言わば準々決勝の組み替え戦 M-1グランプリ2023準決勝を振り返る
先週行われたM-1グランプリ2023準決勝。筆者がM-1の準決勝を目にするのは、今回が5年連続の5回目だった。2019、2020年は映画館のライブビューイングで、2021、2022年はネットなどによる有料配信での視聴。そして5回目の今回は、3年ぶりに映画館でのライブビューイングでの観賞となった。
もちろんいずれも全て面白かった。つまらなかったことはこれまで一度もない。それでもあえてこのなかで順位をつけるとすれば、個人的に最も面白かったもの、満足度が高かったのは2020年の準決勝になる。その次に2019、2021年がほぼ同じくらいで並び、前回の2022年、そして今回の2023年と、満足度を順番に並べるとこんな感じになる。
2020年>2019年=2021年>2022年>2023年
満足度がこの順番になる理由はわかりやすい。前回の2022年、そして今回の2023年はともに、準決勝のひとつ前、準々決勝の配信も視聴していたからに他ならない。逆に2019〜2021年は準々決勝通過者のネタは見ておらず、準決勝でその勝負ネタを初めて目にしたので、その分だけ驚きや感激が大きかったというわけだ。
前回(2022年)の準々決勝と準決勝の配信を見て初めて気づいたのだが、準決勝に進出した多くのグループが、準々決勝で披露したネタを準決勝でも続けて使用しているということだ。キチンと数えたわけではないが、少なくとも半数以上は(準々決勝と準決勝で)同じネタを披露していたと記憶する。準決勝は順番を入れ替えた準々決勝の組み替え戦、もっと言えば準々決勝で披露したネタの確認だったとは、前回の準決勝を視聴して感じたこちらの印象だ。
だがそれでも、今回も十分面白かった。準決勝を戦った31組中、準々決勝と同じネタを見せたコンビは25組。約8割のネタはすでに準々決勝で目にしていたので新鮮味は確かに少なかった。だがそれでも、見なくてもよかったとは1ミリも思わない。準決勝のMCを務めたはりけ〜んずの2人も言っていたように、このM-1準決勝はいわゆるプレミアチケットだ。これほど面白いネタをする芸人を一堂に集めて観賞できる機会はそうそうない。たとえチケットの値段が現在の倍になったとしても迷わず視聴したいとは率直な思いだ。
戦いからすでに1週間が経過したが、決勝進出を決めたファイナリストたちの展望も含め、今回準決勝でネタを披露したコンビについての寸評を述べておきたい。(ベストアマチュア賞のナユタが準決勝の前説的な感じでトップバッターとしてネタを披露)
ベストアマチュア賞 ナユタ
大学のお笑いサークルに所属する2人(東京大学在学、早稲田大学在学)が組んだ、男子大学生アマチュアコンビ。準々決勝で披露したネタは、その大半の部分が配信でカットされたほど、色んな意味で振り切った内容のネタを見せた予選でも少し話題になっていたコンビだ。やや風刺が効き過ぎていたと言うか、コンプライアンス的な面でM-1には合わなかった。ひと言でいえばそうなる。そんな彼らのネタを見て筆者が思わず想起したのは、ウーマンラッシュアワー・村本大輔さんの独演会だ。政治や経済、宗教などのテレビではしづらい社会的な問題を、人々を笑わせる“コメディ”として昇華させる。その手法こそ異なるが、内容的にどこか共通したムードを感じた。
有名大学に在学中の2人は卒業後、プロを目指すとのことだが、はたして“普通”の高学歴芸人を目指すのか。そんな従来から存在するありきたりな芸人になるより、先述した村本さんに弟子入りしたほうが面白いのではないかとはこちらの意見だ。
はたして今後、彼らの姿を拝む日はくるのか?その進路が気になる次第だ。
グループA
1 ダブルヒガシ(吉本興業 大阪)
ワイルドカード枠により準決勝に復活。準々決勝からはネタを変えてきたが、出来はややいまひとつだった。来年以降に期待したい。
2 ぎょうぶ(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。つまらなくはないが、後半のグループと比べればやはりパワー不足は否めなかった。
3 きしたかの(マセキ芸能社)
ネタ準々決勝と同じ。すでにある程度売れているのでネタはすんなり入ってくるが、決勝に行くにはもっと爆発的なウケが欲しかったところ。ひと言でいえば普通すぎ。もう少し予想を越える仕掛けがあれば、ネタはさらに良くなるはず。
4 ドーナツ・ピーナツ(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。今回の落選は妥当だが、その方向性は悪くない。近い将来、決勝に行きそうな可能性はそれなりに感じさせた。名前を覚えておきたい存在だ。
5 ママタルト(サンミュージックプロダクション)
ネタは準々決勝と同じ。悪くはなかったが、今回は彼ら以外のコント系漫才をするコンビがあまりにも良すぎた。同じく非吉本の真空ジェシカ、ヤーレンズといったライバルたちに力負けしたという感じ。とはいえ、決勝までの距離はそう遠くはない。ファイナリストになるのはもはや時間の問題か。
6 フースーヤ(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。準々決勝の配信ではカットされた歌の部分も、準決勝ではしっかりと堪能することができた。他のコンビとは種類が異なるネタだっただけに、そのネタはいまなおこちらの印象には強く残っている。内容がもう少しブラッシュアップされれば、決勝に行く可能性も決してなくはない。思わずそう感じたほどだ。敗者復活戦での姿にも注目したい。
7 トム・ブラウン(ケイダッシュステージ)
ネタは準々決勝と同じ。決勝に進出していてもおかしくなかったとは率直な感想だ。その落選はおそらく僅差だったと見る。それはつまり、敗者復活戦でもそれなりに可能性が見込めるということとイコールだ。敗者復活戦での暴れっぷりに期待したい。
グループB
8 華山 (吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。決勝までの距離はまだ少し遠いか。
9 スタミナパン(SMA)
ネタは準々決勝と同じ。準決勝直後に目にしたSNSではファイナリスト候補としてその名前は割と挙がっていたが、個人的には敗退が妥当だったと思う。また違うネタも見てみたい。
10 豪快キャプテン(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と変えてきた。悪くなかったとは率直な印象になる。いわゆる正統派のしゃべくり漫才。目指すはオズワルド、さや香だろう。次回以降に期待したい。
11 オズワルド(吉本興業 東京)
ネタは3回戦で披露したものの4分版。これまでにも何度か述べているが、このコンビに求められているのは、もはや並のネタではない。もちろんつまらなくはないのだが、「上」か「並」かで言えば、今回も「並」に近いネタだった。ネタの設定も少し無理矢理というか、強引な感じが否めなかった。敗者復活戦のルールが大きく変わった今回は、復活の可能性は前回より低いと見る。5年連続の決勝進出は厳しいか。
12 ヘンダーソン (吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。当確ラインより少し下だったかなという印象。ラストイヤーとなる今回は、敗者復活戦の舞台がその見納めとなるのか。あるいは金属バットよろしく、来年のTHE SECONDでその姿を目にすることができるのか。その行く末に注目したい。
13 くらげ(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と同じ。出番順的に言えば、準決勝を突破した1組目のファイナリスト。それまでの12組を確実に上回ったということになる。筆者はこのネタを見るのが2度目だったが、初めて見る人にとってはやはり相当面白いものに見えたのだろう。そうでなければ決勝進出コンビに選ばれることはないはずだ。
今回のファイナリストの9組のなかでは、その露出度並びに知名度がもっとも低いコンビ。公式サイトの優勝予想ランキングを見ても、その人気は敗者復活組を含んだ10組中10位と、まるで期待されていない存在であることが一目瞭然になる。言ってみれば、彼らに失うものは何もない。今回もっとも気楽に決勝に挑めるコンビと言ってもいい。もちろん最下位になる可能性もあるが、上位進出の可能性もそれと同じくらいあるとはこちらの見立てになる。
ミルクボーイになる可能性15%。その前評判の低さが逆に優位に働きそうな気がしてならない。ハマるかハマらないか。ある意味では決勝でその出来が最も気になるコンビかもしれない。
14 バッテリィズ(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。5,6年前であれば十分決勝に行けるレベルだったと思うが、今回は惜しくも落選。いつ決勝に進出してもおかしくない大阪の実力派コンビ。敗者復活戦でも期待したい。
15 真空ジェシカ(プロダクション人力舎)
ネタは準々決勝と同じ。前回のこの欄でも記したが、筆者が挙げる今回の準決勝ナンバーワンコンビだ。
決勝進出はこれで3年連続3回目。今回は紛れもなく優勝候補の一角だろう。過去2回の決勝での結果は6位(2021年)と5位(2022年)。その順位が彼らの特徴をよく表している。言わば平均点が高いタイプ。大きく外すことはないが、悪く言えば、決定力はそれほど高くない。川北茂澄の放つボケはあえて言えば羅列というか、その手数の多さがどちらかと言えば特徴だった。ところが今回はそのボケのパンチ力が過去2回に比べて圧倒的に強い。繰り返すが、今回の準決勝で筆者が1番面白いと思ったコンビとして名前を挙げたくなったほどに、だ。
想起したのは、優勝した当時の霜降り明星。そのスタイル的なものも含め、どこか似たようなムードを感じたことは確かだ。もし今回の真空ジェシカが決勝戦初進出であったならば、迷うことなく優勝候補の筆頭に挙げていたと思う。
そのネタの出来を踏まえれば、下位(9位、10位)に沈むことはまず考えられない。決勝戦3回目の彼らの目標はトップ3以上。そこで注目したいのは、今回もおそらく審査員を務めるであろう、松本人志さんの得点になる。過去に松本さんが真空ジェシカに与えた点数は、90点(2021年)と88点(2022年)。ざっくりと言えば、その評価はあまり高くはない。僕的に今回の真空ジェシカのネタは95点前後は出せそうなレベルなだけに、その審査にとくと目を凝らしたい次第だ。
グループC
16 ナイチンゲールダンス(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と同じ。選ばれていてもおかしくなかったが、当確ラインには今回ほんの僅か及ばなかったという印象。とはいえその実力を考えれば、彼らには明るい未来が待っていることは目に見えている。目立つのはボケ担当・中野なかるてぃんだが、個人的にはツッコミ担当・ヤスにも(モグライダー・芝大輔などに通ずる)良いムードを感じる。
決勝進出はもはや時間の問題。来年以降の有力候補であることに変わりはない。
17 鬼としみちゃむ(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と変えてきた。彼らの前後に登場したナイチンゲールダンス、令和ロマンに比べればそれなりに落ちていたことは事実。準々決勝のネタであればもう少し可能性はあった気もするが。来年以降に期待したい。
18 令和ロマン(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と同じ。前回敗者復活戦2位の雪辱を今回1年越しで見事晴らした恰好だ。
ファイナリストのなかでは、気になるのは真空ジェシカとの争いだ。公式サイトの優勝予想に目をやれば、真空ジェシカが現在3番人気であるのに対し、今回決勝戦初出場の令和ロマンは前回準優勝のさや香に次ぐ2番人気という高い評価を受けている。そこに令和ロマンへの期待の大きさを窺い知れる。
そのネタのスタイル的にも、真空ジェシカと令和ロマンはとてもよく似ている。令和ロマンに聞いたわけではないが、おそらく芸人的に真空ジェシカから少なからず影響を受けているのではないか。現在の所属事務所こそ異なるが、2組ともいわゆる学生お笑い出身、それも慶應義塾大学の同じサークルに(真空ジェシカ・川北と令和ロマンの2人)所属していたという経歴がある。2組ともそれなりに頭の良さを感じさせるネタをするのはある意味当然と言えるだろう。この2組による慶應先輩後輩対決は見物だ。もし2組とも最終決戦に進めば、彼らの出身であるお笑いサークルはそれこそお祭り騒ぎになるだろう(すでになっている気もするが)。
3回目の真空ジェシカより、初出場の令和ロマンのほうが新鮮さも含めやや優位か。若手ながらも肝の据わったコンビだけに、決勝でも何か爪痕を残すようなことをしそうな気がしてならない。
19 ニッポンの社長(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝とほぼ同じ。相変わらず面白いが、今回はライバルたちが強すぎた。少なくともいずれ1度は決勝へ行くものと僕は見ているが、その期待は来年以降に持ち越し。あえなく落選も、こちらの高評価に変わりはない。
20 ダイタク(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と同じ。惜しいか惜しくないかで言えば、惜しかった寄りの落選か。毎年決勝を期待されながら、今回もあと一息足りず。そんな後輩たちに先を越され続けるダイタクも、ついに来年がラストイヤーとなる。相席スタート・山添寛、ネルソンズ、カゲヤマといった同期の活躍が目立つ昨今、はたしてダイタクが目に見えたブレイクを果たす日は訪れるのか。敗者復活戦も含め、その行く末に目を凝らしたい。
21 20世紀(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。出来は可もなく不可もなく。M-1準決勝は初進出ながら、少なくとも今回決勝進出の匂いはしなかった。次回以降へ期待。
22 エバース(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と同じ。準々決勝後のこの欄で述べたように、ネタ自体は悪くなかった。その唯一の誤算というか不運だったのは、前半ブロックに登場した豪快キャプテンのネタとその題材が微妙に被っていたこと。おそらく観客もエバースのネタを見ていた時にそのことを想起したのではないか。エバースのネタのノリがややいまひとつに見えた理由だ。だが、そのセンスは今回彼らのネタを初めて見た人には十分に伝わったはず。敗者復活戦も決して捨てたものではない。今後の活躍に目を凝らしたい。
23 モグライダー(マセキ芸能社)
ネタは準々決勝と同じ。だが内容は同じとは言え、彼らの場合、ともしげの調子次第ではネタの出来栄えが大きく変わる。どちらに転ぶかわからない、大袈裟に言えばギャンブル漫才だ。前の準々決勝の出来を10段階で9とするならば、この準決勝の出来はせいぜい6か7。早い話、出来はあまりよくなかった。にもかかわらず決勝進出を決めたわけだ。それだけ今回のモグライダーのネタは面白い。出来が少々悪くても、爆発を生み出すパワーがある。
こんなネタをするコンビは彼ら以外にはまずいない。お笑い的に優等生というか、完成度が高い出来上がったネタをするコンビがほとんどを占めるなかで、こうしたアドリブ的な漫才をするコンビはとりわけ異彩を放っている。もし彼らが優勝すれば、また新しいタイプの王者が誕生するというわけで、M-1の歴史がまたさらに大きく変わることになるだろう。褒めすぎを承知で言えば、時代を変える可能性があるコンビというわけだ。
ネタはともしげの間違え方次第だが、それ以上にネタの出来栄えに影響を及ぼすのが、ともしげのおかしな言動に即座にツッコむ芝のツッコミ次第。少なくとも僕はそう見ている。すでに売れっ子である彼らに中途半端な結果はもはや必要ない。0か100か。最下位か優勝(もしくは準優勝)か。笑神籤も含め、彼らの結果には運が占める割合がかなり大きい。はたしてモグライダーに笑いの神が微笑むのか。注目だ。
グループD
24 ダンビラムーチョ(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と同じ。そのネタを見て筆者が想起するのは、M-1グランプリ2020で準優勝したおいでやすこがだ。いわゆる歌ネタを得意とするスタイル。今回のダンビラムーチョのネタは、先述のおいでやすこがが3年前の決勝の2本目(最終決戦)で披露したものとどことなく似たテイストがある。
準決勝でのウケはかなり良さそうだったが、決勝でもハマりそうかと言えば、正直なところ未知数だ。少なくとも王道の漫才ではない。今回のファイナリストのなかではモグライダーとこのダンビラムーチョがいわゆるタイプの違うネタをする。この2組の出番順が今回の決勝戦の行方を左右しそうな気がしてならない。はたして審査員はどのような評価を与えるのか。人によっては好みが分かれそうに見える1組だ。
25 ヤーレンズ(ケイダッシュステージ)
ネタは準々決勝と同じ。彼らがファイナリストになりそうなムードは一つ前の準々決勝あたりからすでに漂っていた。もっと言えば、前回の敗者復活戦くらいからその可能性を十分に感じさせていた。いわゆる正面突破というか、まさに満を持しての決勝進出に見える。
スタイルはオーソドックスなコント漫才。このタイプのネタをするファイナリストは今回多い。真空ジェシカ、令和ロマン、ヤーレンズ、マユリカ。今回のファイナリストをあえて大雑把に分けるとすれば、ヤーレンズを含む上記の4組はいわば同類のコンビとして括ることができる。このうち今回好成績を残すことができるのははたしてどのコンビか。
オードリー、トム・ブラウンと、ケイダッシュステージ所属のコンビはこれまで大会で存在感を発揮してきた歴史がある。その活躍ぶりに期待したい。
26 ロングコートダディ(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と変えてきた。それがズバリ今回の敗退の理由となる。準々決勝のネタであれば8割方、その決勝進出は堅いと思われたが、スタイルを大きく変えた準決勝でのネタは正直言って面白くなかった。オズワルドの欄でも述べたが、ネタの設定があまりにも強引というか、無理があったと言うべきか。ネタの半分くらいですでにその敗退が濃厚に見えたほどイマイチだった。
だが、ロングコートダディの話はここでは終わらない。来年がラストイヤーとなる彼らだが、その前にまだ今回の敗者復活戦が残っている。もしそこで準々決勝で見せたネタができれば、まだ希望はある。復活の可能性は少なくともオズワルドよりは断然高い。敗者復活戦で見せるネタに注目したい。
27 ななまがり(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と同じ。個人的には当落線上の出来だったと思うが、やはり意味不明な内容のネタを合格させるわけにはいかなかったのだろう。同じく非常識なネタを見せたトム・ブラウンの落選も言わば同じ理屈だ。会場のウケやネタの面白さ以外の部分でふるいにかけられたという印象。優等生的なネタをするコンビが多い今回のファイナリストを見れば、明らかな非優等生タイプのななまがりやトム・ブラウンの落選には少なからず納得はできる。
というわけで、こちらも注目は敗者復活戦だ。ラストイヤーの彼らにとってはおそらくM-1での最後(?)の舞台となる。はたしてどんな散り方を見せるのか。トム・ブラウンともども、その姿にとくと目を凝らしたい。
28 シシガシラ(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と変えてきた。ひと言でいえば、シシガシラの代表作。おそらくだが、これまで彼らが幾度となく披露してきたであろう最も自信があるネタを、この大事な準決勝にぶつけてきたわけだ。結果は惜しくも敗退に終わったが、そこにシシガシラの本気を感じたことは確かだ。
2018年結成の彼らには、M-1に参加するチャンスはまだ多く残っている。来年以降に向け力を備えるのか、それとも今回の復活を本気で狙うのか。少なくともそのポテンシャルは十分ある。敗者復活戦への力の入れ具合ははたしていかほどか。今後も注目しておきたいコンビであることに変わりはない。
29 さや香(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。前回準優勝の勢いそのままに、2年連続(3回目)の決勝進出。その姿に貫禄を感じたのは筆者だけではないだろう。
準決勝は31組が7〜8組ずつAからDの4ブロックに出番が分かれており、さや香が出場したのはグループDの6番目。全体で言えば29組目(31組中)だった。準決勝の出番順をどのように決めているのかはわからないが、少なくとも実績のある有力コンビはおそらくそれなりにシードされていると思われる。さや香、ロングコートダディ、カベポスターという前回のファイナリストが揃って後半のグループDに組み込まれていたのがその証だ。このグループDでネタを披露した8組中、今回ファイナリストとなったのはさや香を含む5組にものぼる。このブロックにいかに有力候補がひしめいていたかがよくわかる。その期待にさや香はよく応えたと言うべきか。
公式サイトに目をやれば、当たり前のように優勝予想1番人気に推されている。前回準優勝コンビなので当然と言えばそれまでだが、優勝候補がそのまますんなり優勝する光景をもうここ何年も目にしていないというのもまた事実なのだ。
僕の直感では、さや香の優勝は今回もない。もちろん、ネタに問題はない。今回も十分面白かった。だが、優勝できると太鼓判を押せるほどではなかった。これが率直な感想になる。
近年の優勝コンビは全て意外なコンビが名を連ねる。そうしたなかでのさや香の優勝は、こう言ってはなんだが、あまりにも普通だ。なんというか、展開的につまらない。もちろんさや香が格段に面白いネタを披露して優勝すれば文句はないが、その高いハードルを越えることは決して簡単そうには見えてこない。初出場組のほうがそうした意味ではさや香より期待できるとはこちらの見立てである。
番狂わせは起こるのか。筆者はマックス準優勝と読むがはたして。
30 カベポスター(吉本興業 大阪)
ネタは準々決勝と同じ。さや香はお互いがぶつかり合う王道のしゃべくり漫才だが、同じ王道でもカベポスターはどちらかと言えばしっかり聞かす系だ。さや香よりは静かだが、内容では決して劣っていない。むしろその分切れ味が鋭い。思わずそう言いたくなる。
前回のネタも良かったが、今回はそんな前回よりもさらにいい。決勝初出場だった前回はトップバッターという不運に泣いたが、今回は順番さえよければいいところまで行きそうな気がする。極めて正統派の漫才にもかかわらず、意外にも近年ではいそうでいないタイプ。消化不良に終わった前回の鬱憤を晴らすような姿を期待したい。
31 マユリカ(吉本興業 東京)
ネタは準々決勝と変えてきた。準決勝のラスト、31番目の登場による決勝戦進出。何が言いたいのかといえば、それまでに登場した多くのコンビを上回るパワーがあったことだ。単純だが面白い。準決勝は今回で4度目だったが、これまでで最も良い出来だったとは率直な感想だ。
今回のファイナリスト9組のなかでマユリカは唯一、準々決勝と準決勝でネタを変えてきたコンビになる。言ってみれば、決勝戦の戦いぶりがすでにある程度想像することができるというわけだ。仮にもしマユリカが最終決戦まで進出すれば、その2本目の勝負ネタはその時点でこちらにはほほ判明する。前回のウエストランドのように、もしかするとその優勝ロードがうっすら見える可能性がある。ネタ順が8、9番目なら面白い。決勝での爆発に期待したい。