M-1グランプリ2021。準決勝進出25組を寸評してみた(中編)
前回の続き。
○コンビ名 (所属事務所)[準決勝出場回数]
・錦鯉(ソニー)[3大会連続4回目]
おじさん芸人の希望の星。20年以上の芸歴を経て、ようやくブレイクを果たした超遅咲きコンビだ。昨年は初の決勝進出(結果は4位)。想起するのは、見応えのあった前回の準決勝だ。錦鯉が登場すると、筆者の周りにいた観客たちは、明らかに彼らを応援するようなムードになった。好かれやすいというか、ほっとけないというか。その好感度の高さを見せつけられた瞬間だった。決勝でも披露した「パチンコ」のネタで爆笑をかっさらい、文句なしの勝ち上がりを決めた姿が記憶に新しい。洒落っ気ほぼゼロ。そのスタイルはまさに単純明快だ。変化球など全く使わない、まさに直球勝負と言いたくなる彼らのネタは、技術系のスタイルが全盛のいまのお笑い界にあって、逆に燦然と輝いて見える。注目すべきは、ボケの長谷川ではなく、ツッコミの渡辺の方。「剛」の長谷川に対して、「柔」の要素を備える渡辺の持ち味をもっと活かすことができれば、錦鯉のネタはさらに良く見えると思う。気がかりなのは、審査員の評価にばらつきがありそうなこと。特に松本さんの評価はそれほど高そうには見えない。それを確かめるためには、今年も決勝に進出してもらう必要がある。自身が持つ最年長記録を更新することはできるか。決勝進出確率は50%。
・ニューヨーク(吉本興業)[3大会連続5回目]
現在、M-1(2019年、2020年)とキングオブコント(2020年、2021年)という異なる両メジャー大会で、史上初の4大会連続で決勝進出を果たしているニューヨーク。あまり誰も言っていないのであえて言えば、これはかなりの偉業だと僕は思う。漫才よし。コントよし。そしてトークも良い。まさに今が旬。芸人人生のピークにあると言ってもいい。先月のキングオブコントでは最下位に沈んだものの、その評価は相変わらず高い。3回戦のネタも上々。不安な要素はほぼ見当たらない。だが、あえて言えば、その高位安定型のスタイルが、結果にどう影響するのかになる。93〜94点は貰えても、95〜96点は付けられにくい印象が、多少なりともある。終盤でいかに爆発を起こせるか。それができれば優勝が見えてくる。お笑い界の頂点が視界に入るといっても大袈裟ではないと思う。決勝進出確率は75%。
・ハライチ(ワタナベエンターテインメント)[4大会ぶり7回目]
今回、準決勝に進出した25組の中で、その芸人としてのランクは、おそらくハライチが最も高い。まさに一番の売れっ子芸人になる。早い話が優勝候補だ。かつてのノリボケ漫才から、そのスケールは何倍にもパワーアップしている印象を受ける。そんなハライチも今回がラストイヤー。まさに目指すものは優勝以外ないという感じだ。4年ぶりに出場したことで、予想以上にフレッシュなムードを醸し出すことができている。優勝を狙うハライチにとっては、これは決して悪いことではない。むしろ好都合。見取り図、ニューヨーク、オズワルドとの大きな違いでもある。こう言ってはなんだが、この超売れっ子コンビを、運営側がそう簡単に落選させるとは思えない。決勝に彼らがいるかいないかでは、大会への注目度にかなりの差が出るものと思われる。岩井が覚醒した今のハライチが決勝に進めない姿を、想像する方が逆に難しい。有終の美を飾ることはできるのか。決勝進出確率は80%。
・ヘンダーソン(吉本興業)[初出場]
これまで目にしたのは、筆者の記憶ではおそらくネタ番組で1,2回。しかも、その内容はほぼ印象にない。いわゆる無名、ダークホース枠になる。だが、意外にもその芸歴は長い(見取り図と同期)。3回戦のネタは、地味ながらもジワジワ効いてくる感じのものだったが、決勝に行けそうかと言われると、正直かなり厳しいと言わざるを得ない。今回の顔ぶれを考えれば、この激戦をここまでよく勝ち残ったなとも思う。その分、準決勝での姿に目を凝らしたくなる。失うものは何もない。決勝に進出すれば、それこそまさに番狂わせ。その可能性はいかほどか。決勝進出確率は20%。
・マユリカ(吉本興業)[3大会ぶり2回目]
印象に残っているのは、先月のアメトーークで放送された「よしもと漫才劇場芸人」(10月21日放送)。そこでクセあり注目若手の一組として、短い時間ながら出演を果たした。その時のマユリカのポジションは、あくまでもオマケ的なもの。しかし、その放送回にひな壇ゲストとして出演していたミキ、ニッポンの社長、蛙亭が準決勝に残れなかった今大会。その時“オマケ”として出演したマユリカが、先ほど述べた勢いのある実力派コンビたちを押しのけて準決勝に進出する姿には、かなりの痛快さを抱かせる。彼らが決勝に進出した場合も、もちろん番狂わせに相当する。今回数少ない、関西系のコンビはどれほど活躍するのか。もし見取り図を上回る成績を残せば、それこそまさにお笑い下克上だと言える。
・見取り図(吉本興業)[5大会連続6回目]
彼らは世間からどう見られているのか。個人的に気になるのはその評価だ。高いのか、それとも低いのか。世間の空気を察するには、かなり高そうに見える。だが、個人的な意見を言えば、決してそれほど高くはない。現在、3大会連続で決勝に進出中。昨年収めた3位という成績によって、今年、その露出を大幅に増やすことに成功した。だが、それにより、これまで纏っていた新鮮さは、もはや感じなくなってきている。優勝を狙う見取り図にとっては、これは決して歓迎すべき状況ではない。観客の要求は、これまでよりも断然高い。オズワルドやニューヨークにはひと捻り利いた展開が期待できそうな気がするが、見取り図はどうなのか。どちらかと言えばそのスタイルは正統派。「柔」と「剛」で言えば、「剛」に近い。ハマれば期待できるが、うまくハマらない可能性も決して低くないと見る。昨年の好成績は、あえて言えば、ライバルの力不足に助けられた感なきにしもあらず、だ。売れっ子として挑む今回は、いったいどんな戦い方を見せるのか。受けて立つようだと危ないと見るが、果たして。決勝進出確率は70%。