本命不在のキングオブコント2022。個人的に注目したい、気になるグループを挙げてみる

 現在予選が行われているキングオブコント2022。現時点ではすでに準々決勝が終了しており、その準決勝進出組が先日発表された。

 準決勝進出を決めたのは今回35組。その名前の一覧をパッと見て思うのは、大本命がいないことだ。誰もが知るような全国クラスの人気者は、せいぜいジャングルポケットくらいに限られる。最も優勝に近いと断言したくなるようなグループ、話題性の高そうなスーパースターは特段見当たらない。

 昨年と比べるとその違いは分かやすい。前回の準決勝には、近年の賞レースを賑わせる知名度の高そうなグループがそれこそ数多くひしめいていた。

 現役のM-1グランプリ王者としては史上初、それも3冠を狙って挑んだマヂカルラブリー。そのマヂカルラブリーに触発されるようにして出場した“お笑い第七世代”の筆頭・霜降り明星。さらには直近のM-1を沸かせたおいでやすこが、チョコレートプラネットとシソンヌがタッグを組んだチョコンヌなど、この大会から認められた即席ユニット勢もそれなりに話題を集めていた。そこにニューヨーク、空気階段、ロッチ、アルコ&ピースといった知名度の高いコンビや常連グループが絡む様は、個人的にはそれなりに豪華に見えたものだ。

 ところが今回、優勝した空気階段以外の前述の有名グループは、どうやら大会にエントリーしなかった様子だ。その理由は詳しくはわからないが、なんとなく想像はできる。おそらく多忙がその最大の要因だろう。マヂカルラブリー、ニューヨーク、チョコレートプラネット、シソンヌ……。彼らのこの1年間の活躍ぶりは、それ以前のものより明らかに際立っている。そんな多忙を極めているであろう彼らが、大会へ参加するだけの十分な余裕と準備が確保できるとは到底思わない。もっと言えば、上記で述べた彼らはすでに芸人としてそれなりの地位を築くことができている。こう言ってはなんだが、わざわざ無理をしてまでキングオブコントに出場する必要はもはやないのだ。

 マヂカルラブリー級、霜降り明星級の有名グループは今回いない。空気階段も、ニューヨークもいない。これらは混戦を予想させる理由のひとつになるが、逆に言えば、今回はどのグループにもそれなりにチャンスがある。少なくとも半分くらいのグループに、大袈裟に言えば優勝のチャンスがあると思っている。突出したグループは見当たらないが、そこまで落ちる組も存在しない。ほぼ横一線。これこそ接戦が予想される理由に他ならない。

 今回もエントリーした前回ファイナリストの中で、準決勝まで残れなかったのは、男性ブランコただ一組。前回のファイナリスト10組中、すでに5組しか残っていないというわけだ。つまりこの時点で、ファイナリストの半分は入れ替わることが決まっている。さらに言えば、その5組全てが勝ち上がるとは考えにくいので、決勝はおそらくかなり新鮮な顔ぶれになると思われる。

 ザ・マミィ(前回準優勝)、ニッポンの社長(4位)、蛙亭(6位)、うるとらブギーズ(7位)、そいつどいつ(8位)。現時点で勝ち残っている前回ファイナリスト5組の中で、個人的にイチオシはニッポンの社長になる。ある概念に照らせば、ネタの発想力は一番のコンビだ。もっと評価されてもおかしくないコンビ、優勝しても全くおかしくないコンビと言ってもいい。

 さらには一昨年、昨年と連続して決勝に出場しているコンビでもある。何を隠そう、昨年の優勝予想で筆者が名前を挙げたのも、このニッポンの社長になる。昨年の決勝戦、少なくともネタは悪くなかった。個人的には十分面白かったが、物足りなかったところをあえて言えば、ツッコミが弱かったところになる。

 前回披露したのは「バッティングセンター」というネタだった。ボケを担当したのはおじさん役を演じたケツで、ツッコミは学生役を演じた辻だったわけだが、このコンビの場合、ボケとツッコミはそれほど明確には決まっていない。ネタによってその役割はよく変わる。もっと言えば、ボケとツッコミに担当を分けること自体に、個人的には少し抵抗を覚える。ボケの要素を含んだツッコミ、ツッコミの要素を含んだボケといった感じの、味の深い役をそれぞれが演じている。もちろんそれがニッポンの社長の持ち味でもあるのだが、ボケとツッコミがハッキリしていないので、例えばバイきんぐのような締まりのあるパワフルな味は感じにくいのだ。その役割がややぼやけた感じが、あともう一つ高いところに手が届かない要因のひとつかもしれない。だが繰り返すが、ネタの発想力はピカイチだ。こちらの期待値が高いことに変わりはない。

 その他の前回ファイナリストで言えば、準優勝のザ・マミィ、8位・そいつどいつの2組もそう悪くない。今年も決勝に進出する勢いがありそうに見えるが、一方で僕の目に少し危うく見えるのは、いま何かと話題に挙がることが多い旬な男女コンビ・蛙亭だ。その決勝進出は前回が初。以来ここまでバラエティ番組では順調に活躍しているが、ネタに関しては個人的にはややいまひとつという印象を受ける。少なくとも筆者にはその優勝する姿を想像することはできない。

 前回ファイナリストは果たして何組決勝に勝ち上がるのか。近年の傾向を見る限りでは、おそらく2〜3組くらいだろう。M-1よりキングオブコントの方が常連組には不利になりにくいとは個人的な見解だが、今回初進出を狙う組、または返り咲きを狙うグループにも、面白そうな芸人はたくさんいる。むしろこちらの方が期待したい芸人は多いかもしれない。

 初進出を狙うグループのなかで個人的に真っ先に触れたくなるのは、結成10年目の男女コンビ・相席スタートになる。その準決勝進出は今回で8回目。これはいわゆる実力の証と言ってもいい。最近では「ラヴィット!」(TBS)をはじめとしたバラエティ番組で際立った活躍を見せている山添に良いムードを感じるが、その勢いを見ると、機は熟しているような気がするのだ。そろそろ決勝に進出してもおかしくない頃だと見ている。僕的には蛙亭よりも気になる存在だ。

 その他で期待したくなるのは金の国、いぬ、コットン、サスペンダーズ、ヨネダ2000、隣人などになるが、初進出を狙うグループの中でもやはりというか、最も気になる存在と言えるのが、即席ユニット“最高の人間”だろう。

 “最高の人間”というユニット名を耳にしただけでは、ピンと来ない人がおそらくほとんどだと思われる。筆者もその一人だったわけだが、その顔ぶれを見れば、こちらの目は一瞬にして奪われる。岡野陽一と吉住。プロダクション人力舎に所属する、言わずと知れた実力派ピン芸人同士によるユニットだと分かれば、否が上にも期待値は上昇する。

 吉住は2年前のTHE W王者、さらには現在2年連続でR-1グランプリファイナリストに名を連ねる賞レース常連芸人の一人だが、一方の岡野陽一も、かつて“巨匠”というコンビでキングオブコントの決勝に2度(2014、2015年)も進出した経験を持つ実力派のコント師だ。強者同士が手を組んだ、まさに期待感高まるユニットと言えるだろう。両者のピンネタには色んな意味でセンスの高い馬鹿馬鹿しさがある。そうしたテイストがはたしてどう生かされているのか。まだネタを見たことがないので何とも言えないが、この両者がつまらないネタを披露するとは考えづらい。これがもしドリームマッチであれば、思わず優勝候補に推したくなる。同じ人力舎所属の後輩、ザ・マミィとの直接対決を見てみたい気もするが、はたして決勝の舞台で実現するのか。その可能性は25〜30%くらいはあると僕は見ている。

 最後に挙げたいのは、かつて決勝に進出したことがある、いわゆる返り咲きを狙うグループだ。個人的にはこの中から優勝者が現れる可能性が一番高いような気がする。

 かが屋、GAG、ジャングルポケット、ゾフィー、ななまがり、ネルソンズ、ビスケットブラザーズ、やさしいズ、ラブレターズ、ロングコートダディ。

 この10組にザ・マミィ、ニッポンの社長、蛙亭、うるとらブギーズ、そいつどいつを加えた計15組が、今回の決勝戦経験組になる。いずれもファイナリストとなったのは審査方式が大きく変わった2015年以降。言ってみれば、直近の大会で見たことがある顔ばかりだ。世間的にもある程度知られている芸人たちになるが、このなかで今大会見てみたいグループを挙げるとすれば、個人的には次の3組になる。

 1組目は昨年のM-1ファイナリストでもある実力派コンビ、ロングコートダディだ。M-1決勝進出によりその認知度は上がっているが、大阪に拠点を置いていることもあり、その他のM-1ファイナリストたちに比べると、全国的にけっして大きく活躍しているとは言い難い。しかし、その分だけ余力がありそうというか、その魅力が全開になる可能性を秘めている。見るからにセンスの高そうな堂前の作るネタには、既存の概念には収まらない独自の世界観がある。2年前の決勝では消化不良に終わった印象だが、今回はそうはならないはず。M-1に続く連続ファイナリストに期待したい。

 続いて挙げたいのは、センスが売りのロングコートダディとは逆というか、世間的な人気はそれほど高そうには見えないコンビになる。「水曜日のダウンタウン」(TBS)による“ある企画”で大きな爪痕を残したコンビといえば、ピンとくる人はいるのではないか。森下直人と初瀬悠太による吉本興業所属のコンビ、ななまがりに僕は大きな期待を寄せている。その決勝初進出は2016年。ライスが優勝した大会になるが、その時の結果は9位。決勝の大舞台で活躍したとは言い難いが、そんな彼らへの注目度が大きく増したのは、先述の「水曜日のダウンタウン」による『新元号を当てるまで脱出できない生活』という企画になる。以来、その露出を僅かながら増やすことになり、こちらの目に入る機会も増えているが、その印象は決してそれほど悪くない。むしろいい。「水曜日のダウンタウン」に取り上げられて以降、ななまがりのネタやトークなどには目を凝らすようにしているが、外れはけっして多くない。昨年のM-1の予選で目にしたネタも面白かったし、「アメトーーク」や「ロンドンハーツ」といった番組に出演してもそれなりの活躍はできている。ブレイクまではもう一息というか、何か大きな実績があれば、ブレイクするポテンシャルは十分にあると僕は思う。前回の決勝では全くの無名だったが、ある程度知名度のある今回は、少々突飛なネタをしても受け入れられる土壌はできている。もう一度決勝で見てみたいコンビの一組だ。

 コンビを2組挙げたので、バランス的に最後はトリオを挙げておきたい。予選が始まる前は昨年のファイナリストでもあるジェラードンに期待していたのだが、メンバーの海野裕二の休養により今回は不参加。そんなジェラードンのライバルとよく言われているのが、彼らの2年後輩でもある、同じ吉本所属のトリオ・ネルソンズになる。先輩ジェラードンよりも先にキングオブコントの決勝(2019年)に進出した、知る人ぞ知る実力派。この時点で述べるには少し勇気が必要だが、個人的には優勝候補の筆頭だと見ている。ライバル・ジェラードン不在の今回は、その最大のチャンスと言っても過言ではない。

 ネルソンズのエース、その中心人物は、なんと言っても和田まんじゅうだ。その姿を筆者が初めて見たのは、「とんねるずのみなさんのおかげでした」だったと記憶する。大先輩とんねるずからの無茶振りに体を張って笑いを取っていた姿が今も脳裏には鮮明に残っている。最近ではダウンタウンとも上手く絡んだりと、その露出並びに存在感は地味ながらジワジワと上昇している。相方の青山フォール勝ちはトリオの回し役として、もう一人の岸健之助も独自の持ち味を持つ3人目として、バランスやキャラクター的にも優れたトリオに見える。

 バラエティ番組での活躍が目立つ和田まんじゅうの魅力が弾けるようなネタさえ披露できれば、得点が弾ける可能性は高い。ネタが比較的わかりやすそうな点も、推したくなる理由のひとつだ。キングオブコントにおける実績ではジャングルポケットやGAGの方が上だが、この2組のマックス値はすでにある程度予想はつく。それぞれ4度も決勝に進出しているために、悪く言えばその手の内は知れている。だが一方で、ネルソンズにはまだ底は見えていない。同じトリオでも、可能性を感じるのはこちらの方になる。トリオで最後に優勝したのは2018年のハナコまで遡る。順番的にまたトリオに流れが来てもおかしくない頃に見えるのだ。

 今回史上初めて準決勝の戦いが(後日に)有料配信されることが決定したキングオブコント。これがはたして大会にどのような影響を及ぼすのか。さらには審査員の顔ぶれやその審査方法も気になる。前回と同じなのか、それとも変更があるのか。いずれにせよ、準決勝が実力者揃いであることに変わりはない。そして決勝は昨年よりもさらにハイレベルな戦いになるものと個人的には期待している。いったいどんな顔ぶれになるか。準決勝が楽しみだ。

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noriaki0357
ありがとうございます