動物の健康促進、エコ建材
土壌改良剤としての「バイオ炭」が近年、ヨーロッパで大きな注目を集めています。バイオ炭は最近発明されたものではなく、アジアや南米をはじめ、太古の昔から人類が使用してきたものです。このルネッサンスの発端は、ブラジルのアマゾン川流域の奥地の痩せた土地で、過去の原住民がバイオ炭を活用して豊かな土壌を作り、生産性の高い農業を行っていたことが、民俗学の調査で発見されたことです。この土は、テラ・プレタ(黒い土)と名付けられ、2000年代になってから、バイオ炭の効能が、科学的に解明されてきました。
バイオ炭は、木や稲穂など植物性の原料を無酸素状態で高熱分解して生成した炭です。バーベキューに使う木炭もこれに当たります。焚き火や暖炉など、普通の燃焼であれば、植物が成長過程で空気から固定した炭素のほぼ全てが、再び空気中に放出されますが(=CO2ニュートラル)、炭生成の「蒸し焼き」では、炭素の約半分が炭に固定されます。その炭を燃やしてしまえば、焚き火や暖炉と同じになりますが、それを土壌の中に埋め込めば、1000年くらい固定されることが、考古学の調査でわかっています。
さらに、土壌に混ぜられたバイオ炭は、豊かな腐葉土の生成を促し、それによって土壌中のCO2固定量を間接的に増加させる働きもあります。土壌のCO2固定能力については、近年になって本格的な研究が始まったばかりですが、大きなポテンシャルが見られています。フランスのINRAE農業・食料・環境研究所は、世界の土壌が毎年、0.4%づつ炭素固定を増加させるだけで(平均してそれだけの固定能力があることが推定されています)、人間が排出する二酸化炭素量を相殺できると試算しています。意識的に「腐葉土を増やす」農業をすることによって、気候変動抑制に貢献できるのです。しかし現代における世界の慣行農業の大半は、化学肥料や農薬、深耕などより、土壌を不活性化し、腐葉土を減少させ、雨や風での土壌の侵食も促し、CO2固定より排出が多く、土地の砂漠化を進行させています。人類の食料問題でもあり、気候変動抑制へのポテンシャルの大きさから、循環型の生産方法への大きな転換が求められています。
ヨーロッパにおける土壌活性剤としてのバイオ炭の利用については、過去15年あまりで実地研究が進み、その確かな効能が実証されたことで、2020年末には、EUのビオ農業(有機認証農業)において、バイオ炭の土壌改良剤としての使用が許可されました。バイオ炭自体は、直接的には肥料としての効果はありませんが、超多孔質性による大きな表面積(1gの木炭で数百m2)のおかげで、土壌の保水能力を著しく高め、酸素保有量を増やします。それにより小動物や微生物が増加し、腐葉土が生成され、土壌が侵食にも強く、豊かになり、農産物の生産性も高まります。またバイオ炭は、高レベルの温暖化効果ガスであるCH4やN2Oを生成する菌を抑制する働きもあります。さらには、バイオ炭が重金属などの有害物質を固定して、植物に吸収されにくくする働きも確認されています。汚染された土壌の浄化作業に今後、バイオ炭を活用することも考えられています。
畜産業においても有用なことが確認されていて、バイオ炭を飼料に混ぜることで、動物の胃腸での消化を助けます。糞尿溜桶に投入すると、メタンの発生を抑制し、臭い消しにもなります。畜舎の敷き藁に混ぜると、pH値が上がり、牛の蹄病の予防にもつながります。それらバイオ炭が混ざった糞尿や敷き藁を土壌に肥料として撒くことで、土壌の腐葉土増産につながります。
また、多孔質のバイオ炭は、建築の分野でも注目されています。高い調湿能力と断熱性能のポテンシャルへ期待が集まっていて、現在、塗り壁材へ混入し、調湿能力を高めたり、断熱材として使用するための開発研究が行われています。
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