松本さん不在の影響は大きかった。キングオブコント2024決勝がパッとしなかった理由

 優勝したラブレターズと結果的に2位となったロングコートダディとの差は僅か1点。またファーストステージの最後に暫定3位の座から蹴落とされたや団も僅か1点の差に泣いた。勝敗を分けたのは紙一重。もっと言えば、運があったかなかったか。もう一度、大会を最初から行えば、結果はいくらでも変わりそうな、そんななんとも言えない煮え切らない戦いだった。

 空気階段、ビスケットブラザーズ、サルゴリラ。過去3大会はいずれも時の優勝者が1本目で弾けるようなネタを披露し、そしてその勢いのまま圧勝した。まるでライバルたちを蹴散らすかのようなその豪快な勝ちっぷりこそ、ここ最近のキングオブコントの特徴及び魅力だった。だが今回は見ての通り、そんな直近の3大会とは趣が大きく異なっていた。

 ひと言で言えば「弾けていなかった」となる。2本目のファイナルステージの戦いがまさにそれ。3組とも点数的には1本目のネタを下回る結果に終わった。最終的に1位から3位までの合計得点の差が僅か2点という、史上類を見ない接戦だったにも関わらず好勝負度が低かった理由だ。大接戦の割にハラハラドキドキしなかった。これが正直な感想になる。

 少なくとも出だしは悪くなさそうに見えた。1番手のロングコートダディが叩き出した475点は、前回の1番手カゲヤマ(469点)を6点も上回るトップバッター史上最高の点数だった。続くダンビラムーチョ、シティホテル3号室、や団もそれぞれ上質なネタを披露。点数的にも内容的にも決して悪くなかった。面白い大会になりそうな気がしたが、それでも僕には何かが足りないように見えた。今大会が「弾けていなかった」と先述したが、その理由にも通じるものになる。

 緊張感がなかった。これに尽きる。全体的にムードが緩いというか、ピリピリ感のない、単なるバラエティ番組に見えてしまった。優勝したらイチ芸人の人生を変える、そうした重厚な空気感をこの日の決勝戦から感じる機会が少なかった。

 そうなった理由はわかりやすい。松本人志さん(ダウンタウン)がいなかったからだ。

 松本さんの件は大会前から危惧されていたことではあるが、やはりその不在の影響が大きかったとは率直な印象になる。相方の浜田雅功さんも緊張感を出せる大物芸人ではあるが、こちらはあくまでも司会だ。立場的にも(キャラ的にも)ネタを批評する審査員ではない。大袈裟に言えば替えが効くポジションだ。大会的に欠けて困るのは松本さんのほうだったとは、決勝が終わったいま改めて思うことだ。

 審査員のコメントを聞いているとよりその不在を痛感した。どの審査員も自ら付けた点数の理由やネタの批評をキチンと述べていたが、たとえば松本さんのようにコメントを通じて笑いを取る余裕まではなかった。あえて厳しく言えば、コメントはどれも普通。ファンの心をハッとさせる、そんなオリジナリティ溢れる言葉や言い回しも特には聞けなかった(今回新たに抜擢されたじろうも、とりあえずは無難にこなしたという印象)。

 結局、比較的軽いムードのまま大会は進んだ。緊張感が高ければ高いほど弾けた時の爆発は大きくなるが、今回の場合はその逆だった。ネタの出来は全体的に悪くなかったが、ムードが緩かった分、マックス値は低く見えた。そんな感じだ。弾けるような笑い、爆発が思いの外少なかった。

 ラブレターズが登場したのはファーストステージ最後の10組目。そこで際どく3位に食い込む姿は、本来ならば劇的な展開だ。大会が最も盛り上がる瞬間と言ってもいい。だが、何か凄いものを見たという気は特にしなかった。テレビ越しに見るスタジオの様子も、ドラマティックな逆転劇というより、「ラブレターズが残っちゃった」という、ともすると意外な反応にも見えた。結果的にここから彼らが優勝を成し遂げるわけだが、たとえばM-1グランプリにおけるウエストランドや令和ロマンのように、この瞬間のラブレターズに3位通過から優勝を伺うような勢いがあったかと言えば、明らかにノーだ。少なくともロングコートダディとファイヤーサンダーのほうが可能性は高そうに見えた。

 繰り返すが、ファイナルステージの出来は全体的に低調だった。結果は僅か1点差だったが、どちらかといえば凡戦に近い。優勝したのはラブレターズだが、今後はともかく、今大会において何か強烈なインパクトを残したというわけではない。ラブレターズと同期のウエストランドに比べると、その勝ちっぷりは大違いだ。勝者という表現がここまでしっくりこない例も珍しい。

 優勝したラブレターズがどれほど活躍するかはわからないが、所属のASH&Dコーポレーションでは初の賞レース王者だけに、今後それなりのステータスや活躍は見込めるだろう。数少ない非・吉本系の賞レース王者として重宝されそうな光景が思い浮かぶ。

 「審査員の好み」が色んな意味で話題となっている今大会だが、それは何もいまに始まった話ではない。今大会のような接戦、すなわち圧倒的な差でない限り、常に付きまとうお笑い賞レースならではの特徴だ。それについてとやかくいう気は少なくとも筆者にはあまりない。自分はともかく、他人の好みを変えることはできないからだ。視聴者であるこちらにとって重要なのは大会が面白くなるかどうか。面白いもの(ネタ)をひとつでも多く目にできればそれで十分なのだ。

 ファイナルステージ3組目のファイヤーサンダーのネタが終わった直後、横で見ていた筆者の知人は「こいつら(ファイヤーサンダー)で決まったな」とポロっと漏らした。だがその点数は伸びず、結果はラブレターズの優勝。知人にとってそれはまさに驚きの審査だった。「私は(ファイヤーサンダーが)一番面白いと思ったけどなぁ」。番組終了後、知人は小さくそう呟いた。

 今回の優勝者、上位はいずれも1点を争う大接戦だった。言い換えれば、審査員が1人入れ替わるだけで結果は大きく変わっていた。もしくは出場順、ネタの順番だけでも結果は違っていただろう。お笑い賞レースにおいて、今回ほど結果を鵜呑みにしてはいけない大会はない。思わずそう言いたくなる。

 優勝者が常に一番面白いわけではない。今回で言えば、ダンビラムーチョ(6位)やコットン(9位)のほうが面白かったという人だって必ずいる。先ほどの筆者の知人のように、審査結果に首を傾げたくなる人もそれなりに多いはずだ。惜しくも優勝を逃したロングコートダディ、ファイヤーサンダーには不運な結果だったと思う。だが、僕が思う今回最も惜しかった、不運を被ったと思われるのはや団(4位)をおいて他にいない。もしあのままファイナルステージに進出していれば、や団はおそらくだが、優勝していた。低調だったファイナルステージの戦いを見るとそう言いたくなる。あの1点はや団にとってはまさに優勝を争う1点だったのだ。ネタに関してもこれ以上は無理だと言いたくなる、や団の「らしさ」が100%発揮された優れたものだった。少なくとも僕にとってはラブレターズより断然上。最近見たお笑い賞レースのなかでは最もシビアな結果だったと思う。

 ピリッとした緊張感に欠けた今大会は、結果も含め、総じてあまりパッとしなかったと言える。芸風がイマイチわかりにくいラブレターズの優勝は、まさにその象徴的な結果と言えるのかもしれない。

 (おそらく)松本さんが不在であろう、今年のM-1ははたしてどのような影響を受けるのか。2ヶ月後、注目したい。

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