コスタリカ戦でスタメン4人を入れ替えたなでしこジャパン。次戦スペイン戦の選手起用が決勝トーナメントの行方を左右する
コスタリカを相手に2-0。なでしこジャパンは3戦目のスペイン戦を前に、グループリーグ2連勝で早々に決勝トーナメント進出を決めた。
現在行われているサッカー女子W杯。開催地はオーストラリアとニュージーランドの共催である。その利点を日本在住のサッカー好きとして言わせてもらえば、日本との時差がほぼないことだ。この先勝ち進めば準決勝までをグループステージ同様、ニュージーランドで戦うなでしこジャパンだが、その時差は日本とはわずか3時間。大抵の試合がいわゆる日中に行われる。なでしこジャパンの試合で言えば、ザンビア戦が日本時間の午後4時キックオフで、コスタリカ戦は午後2時が試合開始時間だった。そして本日行われる3戦目のスペイン戦が午後4時。現在夏休み中の子供などが目にしやすい、欧州で行われる試合とは異なる、日本人にとっては比較的視聴しやすい時間帯である。
決勝トーナメント進出を決めた日本は、その先の日程もすでにある程度は決まっている。決勝トーナメント1回戦が行われるのは8月5日の土曜日で、それに勝てば、次の準々決勝が行われるのは8月11日の金曜日(山の日)。いずれも休日というわけで、それなりに試合を目にする人は多いと思われる。いまのところ日本での盛り上がりはいまひとつな女子W杯だが、振り返れば12年前、日本が初優勝をはたしたときも確かこんな感じだった。当時はいまよりもさらにその注目度は低かったと筆者は記憶する。12年前のW杯でなでしこジャパンへの注目度が一気に上昇したのは、準々決勝で強豪ドイツを下し、ベスト4に進出した辺りからだった。開幕当初の注目度が低かった分、そこで一気にニュース性、話題性が高まったという感じだった。そこから準決勝のスウェーデン戦、そして決勝のアメリカ戦と、多くの人が目を凝らすなかで見事な初優勝を飾ったことはいまだ記憶に新しい。
ドイツ戦、スウェーデン戦、アメリカ戦はいずれも相手のほうが格上だった。日本の優勝はまさに番狂わせそのものだった。大会前に日本が優勝すると予想した人は、世界はもちろん、日本人にもおそらくいなかったと思われる。体の大きな外国人選手相手に高い技術で対抗するなでしこジャパンのサッカーは、日本人にとってはまさに痛快劇そのものだった。
あれから12年。なでしこジャパンの目指すその方向性は大きく変わっていない。高いボール操作術を武器に主導権を握ろうとする、技術力を全面に出したサッカーである。
日本代表の成績はそんな12年前をピークに、現在までどちらかと言えば下降傾向にある。だがそれは日本が弱くなったというより、他国も日本のような高い技術を手に入れたことでより強くなったというのが大きな要因に他ならない。その結果、日本がかつてのように簡単に技術で相手を上回ることができなくなった。技術的に相手と互角近くになれば、今度はそれとは別の戦いが目につくようになる。体格勝負の不利な戦いを強いられれば、必然的に日本にとって分は悪い。日本が強豪相手に失点する場面の多くは、そのフィジカル的な差でやられたという印象がこちらにはとりわけ強く残っている。
だが、それでもなでしこジャパンはそう簡単に世界に先は越されなかった。その日本の技術は依然として世界のトップレベルにあると見る。ザンビア戦とコスタリカ戦を見てそう思った。相手がこちらの予想より弱かったこともあるが、それを差し引いても、日本のボール操作術の高さは目立った。2試合を通じて相手に危ない場面をほとんど作らせなかったことがその証だ。
今日戦うスペインは、大会前のブックメーカーの優勝予想で3番人気につけていた、言わずと知れた強豪。現在の日本の技術がどれほど通用するかを推し量るには、まさにこれ以上ない相手となる。女子のスペイン代表については詳しくないが、男子のスペイン代表が世界でも指折りの技術を売りにするチームであることは言わずもがな。そしてその気質は少なからず女子のスペイン代表にもあると見る。この日本対スペイン戦はまさに技術を売りにするチーム同士の戦い、現在の女子サッカーのレベルを測るためには見逃せない試合だと思う。
とはいえ、この日本対スペインは、両チームにとって絶対に勝たなければならない試合というわけではない。すでに決勝トーナメント進出を決めたチーム同士による、いわゆる消化試合にあたる。1位通過か2位通過を決めるだけの、比較的緩い設定のなかで行われる試合だ。得失点差で日本を上回るスペインが引き分け以上ならばスペインの1位通過が決まる。日本が1位通過するためにはスペインに勝利することが必要だが、はたして日本にその気概はどれほどあるのか。気になるのはそこになる。日本はこのスペイン戦にいったいどのようなスタンスで挑むのか。
日本が属するグループCの勝者が決勝トーナメントで戦う相手はグループAの通過チームで、その相手はすでに決まっている。仮に日本が1位通過であれば相手はノルウェー(グループA・2位)で、2位通過であればスイス(グループA・1位)となる。大会前の優勝予想ではノルウェーが12番人気で、スイスが17番人気。いずれも日本より少し下に位置するチームだった。アメリカ、イングランド、ドイツ、フランスなど、いわゆる優勝候補のチームと早々には当たらないこの組み合わせは、ある意味恵まれたと言っていいだろう。グループリーグの組み合わせも含め、日本は今大会組み合わせに運がある。その幸運を活かすことができるか。そうした意味でも注目はスペイン戦のスタメンになる。
コスタリカ戦。日本の池田太監督は、初戦のザンビア戦からスタメンを4人入れ替えて挑んだ。また選手交代枠も5人全て使っている。この2試合で出場した選手は、全23人中19人。フィールドプレーヤーでは20人中18人をすでにピッチに送り出している。2戦とも楽勝だったとはいえ、これは悪くない傾向にある。2試合フルに出場したのは、フィールドプレーヤーではキャプテンの熊谷紗希と南萌華、そして長谷川唯の3人のみ。いわばこの3人がチームの中心選手と言っていい。その他は誰がスタメンなのかわからない、いい意味でチームが混沌とした状況にある。誰が出でもそれなりにやれるというか、選択肢の多そうなチームに見える。前任者の高倉麻子監督がどちらかと言えば固定したメンバーで戦っていただけに、池田監督のこの選手起用法は光って見えるのだ。
池田監督はスペイン戦にどのようなメンバーを送り込むのか。先述したように、この試合は無理に勝つ必要は全くない。1位通過でも2位通過でも、次戦の相手の強さはさほど変わらない。早い話が余裕がある。そこで敢行すべきは、この2試合で出場機会の少なかった選手を可能な限り使うことだ。まだ出場していないフィールドプレーヤーも2人いる。これらのメンバーをうまく使い回し、決勝トーナメント以降の試合での選択肢を可能な限り増やすこと。その数が多いほどなでしこジャパンの可能性は高まる。ベスト8以降の戦いに期待が持てる。少なくとも筆者はそう考える。
GKを除けば、絶対に外せなさそうな選手は先述の熊谷と長谷川、それに右ウイングバックの清水梨紗を加えた3人くらいだろう。その他は誰がスタメンでもおかしくない、それなりのレベルにある選手がひしめき合っている。メンバーのやりくりにはとりわけ注目したい。
もうひとつ挙げるとすれば、チームとして効いているのは、ここまでの2試合で1トップとしてスタメン起用されている田中美南。体格的には決して大柄ではないが、そのキープ力を活かしたポストプレーは日本の攻撃をより円滑にしている。この先の強豪相手にどれほど通用するかはわからないが、彼女の出来がなでしこジャパンの浮沈のカギを握ると言っても過言ではない。その技巧的なプレーにはとりわけ目を凝らしたい。
繰り返すが、スペイン戦で最も注目すべきは日本の選手起用法だ。スタメンとサブの境界をいかになくすか。スペイン戦をどのように捉えているのかは、そのスタメンを見れば鮮明になる。優勝候補相手に実験的な戦いができればシメたもの。そのスタメンに目を凝らしたい。