日本ハム・新庄新監督に期待したいこと

 オリックス対ヤクルト。現在行われている、プロ野球の日本シリーズ。だが、その注目度は決して高そうには見えてこない。その平均視聴率は、第1戦が8.6%、第2戦が7.3%(ともに関東地区)。同じプロ野球関連のニュースで言えば、大谷翔平のMVPに関する話題の方が、ここ最近は圧倒的に多くを占めていたと思う。大谷というメジャーリーガー個人の活躍の方が、日本一決定戦よりも、ニュースとしての価値が高い。それが顕著に表れた瞬間だった。

 ヤクルトは6年ぶり、オリックスに関しては、25年ぶりの日本シリーズ出場になる。一昨年と昨年の2チーム、ソフトバンク対巨人と比較すれば、その対戦カードが比較的地味に見えることはたしかだ。東京と大阪という、それぞれが大都市に本拠地を持ちながら、日本シリーズを戦っているこの両チームの存在感は薄い。少なくとも、巨人、阪神、広島、ソフトバンク、日本ハムよりは下に見える。

 何より有名な選手が少ない。山本由伸、吉田正尚、村上宗隆、青木宣親。両チームの選手を挙げろと言われて、パッと名前が出てくるのはせいぜいこのくらいだ。監督の知名度も同様。ヤクルトの高津臣吾監督は、現役時代の活躍がイメージしやすい有名な選手だったが、その一方、オリックスの中嶋聡監督は、主に控えの捕手として活躍した、かなり地味目な選手になる。現役年数こそ長かったものの、決して目立つタイプの選手ではなかった。年齢は両者とも52歳。高津監督の方が、抑え投手としての姿が印象的な知名度の高い選手ではあったが、それでもスーパースターというわけではなかった。同時期にヤクルトで活躍した選手で言えば、古田敦也や稲葉篤紀の方が、そのスター性という点では上だった。

 古田は現役時代の最後の2年間、選手兼任監督として、ヤクルトの指揮を取った。結果は3位(2006年)と最下位(2007年)。だがそれ以降、監督やコーチといった現場に復帰することはなく、主に解説者として、メディアを中心に活躍している。

 一方の稲葉は、次期ヤクルト監督と言われながら、日本代表打撃コーチを経て、2017年にそのまま日本代表監督に就任。目立った監督経験がないにも関わらず代表監督に就任するという、多少の驚きをファンに与えることになった。当初は心配されたものの、プレミア12などの国際大会で優勝。そして、今年8月に行われた東京オリンピックでは、日本に悲願の金メダルをもたらすことに成功した。

 そんな稲葉が五輪後、古巣の北海道日本ハムファイターズのGM(ゼネラルマネージャー)に就任した。そして、その日本ハムに来季から新監督として招かれたのが、元メジャーリーガー・新庄剛志だった。

 10月の下旬頃、ほぼ同時期に発表されたこの人事。筆者には非常に興味深く見える。

 新庄と稲葉。この2人に抱く筆者のイメージは、ほぼ正反対だ。何事も派手な新庄と、控えめで真面目な稲葉。かつての同僚でもあるこの両者は、いったいどんなチームを作り上げるのか。個人的には大谷の活躍よりも気になって仕方がない。

 「名選手、名監督にあらず」。スポーツ界でよく耳にする格言だが、これは野球にもよく当てはまる気がする。名選手が名監督になった例は、思ったほど多くない。巨人の原監督や、ソフトバンクの工藤監督が名監督かと言われても、元々戦力的に優れたチームなので、ハイと素直に頷きにくいのだ。

 逆に名監督に見えるのは、野村克也、落合博満といった、弱いチームを強くした監督の方になる。ヤクルトや中日という、下位に低迷していたチームを上位に押し上げ、一時代を築いた監督。少なくとも僕はこちらの方にカリスマ性を感じるのだ。

 新庄監督は現役時代、いや、現役を引退してからも、常に華やかというか、そのスター性をこれまで存分に発揮してきた。監督になったいまもそれは変わらない。同じく来季からの監督就任が発表された中日の立浪新監督と比較すると、その違いは鮮明になる。現役時代の成績だけで言えば、新庄よりも立浪の方が上だ。元ミスター・ドラゴンズ。この人にも本来ならばもっと注目が集まってもおかしくないと僕は思う。だがそれでも、話題性が高いのは新庄監督になる。毎週のように「サンデー・ジャポン」(TBS)で取り上げられることは、“立浪新監督誕生”では不可能なことなのだ。

 しばらく野球から離れていた人を再び引き戻すような、あるいは、これまで野球を見ていなかった人も惹きつけそうな、そうした魅力が“新庄新監督誕生”にはある。少なくとも話題性に関して言えば、日本のプロ野球に大きく貢献するニュースであることはたしかだ。

 新庄が監督に就任したことで、日本ハムというチーム自体への注目度も、これまた飛躍的に高くなるだろう。その注目度は、12球団でおそらくダントツ。だが、そんな新庄には、監督はおろか、コーチの経験も一度もない。さらに言えば、引退してからの15年間、野球に対してどのように関わっていたのかも、あまりよくわからない。引退後の姿を見た限り、監督として念入りに準備をしていたようには、とてもではないが見えないのだ。失礼ながら、その監督就任は、正直“博打”といっても大袈裟ではないと思う。

 そこに稲葉GMがどう関わるのか。重要なのはここだ。早い話、新庄監督だけでは危なかっしい。裏でうまくコントロールできる人間が必要だと筆者は見る。それが稲葉GMなのか、それとも現場のコーチ陣なのかは、まだシーズンが始まってみないとわからないが、日本ハムが野球ファンにとって目が離せないチームなのは間違いない。

 日本のプロ野球界を盛り上げる、人を惹きつけるような喋りやパフォーマンスを、どれほど見せることができるか。それで成績も残せば文句なし。スター性がさらに上昇すること請け合いだが、問題は結果が出ないとき、出なくなったときになる。あの感じで負けが続けば、「それ見たことか!」と周りからも言われかねない。救いなのは、最近のチームの成績が良くないこと。5位(2017年)、3位(2018年)、5位(2019年)、5位(2020年)、5位(2021年)。過去5年間でAクラスは一度だけ。しかも現在は3年連続で5位と、絵に描いたような低迷中だ。新人監督が就任するチームとしては、その立ち位置は決して悪くない。少々結果が出なくも、そう批判されることもないだろう。引退した翌年にすぐさま巨人の監督に就任した高橋由伸に比べれば、そのプレッシャーは軽いはずだ。伸び伸びとした采配を振るうことができる環境は整っているように見える。

 いまひとつ地味なプロ野球に再び活気を取り戻して欲しい。すでに「ビッグボス」が流行語になりつつあるようにも見えるが、やはり見たいのはおもしろい試合。おもしろい野球だ。敬遠の球を打ったり、ホームスチールをしたりする姿が印象的な、新庄新監督が目指すのは、いったいどんな野球なのか。これまでの監督像からは大きくかけ離れた人物だけに、その手腕にはとりわけ注目したい。新庄新監督からは目が離せないのだ。

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