R-1グランプリ2022ファイナリスト寸評。中盤勢が優位か
盛り上がっているムードを感じない。決勝戦まであと2週間弱。R-1グランプリ2022に対して思う、一番の不満はこれになる。
たしかに準決勝の内容そのものは、決してそれほどよかったわけではなかった。特にその前半は、正直眠くなるような内容で、昨年からの悪い流れを引きずるかのような低調なレベルだった。それでも、視聴しない方がよかったとは全く思わない。なんといっても公式戦だ。緊張感が全然違う。ゴールデンタイムに放送されるネタ番組とは比べ物にならない。
大会の結果はその後の芸人人生に大きな影響を及ぼす。もっと言えば、優勝かそれ以外かでは、それこそ天と地ほどの違いがある。M-1やキングオブコントほどでないが、R-1優勝も立派なタイトルのひとつだ。オリンピックにおけるメダリストかそうでないかの違いと言えばわかりやすいか。優勝時にはそれほど騒がれなくても、後に評価が高まるという場合もある。5年後や10年後にはタイトルの重みが変わっている可能性もある。目を向けておいて損はない大会だと僕は常々思っている。
繰り返すが、優勝したか否かでは後の人生が大きく変わってくる。かつては「大会からスターが現れない」とも揶揄されたR-1だが、近年は違う。霜降り明星・粗品(2019年優勝)、マヂカルラブリー・野田クリスタル(2020年優勝)、ゆりやんレトリィバァ(2021年優勝)と、過去3大会の優勝者は、いずれもR-1以外の主要賞レースでも優勝を果たした2冠王者だ。スターと呼んで差し支えない、超がつく売れっ子芸人たちになる。最近の流れで言えば、ハリウッドザコシショウ(2016年優勝)の名前も挙げないわけにはいかない。優勝当時は決してそれほど話題性が高かったわけではないが、後の活躍により評価はジワジワと上昇。M-1で優勝した錦鯉の師匠というキャラも浸透するなど、近年はその独自の存在感を存分に発揮している。粗品や野田クリスタルとは全く異なる、まさにピン芸人らしい活躍をしていると言えるだろう。
優勝するのは誰か。また、優勝者がその後も王者らしい活躍を見せることができるのか。その辺りの可能性も含め、今回選ばれたファイナリストたちについて詳しく述べてみることにしたい。
ネタ順 名前 (所属事務所)
・1番 kento fukaya (吉本興業)
ネタはフリップ芸。2年連続の決勝進出は立派な成績だが、準決勝の出来は個人的にはイマイチだった。決勝進出発表で最初にその名前が呼ばれた時、正直こちらはエッと思ったほどだ。こう言ってはなんだが、ネタ的にも順番的にも優勝はほとんど不可能に近い。今回がラストイヤー(?)の彼にとっては、これは苦しい立ち位置そのものだ。とはいえ、採点の基準となるトップバッターとして見れば、大会的にはそう悪くない。オーソドックスなネタをする芸人、優勝の可能性が高くない芸人の方が、1番手には相応しい。優勝は99%ない。
・2番 お見送り芸人しんいち(グレープカンパニー)
優勝の可能性は15%〜20%。順番が6,7番であれば、もう少し上、30%くらいはあると思う。歌ネタというよりは、意地悪系。ネタがすべる心配は低いと見る。注目はどれほど高い点数をつけてもらえるかになる。2番目なので、思い切った点数は与えにくい。95点の出来でも、93〜94点をつけられてしまう可能性がある。マックスより1,2点は抑えられそうな気がするが、立ち位置そのものはそう悪くない。吉住やZAZYほどの本命ではないが、全くの無名というわけでもない。露出度合いは丁度いい。何かきっかけがあればブレイクできそうな、ファイナリストとしてはまさにいい感じの状態にあると僕は思っている。彼のネタの出来栄えが今大会の流れを決める大きな鍵となりそうだ。
・3番 復活ステージ1位
昨年の復活ステージ1位(マツモトクラブ)のネタ順は1番目。たとえ復活しても好成績は望みにくい不利な順番だったが、今回は3番と、状況は良くなった。準決勝で敗れた芸人のなかにも決勝を戦えそうな人は結構いる。トンツカタン・森本、河邑ミク、Yes!アキト、ケビンス・仁木。この4人の準決勝でのネタの出来は割と良かったと僕は思う。決勝に進出していても決して不自然ではなかった。その他にも、マツモトクラブ、かが屋・賀屋などがいるが、注目はやはりなんといってもヒコロヒーだろう。準決勝ではコロナ感染による動画審査という憂き目に遭ったが、復活ステージではおそらく万全の状態で出てくるはずだ。いま最も売れている女性ピン芸人がここで復活すれば、大会は間違いなく盛り上がる。大会のレベルも、もう数パーセント高いものになる。復活するのははたして誰か。決勝前日に行われるこの復活ステージにも目を凝らしたい。
・4番 吉住(人力舎)
THE W 2020優勝により、一躍人気芸人の仲間入りを果たした吉住。ゆりやんレトリィバァにも言えることだが、こうした何でもありの大会でコンビやトリオを相手にピン芸人が優勝することには、高いカリスマ性を感じる。吉住の芸風もまさにそんな感じだ。強いこだわりがあるというか、高い理想があるというか、高貴なムードが少なからず漂っている。分かりやすく言うとバカリズム系。ネタのクオリティと味のある演技でキチンと人を笑わせることができる、正統派のピン芸人だ。ポテンシャルは誰よりも高そうだが、一方で、それが決勝の舞台で存分に発揮されるとは限らない。能力が高いがゆえに、お笑い好き以外にはネタが伝わりづらいことがたまにある。わかりやすい、シンプルなネタをする芸人に押し負ける可能性も否めない。復活ステージから誰が来るかまだわからないが、直前で披露されるそのネタの影響を受ける可能性もある。3位、4位はありそうだが、1本目で上位2名に入れるかはやや微妙なところ。優勝の可能性は15%。
・5番 サツマカワRPG(ケイダッシュステージ)
お笑い賞レースの準決勝。ネタを見終わった瞬間、その時点で決勝進出を確信できることはよくある話だ。昨年のM-1で言えばロングコートダディ、もも、オズワルドなどになるが、今回のR-1で言えば、サツマカワRPGがそれに該当する。準決勝で最もウケていた芸人。爆笑をさらった数少ない芸人のひとりだ。しかもフリップ芸でもなければ、歌や音を使ったネタでもない。一発ギャグやモノマネでも、もちろんない。シンプルな一人コント。いわゆる正統派のネタで爆笑を起こしたことにその価値がある。もっといえば、筋の良さを感じた。ピン芸人・サツマカワRPGといっても、その印象は正直薄い。イメージが強いのは「怪奇!YesどんぐりRPG」での活躍。Yes!アキト、どんぐりたけしらとの、ピン芸人3人でのユニット活動になる。「爆笑!ターンテーブル」(TBS)や「お笑いオムニバスGP」(フジテレビ)での姿が記憶に残るが、そのなかでもサツマカワRPG個人が目立つという感じでは全くない。それでも、個人的にその実力を感じさせる出来事はあった。元日に行われた「フットンダ王決定戦2022」(日本テレビ系列)にて、ワイルドカード枠を勝ち上がり本戦に出場したことだ。いわゆる大喜利能力が高そうな芸人。コントにもそうしたセンスの良さを垣間見ることができる。彼の直前が吉住だけに、一人コントが連続するであろう、ここの争いは見物だ。優勝の行方を左右しそうな高レベルの戦いを期待したい。
・6番 ZAZY(吉本興業)
お笑いは善し悪しの基準が各自の感覚に委ねられる。ありとあらゆる意見で溢れているのがお笑い界だ。テレビで面白いと言われる芸人が、自分が見ても面白いとは限らない。むしろそうでないことの方が多い。僕はそう思う。個人的にはZAZYがその一人になる。バラエティ番組での振る舞いは悪くない。それなりに面白いと思うが、よく披露している自作のイラストを使うスタイルのネタは、僕の目にはあまり面白くは映らない。ハマらないという言い回しの方がしっくりくる気がする。つまらないと言っているわけではない。これは趣味、好みの問題だ。明石家さんまさんが面白くないという人もいるように、趣味や好み、感性は人によって異なるのものだ。他人がなんと言おうと、そう簡単に変わるものではない。前回惜しくも準優勝、そして今回も優勝候補に挙げられているZAZYを、審査員はどう評価するのか。知名度が高い人に低い点数をつけることには勇気がいる。順番は申し分ない。優勝する体勢は誰よりも整っている。結果は審査員の好み次第。少なくとも僕はそう見ている。
・7番 寺田寛明(マセキ芸能社)
準決勝での出番順は28番目(全31人)。会場が温まっていない前半の出番であれば、おそらく決勝には進出できなかったのではないか。僕はそう思う。ネタはフリップ芸。いわゆる典型的なピン芸人という感じだ。ZAZYのように見た目に特徴があるわけでもなければ、バカリズムのような誰も見たことがない独創的なネタというわけでもない。印象が薄い。ひと言でいえばそうなる。決勝進出を決めた7人の中では、たぶん最も存在感を感じにくい。ノートを振り返らなければ準決勝のネタを思い出せないくらいだ。真ん中より上に食い込めば大健闘。上位2名に残ればそれこそ番狂わせに相当する。プレッシャーがほぼゼロに等しい、その有利な立ち位置と順番を活かせるか。既視感を感じさせない、オリジナリティな匂いをどれほど出すことができるか。フリップ芸プラスアルファの何かを見せない限り、好成績は望めない。
・8番 金の国・渡部おにぎり(ワタナベエンターテインメント)
準決勝での勝因はネタの設定。そのインパクトで勝ち上がったようなものだった。そしてもう一つが演技力。コンビでのコント同様、面白おかしいその演技力はファイナリストのなかでも1,2を争う。R-1より先にキングオブコントの決勝に行きそうな気もしたが、果たして今回どんな成果を残すのか。そのピンネタは相方(金の国・桃沢)が作っているとも聞く。R-1での活躍は、そのままコンビでの活動にも大きな影響を与えることにもなる。最後(8番)から大会を掻き回すことができるか。期待度は低くない。