M-1グランプリ準決勝寸評。26組の感想を述べてみた(後編)
前回の続き
グループC
14 もも(吉本興業)
今回の準決勝、最も面白かったコンビを1組挙げよと言われれば、このコンビになる。ネタを見終わった瞬間、「優勝するんじゃないの?」と、お世辞抜きに思った。じゃないの? と、返しが弱くなるのは感触程度になるからだが、印象は悪くない。少なくとも僕の中では、もっと見てみたい漫才だった。褒めすぎを承知で言えば、2019年のミルクボーイ。その実力は本物だ。「これぞ漫才」と言いたくなる、面白い漫才のお手本のような良質なネタを披露した。好感度の高い、正統派のしゃべくり漫才。個人的に推したくなる、優勝候補筆頭コンビだ。
15 オズワルド(吉本興業)
ニューヨーク、ハライチ、見取り図など、前評判の高かった人気コンビが続々と敗れるなか、オズワルドはしっかりと決勝進出を決めてきた。それも、危なげなく。彼らの前に登場したももがこの日一番と言えるようなネタを披露してきたが、オズワルドもそれに負けず劣らずのネタを見せた。その決勝進出は、今回で3年連続になる。前々回(2019年)、前回(2020年)との違いは、自信が漲っているところ。おそらく当人たちも、自らの立ち位置を十分把握しているものと思われる。優勝予想ではおそらく1,2番人気だろう。決勝戦では過去2回連続で、出順が優勝したコンビの直後という、ある種の不運も味わっている。今回は運が向きそうな気もするが、あえて不安要素を挙げれば、準決勝で披露したネタが、僅かながら怖かったこと。畠中が繰り出す猟奇的かつサイコパスなキャラクターを活かしたボケを、審査員がどう評価するか。審査員たちも、オズワルドにはもう“慣れている”。その分、初出場組よりもハードルは高い。それに加えて今回、ライバルはかなりの曲者揃いだ。受けて立つと危ない。その優勝は決して簡単には見えないとは、個人的な意見になる。
16 ランジャタイ(グレープカンパニー)
節々で既存の曲を使っていたため、ネタのおよそ半分くらい、配信では無音となってしまった。それでもそのウケ方を見た限りでは、決勝に行きそうな匂いはした。どのコンビを決勝に上げれば、大会の注目度が高まるか。そうした視線を傾ければ、ランジャタイはその一番の候補と言ってもいい。彼らをファイナリストに選ぶのは、まさに怖いもの見たさの心境とも言える。想起するのは2017年のマヂカルラブリー。もう少し遡れば、2010年に初めて決勝に進出したジャルジャルだ。その採点の際、審査員たちの何人かは、明らかに苦悶の表情を浮かべていた。どう審査すればいいのか。これまで見たこともない、独自性溢れる彼らのネタに対して、まさに評価の仕方がわからないという感じだった。その結果、マヂカルラブリーやジャルジャルは下位に沈んだわけだが、彼らはいまや、れっきとした賞レース王者に輝いている。はたして、ランジャタイはどうなのか。たとえ結果が出なくても、気を落とす必要はない。本当に面白い芸人は、いずれ必ず評価される。変に欲張らず自分たちらしさを貫けと、彼らには言いたい気持ちだ。
17 金属バット(吉本興業)
ネタはそう悪くなかったが、準決勝では、その出順は決してよくなかった。金属バットの前に登場した3組(いずれも決勝進出)が大きくウケていたことで、彼らのネタよりも、やや落ち着いた感じに見えてしまった。何年か前なら、金属バットの芸風は、独特でカリスマ性のある感じだったが、現在では様々なタイプの漫才師が急増したことで、そのいい意味での「らしさ」がやや薄まっている印象も受ける。彼らの前に登場したランジャタイが、さも嫌な存在に見えたに違いない。人気者が多い今回の敗者復活戦を勝ち上がる可能性も高くないだろう。個人的に好みのコンビなのだが、今回もひっそりと敗退してしまう姿が残念でならない。
18 ダイタク(吉本興業)
このグループCでは、7組中4組のコンビが決勝進出を決めた。こう言ってはなんだが、その中では最も低調だったダイタクの敗退は、当然と言えば当然。相変わらず“双子”を活かしたネタだったが、その限界を見せられた気がする。このスタイルでは、おそらく決勝進出は難しいのではないか。根本的な何かを変えなければいけない時期を迎えているような気がする。終盤でのミスも痛かった。
19 からし蓮根(吉本興業)
ネタは相変わらず面白い。10点満点で言えば、7点は十分付けられた。今回は決勝に進めなかったが、その敗れ方には好印象を抱かせた。同世代の東京ホテイソンとの違いは、その敗れ去る姿になる。ある程度底が見えた感がある東京ホテイソンと、まだ余力を感じさせるからし蓮根。2回目の決勝進出の可能性は、からし蓮根の方が確実に高い。そうしたムードを感じさせるような、決して悪くないネタだったと僕は思う。最後の甘噛みがなくても、十分良かった。
20 インディアンス(吉本興業)
オズワルド同様、3年連続の決勝進出。だが、それぞれに感じる可能性には、客観的に見て大きな差がある。優勝が狙えそうなオズワルドと、トップ3以上は難しそうなインディアンス。オズワルドのネタには良い意味で“重み”があるが、それに比べて、インディアンスのネタは“軽い”。「ここで笑いを取る」という、そのポイントがわかりにくいのだ。ボケの田淵が喋りまくるそのスタイルは、良く言えば手数の多いマシンガンのようなボケだが、その分、単調になりやすい傾向がある。ネタに抑揚がなければ、その評価の最大値は高くなりにくい。過去2回の決勝が、まさにそんな感じだった。さらに言えば、その全てのボケを汲み取ることが、割と難しい。ツッコミのきむに関しても、これといって特筆すべき要素はあまりない。最高でも4位だと見るが、はたして。
グループD
21 ヘンダーソン(吉本興業)
ジワジワと効いてくる、個人的には好きなタイプのネタだが、パンチ力はまだ足りず。似たような展開を繰り返す、そのスタイル的にはももにも似ているが、ももが相手をディスる系なら、こちらは自虐系。スケール的にも、ももには大きく劣って見えた。
22 キュウ(タイタン)
内容は悪くなかったが、やはりM-1と彼らの相性はよろしくない。これまでは両者とも大人しい感じの喋りだったが、この準決勝ではツッコミの清水が大きな声を出す、いわゆる怒り気味のツッコミを多用していた。今後どのようなツッコミで行くのかは気になるところ。相変わらず、ネタの切り口は面白い。独自の世界観はすでに確立している。あとはそれが世間にどう伝わるか。注目して損はないコンビに変わりはない。
23 アルコ&ピース(太田プロダクション)
相変わらずの、“らしさ”全開の漫才。ひと言でいえばそうなる。かつてTHE MANZAIで爆笑をさらった「忍者」のネタを彷彿とさせる、アルコ&ピースにしかできない独自の漫才をこの準決勝でも披露した。出来自体は決して悪くなかった。もし決勝に進出していても、決して違和感は覚えない。今回はそれくらいの激戦、接戦だった。M-1最後の舞台となる敗者復活戦で、どんな姿を見せるのか。真冬の野外でやるネタとしてはやや不向きにも見えるネタだが、はたしてどうか。あの平子が大人しく引き下がる姿を僕は想像することはできない。何かしら存在感を発揮してくれるはず。そうした期待も込めて、敗者復活戦に目を凝らしたい。
24 錦鯉(ソニー)
昨年のM-1。その決勝で見せた錦鯉の「パチンコ」のネタ(準決勝で通過したネタ)に対して、「なんで、あのネタやったんだ」と言ったのは、同じ事務所のバイきんぐ・小峠だった。そしてそれは、筆者が抱いた感想と同じものでもあった。例えば「選挙演説」のネタをもし昨年の決勝で披露できていれば、錦鯉の結果はもっと良かったのではないかとは、こちらの見解になる。昨年はネタの選択を少々失敗しても決勝に進出したわけだが、そんな今回は、前回よりも必然性に富む勝ち上がりだった。今回見せたネタは、前回よりも確実に良い。こちらのタイプのネタの方が、錦鯉には合っている。相変わらずの馬鹿漫才だが、それこそが彼らの最大の武器。そのキャラクターと漫才のスタイルが完全に一致しているところに、錦鯉の強みがある。ネタの方向性に対する違和感は一切ない。目標は最終決戦進出だと思うが、注目すべきは審査員の評価だ。特に大ベテランの審査員の方には、あまり評価されているようには見えない。オール巨人さん、松本人志さんから何点を付けられるのか。個人的にはそのあたりにに注目したい。
25 モグライダー(マセキ芸能社)
既存の曲をメインに使ったネタのため、配信ではその大部分で音声はカットされた。しかし、彼らに流れがありそうなことは、3回戦のネタを見たあたりからなんとなく気にはなっていた。音声が僅かしか聞こえなかった配信では、ネタの合間のウケ方を見ただけでも、決勝に行きそうな匂いはぷんぷんと漂っていた。そして今回、ようやく初の決勝進出を手繰り寄せることに成功した。個人的な期待度で言えば、ランジャタイよりも上。今大会随一のダークホース。そう言ってもいい。配信ではネタをしっかりと見ることが出来なかったため、その分、決勝への期待は膨らむのだ。いわゆるネタバレしていない状態のため、ファイナリストの中では、その立ち位置は抜群に良い。最大限うまくいけば、マックス優勝もあると僕は思う。
26 さや香(吉本興業)
最後の26組目に登場したため、いやが上にも比較しやすい状況にあった。その上位9組に入る出来だったかと言えば、答えはノーだ。かつてのファイナリスト(2017年)でもあるが、その頃の貯金はなくなりつつある。これといった新しい何かもあまり感じなかった。「さや香」とは何か? その独自の武器が明確にならないと、2度目の決勝進出は難しいと見る。