公共善エコノミー、日本だからこそできる
公共善エコノミーの考え方とも共鳴する団体「一般社団法人・価値を大切にする金融実践者の会:JPBV」の代表でもある江上広之さんのファシリテートで、2月15日に、オンラインにて「ABD読書会(アクティブ・ブック・ダイアローグ®)」を開催しました。
12人の参加者が、約260ページの『公共善エコノミー』を分担して読み(約30分)、要点をまとめ、それぞれ2分間で順番にプレゼン・リレーをして、最後に対話をする、という新しい読書法です。
私ははじめての経験でしたが、自分が正味2ヶ月くらいかけて翻訳した本が、みんなで分担して90分で読まれ発表される、というスピード感に圧巻。参加者の方の緊張感とエネルギーが伝染しました。清水菜保子さんの担当部分のプレゼンを、許可を得て、ここに掲載します。
対話の時間では、日本で公共善エコノミーを実践する際の課題・問題点や、すでに実践が進むヨーロッパ社会と日本社会の相違点に関する意見がでましたが、日本だからこそできる、という勇気づけられる下記の発言も、新田信行さんからありました。
「全般的な感じとして、私は日本に入れられると思っていて、違和感ないんです。ヨーロッパが進んでいて、日本ではやりにくいとは、私は感じていないです」
新田さんは2010年代に、メガバンク(みずほ銀行)の常務執行役員から、第一勧業信用組合の理事長になり、経営を立て直されました。第一勧業信用組合は、新田さんのリーダーシップのもと、2018年に日本で最初の銀行としてGABV(価値を大切にする金融の世界連合)に承認され、加盟しました。
新田さんは、2020年に信用組合の理事長を引退されましたが、その後も、地域金融、ソーシャル・ファイナンス、バリュー・ベースド・ファイナンスの分野で、企業の顧問、協会の理事、大学の客員教授などとして、日本全国を飛び回って活躍されています。
「公共善エコノミー」は、資本主義と社会主義の間にある「第三の道」と称されていますが、オープンエンドのボトムアップのコンセプトで、「イズム(=主義)」ではありません。過去にドイツで、GABVの中心メンバーであるGLSとも交流されている新田さんは、公共善エコノミーの上記の本質もしっかり理解されていて、参加者の方に、次のようにアピールされました。
「このようなものは、政府とか大企業がつくるものではなく、草の根で、私たち(中小企業や市民)が積み上げていくものです」
日本でもできる、いや、日本だからこそできる、という確信を、新田さんは持たれています。その根拠は、日本に協同組織の伝統があること、戦後は、信用金庫や労働金庫などの協同組織が支えてきた側面があこと、現在でも協同組織が生きていて、バーリュー・ベースド・バンキングなどの活動も行われていることなどです。
私も新田さんと同じ感触を持っています。公共善エコノミーが提唱する人間社会の基本的価値観は、現代にも受け継がれている日本の社会の慣習や伝統のなかに多々あります。日本の伝統的な村落社会には、「結」などの助け合いの文化がありました。意見をぶつけ合う「議論」ではなく、「話し合い」の文化も現在まで維持されています。稟議に代表されるような「コンセンサス」の文化もあります。会社や団体での意思決定も、形式的には階層構造(ヒエラルキー)がありますが、内実は関係者全員の意見を聞いた上での決定のプロセスがあります。同業種間では、競争だけでなく協働を促すメカニズムも発達しています。企業の幹部役員と一般従業員の間の給料の格差も、日本の大企業は、欧米の先進諸国のそれと比べて、はるかに小さいです。不況のときに、まず幹部の給料が下げられる、ボーナスがカットされる、といった日本的な対応は、欧米では考えられません。
新田さんは、日本の中小企業の日本的経営と公共善エコノミーの協奏のポテンシャルについても期待されています。日本語版の初版に、次の推薦文を書いていただきました。
「お金は手段であり目的ではない、とは私の信念でもあります。従来の会計手法では、本来の日本的経営の価値を認識出来ません。日本の中小企業の事業価値を顕在化し、更に磨き育てるための世界との共通言語として、公共善エコノミーに注目しています。」
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