熱が冷めるその前に。Mリーグ全9チームの印象と来季の展望、気になる選手を述べてみる
秋に開幕予定のMリーグの新シーズン(2024-2025シーズン)。9チーム、全36人の契約が合意したことが先日(7月3日)発表された。
昨シーズンと顔ぶれが変わったのはセガサミーフェニックスただ1チーム。契約満了となった魚谷侑未選手と東城りお選手の2人の代わりに獲得したのは、竹内元太選手と浅井堂岐選手。ドラフト前からそれなりに候補として名前が上がっていた男性プロ2人だった。
繰り返すが、Mリーグ全体を通して見ても、変わった(新Mリーガーになった)のはこの2選手だけだ。新規参入したBEAST Japanextの4人を含む計7人の新Mリーガーが誕生した前シーズンと比較すると、とても少なく見える。Mリーガー候補の麻雀プロがいったい何人くらいいるのか、あまり詳しくないのでハッキリとはわからないが、少なくともその門がかなり狭く見えるのは確かだ。1年で僅か2人。それだけに現在のMリーガーの価値、そのステイタスはとても高く見える。Mリーガーとそれ以外のプロとでは、知名度や親近感においてそれこそ雲泥の差がある。現在行われている個人戦のMトーナメントなどを見ていると思わずそう言いたくなる。
創設時(2018年)は7チーム(1チーム3人の計21人)で行われたMリーグ。KADOKAWAサクラナイツとBEASTが途中で加わり、現在は9チーム(1チーム4人の計36人)まで増えた。この流れを踏まえると、近い将来、少なくとも12チームくらいまでは増えそうな気がする。あと1〜3チームは新規参入してもおかしくない。麻雀人気が高まるほど、その可能性は高くなる。
来シーズンで7年目を迎えるMリーグだが、全体を見れば歴史はまだ浅い。創設時誕生したMリーガー全21人中、現在もリーグに在籍しているのは14人。現役のMリーガーのおよそ4割はいわゆるオリジナルメンバーというわけだ。なかには創設時から顔ぶれがほとんど変わっていないチームもある。
昨シーズンからMリーグを視聴し始めた筆者はいまのところマンネリ感はそこまで感じていないが、たとえば創設時から視聴している年季の入ったファンはこの辺りをどう感じているだろうか。なかには同じ顔ぶれ、似た組み合わせの連続にマンネリ感を覚えている人がいても不思議ではない。かくいう筆者も、この先もいまと同じ熱量でMリーグの視聴を続けられるとは限らない。気がつけば熱が冷めている場合も十分あり得る話だ。
10年先、20年先を考えると、いまのままではやや幅が狭いというか、内輪的なものになりかねない。そんな気がする。新たなファンが増えなければ、Mリーグはいま以上に発展していかない。そうした意味でも、昨シーズン新規参入したBEASTの存在は大きかった。鈴木大介選手、中田花奈選手という、プロ雀士以外の顔も持ついわゆる二刀流Mリーガーたちの存在は、将棋ファンやアイドルファンなどの他ジャンルのファンの関心も集めるには十分な効果があった(何を隠そう筆者もそのひとりだ)。
Mリーグの歴史のなかでチームを移籍した経験があるのは現在滝沢和典選手(EX風林火山からKONAMI麻雀格闘倶楽部へ移籍)ただ一人だが、こうした選手もおそらく今後もっと現れるだろう。また、いまのところ前例はないが、かつてMリーグに所属した選手のMリーガーへの返り咲きも十分ありえる話だ。まだ見たことのない展開、未知なる可能性がMリーグには眠っている。少なくとも僕はそう思っている。
1年後、この文章を振り返った時、はたしてMリーグにどのような変化が起きているか。そんな来シーズンの展望と昨シーズンの印象などを含めた筆者独自の見解を、(Mリーグへの熱が冷める前に)今回、各チームごとにそれぞれ少しばかり述べておきたい。
・ チーム名(2023-2024シーズンの順位)[2024-2025シーズン参加選手]
・セガサミーフェニックス (9位)[茅森早香 醍醐大 竹内元太 浅井堂岐]
男女混合がルールとなっているMリーグ。その組み合わせは3種類。(1)男性3人女性1人、(2)男女2人ずつ、(3)男性1人女性3人。このどれかになるわけだが、そうしたなかでフェニックスは全チームの中では唯一の(3)で戦ってきたチームだった。早い話が女流雀士が目立つチームだ。それが今回のメンバー変更により、そのチームカラーはガラリと一変した。(3)から(1)へ。これまで発していた独自色はなくなった。人気ではなく実力を優先。そうした印象が強い。
契約満了となった前任の選手たちに気を遣ったのかはわからないが、これまでのチームのイメージが大きく変わったことは確かだ。人気のありそうだった2人が去ったことで、女流対決の可能性が減ったことはもちろん、Mリーグ全体も幾分か硬質化した感じに見える。
あえてチームを刷新した以上、求められるのは結果しかない。来季もし下位に沈めば弱小チームのイメージがついても不思議ではない。新Mリーガーの2人も含め、来季はリーグを掻き回す存在になることを期待したい。
・TEAM RAIDEN/雷電(8位)[萩原聖人 瀬戸熊直樹 黒沢咲 本田朋広]
メンバーの変遷は3シーズン前に本田選手が加わったのみ。渋谷ABEMASに並ぶ、創設時から顔ぶれがほぼ不変のチームだ。俳優の萩原選手、リーグ最年長の瀬戸熊選手、セレブ打法の黒沢選手、そして筆者のお気に入りでもある本田選手と、曲者が揃う掴みどころのないチームとは筆者の印象だ。優勝経験こそないが、選手の入れ替え対象(2シーズン連続レギュラーシーズン敗退)にもいまのところはなっていない。ギリギリのところをこれまでは踏ん張ってきている。平均年齢は高めだが、その分チームの対応力は高そうに見える。それだけに注目は選手入れ替えの対象にリーチがかかった来シーズンだ。これまで不変のチームだけに、来季にかかるプレッシャーはかなり大きいはず。
注目選手はやはりなんと言っても本田選手になる。そのどこか品の漂う打ち方に加え、昨シーズン上がれなかった四暗刻単騎クラスの手を新シーズンには是非とも拝みたい。
・BEAST Japanext(7位)[猿川真寿 菅原千瑛 鈴木大介 中田花奈]
昨季参入した新チーム。チームのキャプテンを務めるのは猿川選手で、その掴みどころのない飄々とした人となりがそのままチームのカラーになっている。硬質とは反対の柔らかいチーム。ひと言でいえばそうなる。
メンバーも彩り溢れる顔ぶれだ。オーナー企業でもある放送局でチームの冠番組をやれるくらい、魅力あるメンバーが揃っている。メンツは悪くない。あとは成績だけだ。
1年目の結果だけで判断するのはまだ早い。というわけで本当の勝負は来シーズン。プロ歴の長い猿川選手、菅原選手は特に心配なさそう。棋士の鈴木大介選手も来季はおそらく昨季の経験を活かした独自の麻雀を見せてくれるはず。というわけで残るは元乃木坂46の中田選手。インフルエンサーの肩書を持つこの選手の活躍が今後のBEASTのカギを握ると見て間違いない。目指すべきはサクラナイツの岡田紗佳選手。チームのお飾りではなく、チームを引っ張る存在になれるか。
もうひとつ、麻雀の内容に関しては言えば、気になるのはチーム全体の方針だ。攻撃型で行くのか、それとも守備型で行くのか。チームの中で特に攻撃型なのは鈴木大介選手だ。派手な上がりと大きな放銃を繰り返す、文字通りブルドーザー的な麻雀がその特徴。昨季は1試合で2度の8000オールの上がりや高宮まり選手の国士無双を鳴き仕掛けで防いだりと、良くも悪くもその雀風が際立った印象だ。そんな大介選手と比較すると、中田選手の雀風はあまり鮮明という感じではなかった(試合数が少なかったこともあるが)。悪く言えばどっちつかず。4着を恐れすぎたのか、出場した14戦中3着が10回と、プラスを持ち帰ることができなかった。チームの方針と自らのスタイルの間で揺れていたように見えた。
しつこいようだが、カギを握るのは中田選手だ。この選手の元気がそのままチームのムードに反映する。まだ幼さの残る新設のチームがMリーグを代表する強チームになれるか。来季、筆者の最も注目しているチームなのである。
・KONAMI麻雀格闘倶楽部(6位)[佐々木寿人 高宮まり 伊達朱里紗 滝沢和典]
チームの顔は寿人選手と滝沢選手の通称「タキヒサ」コンビだろう。だが、高宮選手と伊達選手の女流2人にも十分華がある。ビジュアル的に最も優れたチームとは率直な印象だが、優勝経験こそないものの十分強チームの部類に入る。いわゆる高位安定。MVP獲得経験のある選手も2人(寿人選手、伊達選手)いる。優勝できないのが不思議なくらいの顔ぶれだ。ドラフト1位の寿人選手が目指すは悲願の初優勝のみ。
・渋谷ABEMAS(5位)[多井隆晴 白鳥翔 松本吉弘 日向藍子]
このチームの顔はなんといっても多井選手だ。多井選手と彼を支える3人。なんとなくそうしたイメージだが、多井選手以外の3人も言わずもがな、強い。慶應大卒の白鳥選手と青山学院大卒の松本選手。2人の大卒男性プロと、リーグ2年目に加入した笑顔溢れる明るいキャラの日向選手。これといった隙は見当たらない。バランス抜群の鉄壁のチームだ。この顔ぶれはで戦うのは来季で6年目。全チームの中では最もメンバーが変わっていないチームになる。
変わらない理由はわかりやすい。常に上位だからだ。昨シーズンこそ初めてファイナル進出を逃したが、それまでは初年度から全てファイナルに進出していた唯一のチーム。いわゆるリーグの常勝軍団だ。それだけに来季は巻き返しに期待がかかる。Mリーグの顔でもある多井選手もいつ勇退するかはわからない。そんな多井選手の姿をMリーグを見始めて日の浅い筆者はまだもう少し見ていたいのが正直なところだ。常勝軍団の行方やいかに。
・EX風林火山(4位)[二階堂亜樹 勝又健志 松ヶ瀬隆弥 二階堂瑠美]
チームの顔は二階堂亜樹選手と二階堂瑠美選手の二階堂姉妹(通称るみあき)。だが、チームのエース的な存在は「麻雀IQ220」の異名を持つ“軍師”こと勝又選手になる。その3人に「繊細なる超巨砲」こと松ヶ瀬選手を加えたイカついチーム。また、チームの4人全員がほぼ同年代(40代前半)という珍しいチームでもある。新設のBEASTとは異なるある種の大人感漂うチームとでも言おうか。ビジュアル的にはゴツいが、麻雀は繊細。そう簡単に負けそうな気はしないチームだ。
・KADOKAWAサクラナイツ(3位)[内川幸太郎 岡田紗佳 堀慎吾 渋川難波]
かつてはよくわからないが、現在のチームの顔はなんといっても岡田選手だろう。Mリーグにあまり詳しくない人にとっては、サクラナイツ=岡田選手といっても過言ではない。その他の男性選手3人も曲者揃い。エース的な存在は堀選手だが、昨季のチーム一の勝ち頭は先述の岡田選手で、そのタレント活動も含め、昨季は岡田選手の活躍がとりわけ際立ったシーズンだった。選手としての存在感は同じくタレントでもあるBEASTの中田選手を大きく上回る。
岡田選手も含め、現メンバーの顔ぶれはそう簡単に変わりそうな感じはしない。常勝のイメージを植え付けるためにも来季も上位進出は欠かせないだろう。
・赤坂ドリブンズ(2位)[園田賢 鈴木たろう 浅見真紀 渡辺太]
もしMリーガーとして加入するならばどのチームかと聞かれれば、筆者ならばこのドリブンズと答えるつもりだ。ひと言でいうと、知的な雰囲気が漂うしたたかなチーム。チームカラーでもある黄緑色に爽やかで聡明なムードを感じるのは僕だけだろうか。
その知的な香りはチーム創設時から所属する2人より、昨シーズン加入した2人の新Mリーガーにより強く感じた。「聡明なるバイプレイヤー」こと浅見選手と、医師の資格を持つ渡辺太選手だ。敷居が高いと噂のドリブンズのお眼鏡にかなったこのルーキー2人の頑張りが、昨季の好成績に繋がった。少なくとも僕にはそう見えた。
特に太選手。この選手、見るからに思慮深いというか、頭が良さそうだ。現役の医者なのでそれはある意味当然なのだが、そんな太選手への期待感はかなり高い。すでに来季MVPの有力候補との呼び声もあるほどだ。こうした新加入選手が活躍するほどチームは勢いづくとは昨季のドリブンズを見ていて思ったことだ。
昨季加入したばかりの2人だが、すでに何年も前からチームにいたかのような、それくらい馴染みのある存在に見えた。いわゆる寄せ集め感、バラバラ感はなかった。そこにプラスしてチームにはいい感じのフレッシュさも漂う。その絶妙な感じが来季はどう反映するか。どこか進学校的な匂いのするチームのカラーに来季も目を凝らしたい。
・U-NEXTパイレーツ(優勝)[小林剛 瑞原明奈 鈴木優 仲林圭]
昨季の優勝チーム。チーム4人中3人がMVPを争うなど、圧倒的な成績で全ステージ首位の完全優勝を達成した。とはいえ、2シーズン前にはメンバー入れ替えの対象になるなど、リーグの中では決して常勝軍団というわけではなかった。実際、もし昨シーズンレギュラーを突破していなければ2度目のメンバー入れ替えの対象になっていたわけで、その優勝は背水の陣で迎えたシーズンにおける結果だった。
チームキャプテンでもある船長の小林選手。「気高き女海賊」こと早稲田大卒の瑞原明奈選手。そして昨季MVPを獲得した鈴木優選手。有力選手揃う昨季の王者だが、このチームのなかで筆者の一番気になる選手、最もお気に入りの選手は「龍を継ぐもの」こと仲林圭選手になる。
理由は単純。Mリーガーたちの中で喋りが最も面白かったからだ。試合の解説やその他出演していたMリーグ関連の番組などを見てそう感じた。サービス精神に富んでいるし、ユーモアのセンスも悪くない。誰の解説で試合を見たいかと聞かれれば、筆者ならば迷わず仲林選手を挙げる。
多井選手や鈴木大介選手の喋りも同様に悪くないが、お笑い的なセンスは仲林選手のほうが上だ。そのセンスは軽妙な喋りのみならず、彼が書いた文章にも現れている。仲林選手がかつて連載していたコラムを読んだことがあるのだが、そこにはこの選手の面白さ、イケてる喋りの才能が存分に詰まっていた。面白い喋りをする人が書く文章は面白い。そしてその逆も然り。面白い文章を書く人の喋りは概して面白いのだ。
仲林選手はどちらかと言えばぱっと見ヤンチャ系。少なくとも渡辺太選手のようないわゆる優等生的な感じでは全くない。毒舌系というか、あえて言えば悪役が似合うタイプだ。だが、こういう人の方が喋りは面白いとは筆者の持論になる。そんな仲林選手を見て想起したのはプロ棋士の渡辺明九段だ。この人も将棋界ではどちらかと言えば悪役タイプ。藤井聡太的、羽生善治的では全くない。だが、その喋りは抜群に面白い。おそらく将棋界一。SNSで発する文章もユーモアで溢れている。それでいて実力はいまだA級のトップクラスだ。イケてる喋りプラス実力。渡辺九段が将棋界でも屈指のスターとして君臨する大きな要因だと思う。
話が逸れてしまったが、仲林選手にもこうした渡辺九段的な素養は十分備わっている。話術はすでに合格だ。あとは成績。仲林選手もいずれはMVPを取ってもおかしくない選手のひとりだと思う。
史上初の2連覇。そして初の個人MVP獲得なるか。来季のパイレーツ、そして仲林選手から目は離せない。
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