ボーダー争いが盛り上がるなかでダントツ最下位に沈むBEAST。その致命傷となった試合とは

 レギュラーシーズンも終盤に差し掛かったMリーグ。この時期における最大の見どころはなんといってもボーダー争いだろう。

 セミファイナルに突入すれば、進出チームのポイントは全て半分に減らされる。ファイナル進出の際も同様に半減する。つまり、現在のチームポイントからファイナルまで持っていくことができるのは、レギュラーのわずか4分の1というわけだ。現在1000ポイント近くを稼いでいる首位を独走中の赤坂ドリブンズだが、仮にこのままファイナルまで進んだとしても、貯金はせいぜい250ポイント程度に過ぎない。現状ポイントがマイナス圏にいるチームにも十分逆転可能。レギュラーさえ突破すればどのチームにも優勝の希望はある。

 セミファイナルに進出できる6位以内に入れるかどうか。今季の結果次第で来シーズン以降のチーム状況はそれこそ激変する。ボーダー争いのほうが優勝争いよりむしろ面白いとは率直な感想だ。

 昨日(1月31日)の試合はそうした意味でも大きかった。TEAM雷電、渋谷ABEMAS、KADOKAWAサクラナイツという、ボーダー(6位)を争う3チームが顔を揃えたこの日、その1番のハイライトは、2試合目でトップを獲得した本田朋広選手(TEAM雷電)の和了だろう。第2試合の南3局1本場。七対子、西の地獄単騎待ちをリーチ一発ツモで決めた親の倍満8000オールだ。

 今シーズンここまで目にした和了のなかでは間違いなく一番。今季はすでに役満が2回出ているが、インパクトではそれよりも断然上だ。「マジで」、「嘘だろ」と、こちらも画面を見ながら思わず呟いてしまったほど。他の選手には真似できそうもない、まさに超弩級の一撃だった。

 本田選手のトップで再びポイントをプラス域へと戻すことに成功した雷電。一方でこの日最も辛酸を舐めることとなったのはKADOKAWAサクラナイツ。先日渋谷ABEMAに抜かれ敗退圏の7位に沈んだが、昨日の連続4着によって負債はさらに増加。ついにEX風林火山を下回る8位まで転落した。

 サクラナイツが浮上できない、その要因は岡田紗佳選手の不調だろう。今季ここまでトップゼロ。個人成績も現在▲(▲はマイナス)500越えの最下位という、最近順調そうに見えるタレント活動とはうってかわった負けっぷりだ。それに加えて起きたのが先日発生した炎上騒動である。実況の日吉辰哉さんではないが、その例の炎上の一件もここ数試合のサクラナイツに悪い“風”を吹かせたような気がしてならない。2人続けて連続ハコ下に沈む姿に何か見えない力のようなものを感じたのは確かだ。

 だが過去にレギュラーシーズンで敗退したことがないサクラナイツがボーダーを争う姿はそれはそれで面白いと言える(サクラナイツファンには申し訳ないが)。もう一つのレギュラー敗退が未だないチーム、渋谷ABEMASも今季ここまで苦しい戦いが続いていたが、好調の白鳥翔選手や日向藍子選手の活躍によりついにボーダー上の6位へと浮上した。このままレギュラーを突破できればチームはかなり勢いづくはずだ。そこに多井隆晴選手や松本吉弘選手が復調できればまさに鬼に金棒。ポイント的にまだ余裕はないが、それでも一時に比べれば状況はかなりよくなった。今季のボーダーを争う鍵を握るチームだと見る。

 前半戦で一時はチーム過去最大とも言える▲500ポイント越えの負債を抱えていたABEMAS。昨年12月2日時点でのポイントは▲516.7ポイントの8位で、その時9位のBEASTは▲524.2ポイントだった。ABEMASとBEAST。2ヶ月前にはほぼ並んでいた両チームだったが、現在は明暗が大きく別れている。ABEMASがそこから徐々に上向きに転じたのに対し、BEASTはそこからさらに下降。現在チームは▲1000ポイントを越え、もはや完全に蚊帳の外に置かれた状況にある。

 繰り返すが、2ヶ月前まではABEMASとBEASTはほぼ横並びだった。つまりこの段階ではBEASTにもまだ可能性は十分残されていたわけだ。うまくいけば「渋谷ABEMAS」になっていたかもしれなかった。この12月2日はBEASTの菅原千瑛選手が連闘による同日連勝を達成するなど、劇的な試合展開も含めとりわけ印象に残っている。いま振り返れば、ここで波に乗れていれば、チームは少なくとももう少し可能性の残る位置に留まることができたのかもしれない。

 今季のBEASTにとって最も重要だった試合は、上記の菅原選手が同日連勝により踏みとどまった次の試合。昨年12月6日に行われた2試合だったとは筆者の見解だ。

 12月6日の第1試合、東3局0本場。9巡目に一向聴となった3着目の中田花奈選手は、そこで選択を迫られた。すでに1筒が場に4枚切れた状況のなかで実況と解説が勧めていたのは、2筒と3筒のリャン面塔子払い。6筒を暗刻と7筒を1枚持っていたので、そこで面子と雀頭を作ることができる。そうした解説者のコメントの最中、中田選手があっさり切ったのは7筒だった。「あっ、そっち行ったか」と実況の日吉さんが漏らしたその3巡後、2筒か3筒を切っていれば(7筒を捨てなければ)リーチが打てていた5筒を不運にも引いてしまう。いわゆる選択が裏目になってしまう格好となった。

 もし9巡目に7筒を切らずにリーチが打てていれば、中田選手の待ちは3、6萬(リーチ、平和、赤1)だった。そして中田選手の選択が裏目となった2巡後、ラス目だった下家の親番、雷電の瀬戸熊直樹選手から先制リーチが入る。そのリーチ宣言杯は3萬。タラレバだが、もし中田選手が先に聴牌していればロンで和了ることができていた牌だった。

 話を進めれば、先制リーチの瀬戸熊選手は一発でドラの5索(しかも赤)をツモり、親の跳満6000オールを決め大復活。一方で上がりを逃した中田選手はそこから攻めるも放銃が嵩み結果はハコ下の4着。BEASTの上昇ムードに水を差す、今振り返るとかなり手痛い半荘だった。

 麻雀というゲームの性質上、タラレバを言えばキリはないが、それでもこの試合がBEASTの致命傷になったとは率直な意見だ。瀬戸熊選手にあがらせずラスを押し付けることができていれば、もしくは3着以内であれば、その後の展開は変わっていた可能性が高い。

 中田選手が4着に沈んだ直後の2試合目。オーラス南4局を2着で迎えた猿川真寿選手には、あがれば逆転トップになれるそれなりの手が入っていた。役牌中の後付けを目指し仕掛けるも、直後に不運にもラス目の親番本田選手から先制リーチが入ってしまう。ヒントの少ない8巡目のリーチに猿川選手が一発で切った1索は、無情にも高目3色同順の跳満(18000点)の放銃となった。

 同日連勝で「さあ、これから」というところからの連続での4着。もし第1試合で中田選手が4着でなければ、あのオーラスでの猿川選手の放銃はなかったのではないか。余裕のないチーム状況。そのために危険は承知でも攻めざるを得なかった。そうした見方は十分できる。この日以降、BEASTの負債は試合ごとに増えていった。個人的にはそんな印象だ。

 2日前(1月30日)、第2試合に久しぶりに登場した中田選手は今季8回目となる4着に沈んだ。不運もあったが、勝負どころで弱気になった結果放銃するなど、周りとの実力差を感じたことも事実だ。ここで少し話は逸れるが、この日の2試合目には予め鈴木大介選手の登板が元々決まっていたという。大介選手が体調不良のため、代わりに中田選手に出場したと聞く。現在出場試合数が今季全Mリーガーのなかで最も少ない(13試合)中田選手だが、先述の事情によれば本来ならさらにもう1試合少なかったわけだ。

 チームから期待されているとはまるで言い難い。その起用法を見ると思わずそう言いたくなる。そうした選手になぜ今シーズン最も重要な局面(同日連勝直後の試合)を任せたのか。今季のBEASTの敗因を挙げるならばここになる。繰り返すが、乗るかそるかを分けたチームのカギを握る試合だったと僕は思う。

 最後にひとつ加えれば、連闘が多いというのも個人的にはあまりいいものには見えてこない。「チーム一丸で頑張りたい」と選手の口からよく聞くが、同じ人が続けて出たり、一定の選手に出場機会が片寄るチームにはそれをあまりを感じないというのが率直な感想だ。たくさん出ている選手がそれを言っても説得力はあまりない。選手は試合に出たいに決まっている。そうした意味では、今季は連闘の少ないチームが上位にいることに僕は必然を感じる。

 キチンと調べたわけではないが、ドリブンズやセガサミーフェニックスはおそらく今季連闘はないのではないか。逆に連闘権でお馴染みのサクラナイツや、風林火山、BEASTといった連闘の多いチームが現時点では揃って下位に沈んでいる。全員がほぼ均等に出場するチームこそまさにチーム一丸。選手のモチベーションが高まる、チームの理想系とは筆者の考えである。

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noriaki0357
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