マヂカルラブリー時代
昨年末に放送された「お笑いアカデミー賞2021」(TBS)。この番組の中で、今年(2021年)1番忙しかった芸人として、マヂカルラブリーと見取り図を抑えて選ばれたのは、かまいたちだった。
同じく昨年末に放送された「アメトーーク」の5時間半スペシャル。番組内で毎年行なわれる『アメトーーク大賞』で、今年最も活躍した芸人としてグランプリに選ばれたのは、麒麟・川島明だった。
かまいたち、麒麟・川島の活躍は確かに凄かった。芸人としてのランクを1つ、あるいは2つくらい上げたことは明らかな事実だ。その芸人としての市場価値はまさに飛躍的にアップしたと言える。
しかし、こう言ってはなんだが、彼らの活躍に筆者は特段大きな驚きは感じていない。現在のかまいたち、そして川島の姿は、少なくとも2021年よりも前から、ある程度予想はついていた。
かまいたちで言えば、2019年のM-1グランプリ準優勝以降。2020年の下半期くらいから、すでにその勢いは目に見えていた。あえて表彰するならば、2021年ではなく2020年。少なくとも筆者はそう思っている。
川島に関して言えば5年前、いや、10年前から、僕には現在の姿はなんとなく見えていた。「アメトーーク」を長年視聴し続けている人ならば、川島の力量はすでに何年も前から認識していたことだと思う。ボケてよし。ツッコんでよし。もちろんトークもよし。それに加えて、仕切りや大喜利もできる。そして見た目も悪くないとくれば、これで売れない方が逆に不自然だと言いたくなる。タレントとして優れた才覚を持ち合わせていることを、お笑い好きの多くは把握していたものと思われる。
川島のブレイクは、あと5年くらい早くてもおかしくなかったと僕は思う。本人の努力や実力はもちろんだが、見逃せないのは、その周辺の変化だ。宮迫博之(元・雨上がり決死隊)、徳井義実(チュートリアル)、渡部建(アンジャッシュ)といった、いわゆるMCもこなすマルチなタイプの芸人たちに、近年相次いでスキャンダルが発覚。彼らが表舞台から一旦消えたそのタイミングと川島の躍進には、深い関わりがあると僕は見る。いつ跳ねてもおかしくない川島の前に、突如大きな枠がいくつか空くことになったわけだ。かまいたちはもちろん、千鳥、フットボールアワー・後藤、東京03なども、その恩恵を受けた芸人と言ってもいいだろう。
昨年のかまいたち、川島らの活躍ぶりは確かに際立ったていたが、2021年に限定するならば、筆者はマヂカルラブリーにMVPを贈りたくなる。お笑い界に影響を与えたという点を重視するならば、昨年の最優秀芸人はマヂカルラブリー以外にはいない。思わずそう言いたくなる。
先ほども言ったように、かまいたちや川島の躍進は、その少し前からある程度予見することはできた。しかし、マヂカルラブリーがこれほどの存在になることは、正直想像することはできなかった。そのブレイクのきっかけはご存知のように「M-1グランプリ2020優勝」になるが、この優勝そのものがこちらにとっては予想外の出来事に相当した。
ボケ役がほとんど喋らない。主に動き回ることで笑いを生み出す、まさに我流の漫才。このスタイルで見事優勝したマヂカルラブリーが、その後のお笑い界に与えた影響は大きかった。
2021年。3月に行なわれたR-1グランプリでは、野田クリスタルが前回王者として審査員を務めた。また、10月に行われたキングオブコントでは、現役のM-1王者としては初の決勝へ進出。前人未到のお笑い賞レース3冠に王手を掛けたことで、大会自体の盛り上がりにも大きく貢献した。そして続く年末のM-1グランプリでも、前回王者として開会宣言を行なった。その決勝進出者の顔ぶれにも、マヂカルラブリーによる影響は少なからず感じられた。例えばランジャタイは、もしマヂカルラブリーが優勝していなければ、おそらく決勝まで勝ち上がることはできなかったのではないか。ランジャタイが進むべき道を、マヂカルラブリーが作り上げた。そうした見方もできると思う。
さらにあえて言えば、THE Wでのオダウエダの優勝にも、マヂカルラブリーの影響は少なからず存在していたと僕は見る。お笑いを見るファンの目は、ここ数年、確実に肥えてきている。もう少し突っ込んで言えば、多様化している。「面白い」は1種類ではない。それを強く感じさせたのが、THE W決勝を含む、昨年のお笑い賞レースだった。
2021年の主要お笑い賞レースの全てにおいて、大なり小なりの影響を及ぼしたマヂカルラブリー。もちろん活躍はそれだけに止まらなかった。テレビ、ラジオ、配信ライブなどのメディアから、お笑い以外の分野まで。まさに芸能界を大暴れした。彼らこそ2021年のお笑い界の主役だったと僕は思う。
もっと言えば、その活躍ぶりが一過性のものに見えないところがいい。昨年のブレイクタレントランキングで同率1位となった、M-1で優勝を争ったおいでやすこがと比べると、その違いは鮮明になる。
おいでやすこがの露出も確かに目立った。特においでやす小田とバラエティ番組との相性は抜群に良かった。だが、今後も2021年のような勢いで活躍できそうかと言えば、太鼓判は押せない。簡単に消えることはないだろうが、これより上に行きそうな匂いはあまりしない。マヂカルラブリーやニューヨークなどと比較すれば、余力という点において大きな差が存在する。ユニットでは史上初、結成から僅か2年でM-1の決勝に進出したことは称賛されてしかるべきだが、こう言ってはなんだが、いま振り返れば、準優勝でよかったと僕は思っている。あえて厳しく言えば、優勝コンビに相応しいポテンシャルまでは備えていなかった。
M-1をきっかけにブレイク芸人の仲間入りを果たしたことが、おいでやすこがの2人にとってはなにより重要なことだった。こがけんの方はまだ分からないが、おいでやす小田に関しては、おそらく今後もバラエティ系の番組で重宝されることだろう。
マヂカルラブリー、おいでやすこがとくれば、見取り図についても述べたくなる。2021年のブレイクタレントランキングでは、マヂカルラブリー、おいでやすこが、ニューヨークに次ぐ第4位。見取り図にとって、昨年はまさに大きく飛躍した1年だった。大型のネタ番組では必ずと言っていいほどその姿を見かけた気がする。トーク系の番組に出演すれば、いずれの現場でも及第点以上の活躍をしていた印象が残る。特にツッコミの盛山が繰り出す「ガヤ」は、どの番組でもよく効いていた。そんなイメージが筆者には確実にある。
見取り図の今後は決して暗くはない。しかし、今よりさらに上に行けるかどうかと言えば、まだわからない。千鳥、かまいたち級のレベルに到達するには、もう一息といったところ。見取り図にとって痛かったのは、昨年のM-1準決勝で敗れたことだ。敗者復活戦も4位と振るわなかった。優勝候補にも挙げられていた今が旬の人気者としては、寂しい結果というか、その勢いにやや翳りが見られた瞬間だった。今年がM-1ラストイヤーの見取り図だが、昨年の戦いぶりを見る限りでは、再び決勝に進出する可能性は決して高くない。マヂカルラブリーを脅かすような存在になるのは難しいと見るが、それは今年の頑張り次第。M-1を含め、2022年の見取り図の姿にはとくと目を凝らしたい。
ゆりやんレトリィバァ(R-1グランプリ)、空気階段(キングオブコント)、錦鯉(M-1)。昨年のお笑い賞レースの王者たちは皆、優勝する前からすでに知名度の高かった人気者たちだった。ZAZY、ザ・マミィ、Aマッソ、オズワルド、インディアンスなど、上位の顔ぶれにもそれは当てはまる。新顔と言えるのは、男性ブランコとオダウエダくらい。早い話、ニュースターが誕生したという感じでは全くなかった。
錦鯉のM-1優勝は、確かに色んな意味で画期的な出来事だった。だが、ツッコミの渡辺はともかく、ボケの長谷川は基本的には天然キャラ、お馬鹿キャラだ。こう言ってはなんだが、優勝直後の現在がいわばピークに見える。むしろ個人的に錦鯉よりも可能性を感じるのは、準優勝・オズワルドの伊藤だ。この人はおそらくもっと上に行く。昨年からすでにそれなりの活躍は見せていたが、今年はさらにもう一、二段、階段を昇ると僕は見ている。未来の矢作兼(おぎやはぎ)になること請け合いだ。
話をマヂカルラブリーに戻せば、その勢いは今年に入っても衰え知らずだ。先日の1月11日(火曜日)には、「踊る!さんま御殿!!」、「ロンドンハーツ」、「マヂカルクリエイターズ2」に出演。さらに野田クリスタルは「火曜は全力!華大さんと千鳥くん」、村上は「〜凪咲と芸人〜マッチング」に、それぞれピンで出演している。両者とも1日に4本、テレビ番組に出演していたというわけだ。M-1優勝からはや1年。その勢いはむしろ加速している。この先もさらに売れそうなムードを感じるのは僕だけだろうか。
以前も述べたかもしれないが、筆者には贔屓の芸人がいない。マヂカルラブリーのファンでは全くない。ほぼ100%フラットにお笑い番組を眺めているつもりだが、それでもマヂカルラブリーは光って見えた。だからこそ光って見えたと言うべきかもしれない。そう言いたくなる2021年の活躍ぶりだった。
マヂカルラブリーは芸能界の階段をどこまで昇ることができるのか。5年後ないしは10年後の姿を、早送りして見てみたい気がする。