R-1グランプリ2022に期待したいこと
3月6日(日曜日)20時放送と発表された、R-1グランプリ2022。決勝戦まで1カ月。現在は準々決勝までが終了しており、準決勝を戦う31人が出揃った状況にある。
昨年と同じルールで行われるとすれば、ここから決勝戦へ勝ち上がることができるのは10人(復活ステージ勝者を含む)。準決勝の出場者は31人なので、およそ3人に1人が決勝へ進出することになる。
だがこう言ってはなんだが、準決勝進出者の顔ぶれが発表されても、ワクワク感というか、お笑い界に緊張感漂うムードというものを感じることができない。予選の模様を見ていないので詳しく述べることはできないが、優勝者やファイナリスト云々よりも気になるのは大会そのもののレベルだ。今大会最大の注目ポイントはここになる。
出場制限や審査方法などのルール改定、さらには司会者や審査員の変更など、大幅なリニューアルが施された昨年のR-1グランプリ2021。ゴールデンタイムで生中継された決勝戦の出来栄えは、率直に言って酷かった。ネタのレベルの低さも目に余ったが、それ以上に違和感を覚えたのは、大会の進行そのものだった。
一人ずつ表示していた審査員の点数を途中から一斉にオープンしたり、審査員が感想を述べる時間も後半になるほど短くなったりと、その杜撰なスケジュール管理は誰の目にも明らかだった。
ツイッターによる国民投票を設けながら、それが審査の大勢に影響しなかったことも問題だが、その審査システムに時間を費やす様はそれ以上にダメなものに見えた。なぜ7人もの売れっ子芸人たちを審査員として呼んでおきかながら、結果に大きく反映されない中途半端な国民審査を行うのか。その感覚がこちらにはよくわからない。M-1やキングオブコントのように、なぜ自ら選んだ審査員たちの力量を信用しないのか。
そもそもの話をすれば、なぜわざわざ出場資格を変更してしまったのか。大会の見栄えが突如、格段に悪くなってしまった一番の原因はここにある。
芸歴の浅い芸人が面白くないというつもりは全くない。若くても面白い人はたくさんいる。だがそれまで制限がなかった出場資格をなんの前触れもなく「芸歴10年以内」にすれば、出場者のレベルがガクッと下がるのは当然だ。昨年出場したファイナリストたちに対してとやかく言いたくない理由でもある。本来ならば決勝に出場できるレベルにはないにも関わらず、彼らは突如大きな舞台に立たされることになった。そうした言い方をしてもいい。
少々乱暴に言えば、昨年の決勝の舞台で満足度の高いネタを見せた人は、個人的には1人もいないと思っている。M-1グランプリが終わって1カ月半が経過したいまは、なおさらそうした印象を受ける。
前回のR-1で唯一ブレイクしたと言えるZAZYに対してすらそうした印象を抱く。その決勝戦出場は前回が初。出場資格に制限がなかった時代は、一度も決勝の舞台に立つことはできなかった。もちろんその実力は認めるが、突如多くのライバルたちが消えたこととZAZYの躍進には深い関わりがあると僕は思う。出場制限のない、昨年以前の大会でZAZYのネタを見てみたかったとは、個人的な感想になる。
そうした意味でも、前回のゆりやんレトリィバァの優勝は僕的には妥当なものだったと思っている。その決勝戦出場は、前回大会で5度目だった。しかも準優勝を1度(2018年)、3位も2度(2015年、2016年)経験するなど、その戦績も申し分ない。M-1における笑い飯のような、少なくとも1度は優勝を与えるべき存在だったとでも言うべきか。昨年のネタの出来自体は決してそれほど良かったわけではない。だが過去の実績を見れば、その優勝に文句をつけることはできないのだ。これまでR-1を盛り上げてきた姿に対する、お笑いの神からのご褒美。前回のゆりやんの優勝を、少なくとも筆者はそう捉えている。
そんな圧倒的な実績と知名度を誇るゆりやんが優勝によって卒業した、今回のR-1グランプリ2022。前回がラストイヤーかと思われたZAZYとマツモトクラブだったが、今年も参加が認められることになった(今回こそがおそらく最後のチャンスだろう)。彼らの寿命が伸びたことは、大会のレベルアップを考えれば大きなメリットだろう。その他の実力者で言えば、かが屋・賀屋、吉住、ヒコロヒーという、テレビでの露出も多い人気者たちの名前も目につく。ここまで述べた彼らが、おそらく今大会の優勝候補に挙げられているものと思われる。
この他にも露出は少ないが、ちらほらと活躍が目につく芸人は何人かいる。上記で挙げた人気者が優勝するより、無名に近い芸人たちが活躍する方が大会は盛り上がりやすい。準決勝はそうした知名度が低い芸人たちのポテンシャルを確かめる、まさに絶好の機会になる。
冒頭では大会前特有のワクワク感を感じないとは述べたが、少なくとも大会自体は面白くなると僕は思っている。昨年の内容があまりにも酷かったので、少なくともそれよりは良くなっているはず。前回の反省が生かされた大会にはなるはずだ。だが、その面白さの比較対象となるのは前回大会ではない。ライバルは過去のR-1ではなく、その他のお笑い賞レースになる。
審査員の大幅な変更により成功を収めたキングオブコント2021。「国民投票枠」を設けたことでエンタメ性を上昇させたTHE W 2021。大会自体のレベルもこれまでの中では最も高い、少なくとも及第点の内容を見せたことは記憶に新しい。そして相変わらず高い緊張感とハイレベルな戦いを見せつけたM-1グランプリ2021。昨年はまさにお笑い賞レースのレベルアップをまざまざと感じた1年だった。だからと言うべきか、3月に行われたR-1グランプリ2021の低級さ、物足りなさは余計に際立つことになった。
ネタのレベルは確かに低かった。だが、そんなネタにも可能な限り高い点数をつけようとする審査員、必死に良い感想を述べようとするその姿が、僕にはファイナリストのネタ以上に見ていて辛かった。
比較したくなるのはM-1グランプリ2018決勝。トップバッターで登場した見取り図のネタに対するコメントを求められた際、絞り出すように発した松本人志さんの言葉になる。
「そこまでウケてなかったかな」
つまらなかったわけではないが、決して優勝を狙えるような出来ではなかった。こうしたネタに対して、大抵の審査員はまず最初に良いと思った部分を挙げるだろう。その後に「ここをこうすれば」的な改善案や寸評を述べるものだが、松本さんは違った。苦悶の表情を浮かべながらも、開口一番に「ウケていなかった」と、かなり厳しい言葉を発したわけだ。
褒めること、優しい言葉をかけることは比較的に簡単にできる。だが、自らの意見をはっきりと述べることができる人、上記の松本さんのような言葉を吐ける審査員は決して多くない。松本さん的な審査員は年々減少している気がする。
面白くないネタをする芸人がM-1の決勝まで進出することはまずあり得ない。基本的にネタは面白い、それは分かっている。だが、その面白さが常に100%見ている人に伝わらないのがお笑いだ。出来がよくない場合もある。少なくとも僕は、出来がよくなかった時は、よくなかったと言う人の方を信用したくなる。もっと言えば、カリスマ性を感じる。良い感想を述べるだけでは審査員としてのカリスマ性は生まれないと言い切れる。松本さんやオール巨人さん、上沼恵美子さんには絶対になれないのだ。
まだ発表されていないが、おそらく今回のR-1の審査員に大きな変更はないと思われる。昨年と同じ顔ぶれになると思われるが、彼らがそこでいったいどんな台詞を吐くか。個人的には注目したくなる。昨年は審査員が満足な感想を述べるだけの時間が与えられなかった。それはそれで問題だったが、そうした運営的な部分が今回はどう改善されているか。審査員のコメント同様、その時間配分にも目を凝らしたい。
問題山積みのR-1グランプリは果たしてどれほど変われるか。動かぬ石は動くのか。M-1とはまた違う、異なる興味深さを覚えるのだ。
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