三笘を活かすも殺すも監督次第。僕が森保監督続投に反対する理由

 先日のプレミアリーグ、対レスター戦での三笘薫のゴールは凄かった。左サイド高い位置でフリーでボールを受けるや、中央へカットイン。ペナルティエリア外から右足でやや巻き気味に放った、豪快なミドルシュートだ。欧州でプレーしている他の日本人選手には真似できそうにない、まさに圧巻のスーパーゴールだった。

 三笘はその前の試合でも大活躍した。相手はリバプール。昨シーズンプレミアリーグ2位のチーム、さらにはチャンオンズリーグでも準優勝した、欧州を代表する強豪クラブだ。そんな昨シーズン欧州ナンバー2のチームを相手にしながらも、三笘は終始怖い存在であり続けた。試合は3-0でホームのブライトンが完勝。三笘がボールを持つたびに、リバプールのディフェンス陣は恐怖にさらされていた。得点こそなかったが、誰がどう見てもその存在感は最後まで際立っていた。アタッカーでありながら後半のロスタイムまで出場したことが、その活躍が目立ったなによりの証になる。

 ブライトンこと、ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCは、プレミアリーグの中では決して強豪クラブでは全くない。2017-2018シーズンに初めてプレミアリーグに昇格してから、今シーズンがまだ6シーズン目。昨シーズンの9位がプレミアにおける最高成績になる。チームの目標は最低でも残留、2部降格さえ免れればよしといったところだろう。早い話、プレミアの中では弱小だ。だがその割にはというか、三笘をはじめ、現在のチームにはよい選手が数多く揃っている。

 チームで背番号10番を付けるのは、先のワールドカップでアルゼンチン代表の優勝に大きく貢献した、アレクシス・マク・アリステル。三笘同様、ワールドカップを経て評価を大きく高めた選手のひとりになる。さらには左サイドバックとして三笘を後ろからサポートするペルビス・エストゥピニャンと、マク・アリステルと共に4-2-3-1の守備的MFを務めるモイセス・カイセド。同じくカタールワールドカップでプレーしたこの若い2人のエクアドル人選手も、知る人ぞ知る好選手になる。このままチームが好調を続ければ、今後はさらに大きなクラブに引き抜かれる可能性は高い。他にも元イングランド代表はもちろん、元オランダ代表や元スペイン代表など、それなりの実力者が要所に顔を揃えている。

 この文章を書いている時点での現在のブライトンの順位は6位。CL出場圏内(4位以内)はやや難しそうだが、それでもチームの予算規模などを踏まえれば、現在の戦いぶりは大健闘に値する。よい選手を集める力、フロントの選手の選択眼に拍手を送らざるを得ない。選手の顔ぶれを見れば現在の順位にも十分納得できるが、加えて言えば、イタリア人指揮官ロベルト・デ・ゼルビ監督のサッカーも悪くない。今シーズン途中にチェルシーに引き抜かれた前監督、グレアム・ポッターよりも攻撃的で見栄えがいい。リバプール戦の内容を見ればそれはよくわかる。また、この監督交代を機に、三笘の出場時間も大幅に増えることになった。ワールドカップ後のリーグ戦ではここまでの5試合全てでスタメン出場。その活躍ぶりと出場時間とは密接な関係がある。

 この調子で活躍を続ければ、それなりのクラブが三笘をこのまま放っておくことは考えにくい。現在25歳。5月には26歳になる。アタッカーとして今後のステップアップを考えれば、年齢的にはギリギリだ。CL出場クラスのチームに行くためには、今シーズン終了後がおそらく最大のチャンスだろう。日本史上最高のドリブラーと言える選手がCLという最高峰の舞台で活躍する姿を見てみたいとは、日本人のサッカーファンとしては当然の心情になる。

 この冬、PSVからリバプールに移籍したオランダ代表FWコーディ・ガクポのように、W杯やEUROなどの国際的なトーナメントの後には、そこで活躍した選手が財力のあるビッグクラブに買われていくケースが目立つ。今回のW杯は11月開催だったためこれまでほど活発というわけではないが、注目すべきは移籍市場が閉まる1月末までの間と、今シーズン終了後だろう。W杯で活躍し、勢いそのままにリーグ戦でも輝きを放っている三笘は、欧州でプレーする日本人選手のなかでは今後の移籍市場で間違いなく1番の注目選手になる。

 カタールW杯。三笘がいなければ、日本のベスト16という成績はおそらくなかったのではないか。少なくとも僕はそう思う。カタールW杯の日本代表で、最も活躍が目立った選手。もっと言えば、現時点における日本人ナンバーワンの選手とはこちらの見立てだ。だが日本が戦った全4試合において、三笘は全て途中出場に終わっている。スタメン出場はゼロ。にもかかわらず、大活躍した。これをどう見るべきか。

 言いたいことは他にもある。それは森保一監督が三笘を起用したポジションだ。従来の4-2-3-1や4-3-3の左ウイングではなく、大会本番で急遽採用した5-2-3(あるいは5-4-1)の左ウイングバック(WB)。相手ゴールに近い高い位置ではなく、自軍ゴールに近い低い位置で、全4試合に起用した。交代相手は4試合全て同じ、ベテランの長友佑都とのチェンジ。いわばDFのポジションに、日本で最も突破力のある選手が起用されたというわけだ。そして繰り返すが、そうした低いポジションで起用されたにもかかわらず、出場した全ての試合において三笘は活躍した。ドイツ戦での先制点の起点となったドリブル突破と、スペイン戦での田中碧の決勝ゴールとなった例のアシスト。また、敗れたコスタリカ戦での決定的なチャンスや、スペイン戦の先制点のきっかけとなったプレッシングなど、日本のチャンスのほぼ全てに三笘は絡んでいたと、思わずそう言いたくなる。クロアチア戦における最大のハイライト、その延長戦で見せた単独ドリブル&シュートも印象深い。得点こそなかったが、間違いなくMVP級の活躍だったと言い切れる。

 だがそこで純粋な疑問が生まれる。もし三笘が従来のポジション(左ウイング)で起用されていれば、どうなっていただろうか。あるいはスタメンとしてもっと長い時間ピッチに立っていれば、さらに大きな活躍していたのではないか。日本はもっと世界を驚かせることができたのではないか、と。大会後、こうした感想を抱いた人はおそらく多かったのではないだろうか。何を隠そう、筆者がそうだった。

 三笘だけに限らない。エースと期待されながらも無得点に終わった伊東純也と鎌田大地にも似たようなことは言える。この2人は三笘とは異なり全4試合に先発したが、大会前に期待されていたほどの活躍を見せることはできなかった。伊東はスペイン戦で堂安律が挙げた先制点の起点となったプレッシングが印象に残るが、得点シーンでの活躍はこれくらいだった。また鎌田は調子そのものが悪かったのか、存在感はどの試合でもいまひとつだった。だが、彼らがままり活躍できなかった理由を考えたとき、1番に挙げたくなるのは監督が採用したその布陣に他ならない。これまで使用していた4-2-3-1から、守備的な5バックに変更したこと。4-2-3-1の1トップ下が最も輝けるポジションであろう鎌田にとって、多くの時間プレーさせられた5-2-3(5-4-1)の左サイドは酷だった。鎌田の適性はサイドにはない。1トップ下、あるいは守備的MF、もしくは1トップでも面白い。少なくとも僕はそう思っているが、森保監督はそんな日本の実力者を彼が苦手とするサイドに近いポジションで起用した。

 4-2-3-1あるいは4-3-3の右ウイングを得意とする伊東の場合も鎌田と同様、得意なポジションでプレーをさせてもらえなかったという印象が残る。5-2-3で言えば、「5」の右ウイングバックでプレーした時間が最も長かった。三笘とは違い右の高い位置や左の高い位置でもプレーしたが、チーム全体が守備的な姿勢だったために、結局その持ち味を存分に発揮することはできなかった。おそらく本人にとってはさぞ悔いが残る大会だったのではないかと想像する。

 鎌田は次回のW杯もまだ十分いける年齢(現在26歳)だが、伊東は現在29歳だ。3年半後は33歳になっている。スピードが売りのアタッカーとしては、次回は難しい年齢と言ってもいい。このカタールW杯が選手人生のピークで迎えた大会だった可能性が高い。それは代表漏れした大迫勇也を見ればよくわかる。32歳で迎える今回のカタールW杯が近づくにつれて、大迫のコンディションはみるみると低下。ロシアW杯時のような稼働はもはや望めなくなった。それでも僕は大迫を招集すべきだと思ったが、森保監督は非情にも大迫を最後の最後に外した。大迫以上のベテラン、活躍が望めそうになかった長友を招集し全試合にスタメン起用した。

 1トップに大迫。そして2列目に左から三笘、鎌田、伊東が構える4-2-3-1を僕は本番で見たかった。だが、森保監督にその考えは最初からなかったようだ。大会直前に怪我でリタイアした左サイドバックの中山雄太の代わりに町野修斗を追加招集した時点で、三笘を左のウイングバックで使う目処を立てていたことがよくわかる。三笘を長友と併用しようと考えていたわけだ。大会直前に、これまでとは異なる(守備的な)サッカーをしようと企てていたことも問題だが、大迫を外して、わざわざ追加招集した町野を一度たりとも使わなかったこともまた、同じくらい罪深い。長年代表に貢献してきた大迫への敬意を欠いたことはもちろん、町野に対する礼儀も欠いたわけだ。そうした選手起用にも、この監督の力量を見てとることができた。

 史上初のベスト8が懸かった、決勝トーナメント1回戦の対クロアチア戦。前田大然が挙げた先制点以外、日本にチャンスらしいチャンスはほとんどなかった。唯一惜しかったのは、先ほど述べた延長戦での三笘のシュートくらいになる。その理由、チャンスが少なかった要因は、相手の3トップに対して日本は常に最終ラインに5人が構えていたからだ。後ろに相手より2人も多く人員を割けば、前方には当然人が少なくなる。そうなれば、パスが繋がらなくなるのは当たり前だ。決定的なチャンスが生まれるはずもない。そうした面白味に欠けるサッカーを、日本はあろうことか120分間も世界に向けて披露してしまった。PK戦を最初から望むような戦いをしながらPK戦で無惨にも敗れる姿は、散り方としては救いようがない。だったらなぜ最初からもっと攻めなかったのか。この試合を見た世界中の多くのサッカーファンがおそらく日本に対してそう思ったに違いない。

 ドイツとスペインに勝ったことは確かに評価に値する。だがクロアチア戦の戦いぶりで、その評価はトントンを通り越してマイナスになったというのがこちらの感想になる。ドイツ戦とスペイン戦での喜びが一気に消えてしまった。それくらいクロアチア戦の内容はよくなかった。あんな試合をこの先、これ以上見たくない。森保監督続投に反対する理由はいろいろあるが、その一番にくるものはこれだ。選手を輝かせることができない守備的なサッカーを好む人物が代表監督では、いくら選手が優れていても、良い方向には進みにくい。少なくとも僕はそう考える。

 カナダ、メキシコ、アメリカの3カ国で共同開催される次回の2026年大会。その出場チームはこれまでより12チーム多い、48チームになる。アジアの出場枠は8。これで日本が予選で落ちる確率は、次回から大きく減ることになるだろう。それは言い換えれば、監督の首が危うくなる可能性がほぼなくなったことを意味する。たとえある程度ドジを踏んだとしても、本大会に出場する可能性は95%は確実にある。ここ最近の70〜80%の突破確率を考えれば、ほぼ安泰だ。予選でのハラハラドキドキを味わうことはもはや難しい。残りの3年半、森保監督で行くことがほぼ決まったも同然の状況と言えるだろう。

 何が起こるかわからないとは言え、余程のことがない限り、森保監督が解任される可能性はない。だがそこで気になるのは、この先、森保監督が採用する布陣だ。はたしてW杯で見せた5バックになりやすい3バックを今後も日本代表のスタンダードにするのか。それとも従来の4-2-3-1や4-3-3に戻すのか。これは目を凝らすべき重要なポイントに他ならない。

 W杯では守備的な5バックを採用した森保監督だが、それには一応というか、採用しやすい理由があったことは確かだ。「相手が強豪だったから」という、もっともらしい言葉を述べることができた。だが、今後しばらく日本が戦うであろう相手は、おそらくその大半が格下だろう。ドイツやスペインのようなチームと戦う機会は、大袈裟に言えば次のW杯まではない。アジアの枠が増えた以上、これまでのように予選でオーストラリアや韓国のようなチームとさえ当たらない可能性が高い。言ってしまえば、親善試合を除けば、その相手はほぼ全て弱小だ。そこで森保監督はどう出るのか。攻撃的に行くのか、それとも守備的に行くのか。攻撃的サッカーと守備的サッカー。この2つの相容れないサッカーを試合に応じて使い分けるようでは、チームの方向性は定まらない。それまで「前から行け」と言っていた監督が、いきなり「後ろに引いて守れ」と言えば、監督に対する信用は揺らぐ。どっちつかずのちぐはぐなサッカーになることは見えているのだ(すでになんとなくそうした傾向は見えているが)。

 ベスト16という結果と引き換えに、カタールW杯でこれまでの攻撃的サッカーの旗印を降ろしてしまった日本代表。森保監督の続投により、それはさらに決定的なものになった。

 はたして日本サッカーに今後どのくらいの幸が訪れるのか。サッカーの歴史を見れば、守備的なサッカーをするチームに幸が訪れることはほとんどない。これまでサッカー界をリードしてきたのは、攻撃的サッカーに他ならない。時代に逆行しようとしている日本代表及び日本サッカー界が、僕は心配でならないのだ。

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