アメトーーク「SNS気にしすぎ芸人」(11月4日放送)出演者寸評。ここからもう一段、階段を昇る芸人は誰だ
前回の続き。
5年前に放送された「エゴサーチ芸人」ほどのインパクトは残せなかった、先日のアメトーーク「SNS気にしすぎ芸人」。だが、出演者たちはとりわけ、注目に値する芸人たちであったことはたしかだった。
基本的にアメトーークで取り上げられるテーマは、出演者がある程度限られる題材が多くを占める。最近で言えば、「双子のパパ芸人」や「パチンコバイト芸人」などがそれに相当する。そうした中で、「SNS気にしすぎ芸人」という括りは、該当者の多そうな範囲の広いテーマに見えた。逆にそうではない芸人の方が、少数派に見えるほどだった。出演できそうな候補者は、それこそ無数にいるのではないか。出演者のキャスティングは、「立ちトーーク」とほぼ変わらないように見えた。
つまり、「SNS気にしすぎ芸人」という今回の放送回でオファーを受けた芸人たちの評価は、従来よりも比較的高いということになる。言い換えれば、かなり厳選された中から選ばれた人たちになる。少なくとも「双子のパパ芸人」に出演するより、圧倒的に狭き門なのだ。
そのテーマに選ばれし7名と、サブMCとして選ばれた1人(陣内智則)について、今回は詳しく述べてみようと思う。
・小杉竜一(ブラックマヨネーズ)
小杉がリーダー席に座る放送回には“当たり”が多い。長年アメトーークを見てきた筆者には、そうしたイメージが確実にある。相方の吉田はここ数年アメトーークに出演していないが、小杉はコンスタントに出演して活躍している。今年の出演は今回で4度目。しかし、最近ではややスベりキャラ的な感じ。この日も、全体の空気が少しおかしな方向に流れるきっかけを作ってしまうなど、良くも悪くも大きな影響を与えることになった。個人的に気に入っている山崎(アンタッチャブル)との絡みを、近いうちにまた見てみたい。
・藤本敏史(FUJIWARA)
小杉と藤本の共演は、同じ吉本所属ながら意外とあまり見ない組み合わせになる。リーダー役とサブリーダー役。今回の「SNS気にしすぎ芸人」では、“ツッコミ系”の両者の色はよく出ていた。藤本は今年で51歳。それでも、力が衰えた様子は全くない。価値観が凝り固まっても不思議ではない高齢にもかかわらず、独自の世界観を維持しながら、常に最新モードを保っている。芸歴30年を超える大ベテランながら、お笑い界を見通す眼力を持ち続けることは、決して簡単なことだとは思わない。そのプライドがそれほど高くは見えないところにも筆者は好感を抱く。 50歳を超えてもアメトーークの上段に座れるのは、藤本と飯尾和樹(ずん)くらいだろう。藤本がもう少し若ければ、その評価はもっと高かったのではないかと個人的には思っている。問題はここから先だ。MC系ではない、このタイプのベテラン芸人が、お笑い界の最前線で活躍し続けた「前例」はほとんどない。前人未踏の領域といえば大袈裟だが、現在のポジション、このペースでどこまで活躍し続けることができるか。お笑い界の歴史を変えることはできるか。藤本の今後に目を凝らしたくなる理由である。
・橋本直(銀シャリ)
2015年以降のM-1王者のなかでは、知名度が最も低いコンビだと思われる銀シャリ。存在感の薄い、地味なコンビという言い方をしてもいい。銀シャリが優勝した2016年のM-1は、大会の歴史の中で唯一、5名の審査員(過去最小)で審査が行われた。この大会の規模と銀シャリの露出度には深い関わりがあると僕は思う。従来の規模で大会が行われていれば、その優勝の価値はもう少し高かったはず。ミルクボーイやマヂカルラブリーほど、「銀シャリ優勝」に対する話題性は高まらなかった。ここ数年はネタ系の番組に出る程度の薄い活躍にとどまっていたが、ツッコミの橋本に関しては、最近やや持ち直した印象を受ける。今年のアメトーークの出演は今回で3度目。そして、自らプレゼンした次週の「かまいたちビックリ芸人」では、栄えあるリーダー役で出演予定だ。典型的なツッコミ型ながら、ボケ役やイジられ役にも回れる幅の広さもある。個人的に印象に残っているのは、2019年10月24日に放送された「ロケリポーター芸人」。そこで橋本は出演者の中でも1,2を争う活躍を見せた。ポテンシャルの高さを見る者に知らしめた。そんな橋本もすでに41歳。気がつけばベテランになってしまった感じだが、その実力を考えると、世間の評価はまだまだ低い。最大限うまくいけば小峠みたいになれたのではないかと、その地味な活躍ぶりが僕には少々もったいなく見える。ここからもう一段、階段を昇れるか否か。可能性は50対50。
・亜生(ミキ)
若手ながら、この日のメンバーの中では唯一、下段に着席。その評価が高いことが浮き彫りになった。しかし、あえて個人的な意見を述べれば、芸人としての活躍度は正直いまひとつ。若さや勢いでここまでは順調にきているが、ここから先はその真の実力が試される。先日の「NHK新人お笑い大賞」では、同じ関西系のライバルでもあるニッポンの社長に完敗。少なくともネタに関しては頭打ちに見えてしまった。ライバルたちを突き放すためには、再びM-1の決勝に進出する必要があると僕は思う。若手の中では比較的高いポジションにいるが、その差は決して大きいわけではない。少しでも油断すれば、彼らに逆転を許す可能性はある。“芸人らしい”活躍を見せるのか、それとも、渡部(アンジャッシュ)や藤森(オリエンタルラジオ)のような、“そっち系”の路線にいくのか。隠れガヤ芸人的な魅力も備えているだけに、その色はまだ確定してはいない。今後の活動に目を凝らしたい。
・辻(ニッポンの社長)
これまで何度か述べているが、僕はこのニッポンの社長・辻を、かなり“買っている”。大袈裟に言えば、その姿を初めてみたときにピンと来た。飄々としているところ、その職人気質な感じに、大きな飛躍の匂いを感じたのだが、その思いは日に日に増している。アメトーークの出演は今回で4回目。ピンでの出演は、相方のケツ(1回)を上回る2回目になる。まだ大きなブレイクを果たしてはいないコンビ、しかも、どちらかといえばコンビの目立たない方のタイプが、1人で2度もアメトーークに出演することはかなり珍しい。さらに言えば、彼らは大阪を中心に活動している。そんな辻が今年だけで4度もアメトーークへ出演したことは、彼への評価が高い証拠だと言い切ることができる。今回の出演では大きな爆笑こそなかったものの、センスを感じさせるトークを随所で見せつけた。芸人としての実力は、少なくとも亜生よりは上。今、最も飛躍の可能性を秘めている芸人のひとりだと筆者は見ている。
・田辺智加(ぼる塾)
ぼる塾が結成されたのは2019年12月。元々は「猫塾」と「しんぼる」という別々のコンビが合体し、正式に4人組として活動を開始。酒寄(猫塾)の育休が明けるまでは、主にトリオとして活動しているという、少々変わった経歴を持つ。つまり、実質的には「しんぼる」(きりやはるか、あんり)に田辺が加わったというのが、現在活躍している形になるわけだ。幼なじみで20代の若手女性コンビに11歳年上のメンバーが1人入っただけで、すぐさま大ブレイクしたということになる。田辺の加入がいかに大きかったか、その価値の証明と言ってもいいだろう。センスを押し出すタイプ、計算しているタイプでは全くない。特徴はなんといってもその喋り方。「間」が独特というか、普通に喋っているだけで面白いという、あえて言えば、出川哲朗さんのようなタイプに見える。ロッチ・中岡的というか、なんとなく面白い雰囲気を醸し出す、万人に好かれそうなタイプと言ってもいい。アイドル好きやスイーツ好きなど、自らの得意分野を生かしたその活躍ぶりが最近では目立っている。ぼる塾自体にも「ラヴィット!」をはじめとした、いわゆる“そっち系”の活躍の方が多い感じに見える。お笑い系、ネタ系の番組での露出は、一時期よりは減少した印象。現在はまだ旬な状況にあるが、それが過ぎ去った後はどうなのか。田辺さんともども、今後の推移を見守りたい。
・イワクラ(蛙亭)
キングオブコントファイナリストになったことで、芸人としてのポジションは上昇。納言・薄幸や、ガンバレルーヤ、ぼる塾らを、その市場価値でやや上回ることになった。個人的に気になるのは、M-1グランプリをどれほど本気で狙っているのかになる。蛙亭がテレビで見せるネタは、大抵がコント。それだけに、現時点で準々決勝まで勝ち進んでいるM-1での漫才の出来映えは気になるところだ。あとひとつ、なんとか準決勝まで勝ち進んで欲しいとは正直な気持ちになる。イワクラの魅力をひと言でいえば、予測不能なところ。何を言い出すかわからないところがその最大の武器でもあり、反対に欠点に見えるときもある。ハマれば滅茶苦茶面白いが、逆にハマらなければ必要以上にスベって見える場合がある。だが、喋りそのものは決して悪くない。同居人のオズワルド・伊藤にも負けていない、オリジナルな香りも感じさせる。キングオブコントで評価を上げたことはたしかだが、まだ確定したというわけではない。従来の女性芸人からは拝めなかった、その独特の持ち味を今後どれほど発揮することができるか。伸びシロはまだまだあると僕は見ている。
・陣内智則
サブMCの第一人者。明石家さんま、ダウンタウン、南原清隆、蛍原徹など、大物芸人の横につく機会が、ここ数年で一気に増えた印象だ。そうした中で、陣内と似たような活躍をしていた川島(麒麟)が、この春から「ラヴィット!」のMCとなり大出世。後輩の川島に大きく差をつけられることになった。だが、以前は陣内にも「なるトモ!」(日本テレビ系列)という、朝の情報番組で司会を務めていた経歴がある。現在の川島と同じような仕事をしていたわけだ。アメトーークへの出演は、今年だけでもすでに8回目。そのうちの6回は、蛍原さんの横のサブMCでの出演になる。川島のように大きな花を咲かせるのか、このままサブMCとして生きていくのか。数年後が気になる、割と面白い見どころだと僕は思う。
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