「(2022年+2023年)÷2」的。キングオブコント2024ファイナリスト決定
キングオブコント2024。決勝戦(10月12日放送)を戦うファイナリスト10組が、以下のように発表された。
cacao、ダンビラムーチョ、シティホテル3号室、コットン、ニッポンの社長、ファイヤーサンダー、や団、ラブレターズ、隣人、ロングコートダディ
決勝戦初進出はcacao、ダンビラムーチョ、シティホテル3号室の3組。昨年からの連続進出は5組で、残る2組(コットン、ロングコートダディ)はいずれも2大会ぶりの決勝進出になる。
ファイナリスト10組中、実に7組が過去2大会の決勝戦で目にしたグループというわけだ。ざっくり言えば「(2022年+2023年)÷2」的な感じだ。前評判の高かったグループ、知名度の高い人気者は概ね順当に選ばれたとは率直な印象になる。
準決勝の有料配信を見たが、そこまでおかしな選出ミスは特段見当たらない。しずる、蛙亭、ザ・マミィ、ななまがりといった有力候補の敗退は妥当なところ。また初進出が期待されたサスペンダーズやダウ90000なども、少なくとも前回の準決勝で目にしたネタを超えるようなものではなかった。その他配信ではイマイチわかりにくいネタも多かったが、今回の準決勝の審査には十分納得する。
だが、もちろん重要なのは断然、決勝戦だ。準決勝の配信を目にするのは個人的には3度目(3年連続)だったが、全体的な感想を言えば、あまりパッとしなかった、となる。決勝戦のことを考えると、今回の準決勝に対する満足度はそれほど高くない。むしろ不安が募る。レベルの高い決勝戦を拝めるかどうか、若干心配になる自分がいるのだ。
その理由は単純。過去2大会の決勝戦があまりにも面白かったからだ。優勝したのはビスケットブラザーズ(2022年)とサルゴリラ(2023年)だが、個人的には優勝を逃したグループのほうが印象には強く残っている。2022年のクロコップ、や団、コットン。前回の2023年で言えばカゲヤマ、ニッポンの社長、ジグザグジギーなどになるが、いずれのグループも大会を大きく盛り上げる秀逸なネタを見せたことは記憶に新しい。特に前回準優勝のカゲヤマは、数年前ならば間違いなく優勝していたと言いたくなる圧倒的なネタを披露した。今回の落選を残念に思ったのは僕だけではないだろう。
そんなカゲヤマのネタから始まった前回の決勝戦。トップバッターで登場した彼らに95点を付けたのは松本人志さんだが、その数字は極めて妥当なものに見えたものだ。というより、後半に登場していればさらに高かったはず。トップバッターに与えた95点は、実質的にはもう1,2点は上だろう。大袈裟に言えばほぼ100点。このカゲヤマのネタは準決勝で目にしていたので僕的には予想の範囲に十分収まるものだったが、それでも決勝戦ではより弾けて見えた。過去最高のトップバッター。前回大会を名勝負に導いたMVPと僕の中では位置付けられている。
第2のカゲヤマ探し。トップバッターでも95点を付けたくなるネタ。そうした視線を今回の準決勝に傾けると、思いの外、見当たらなかった。これが率直な感想になる。
もちろんこれはあくまでも筆者個人の見解だ。たとえば前回のサルゴリラのネタが決勝であれほど爆発することなど、準決勝を見た時には全く予想がつかなかった。また、その前年のビスケットブラザーズも同様。過去2大会の優勝コンビの弾けっぷりは、少なくとも僕にとっては完全に想定外の出来事だった。そうした意味では、準決勝の段階からすでに期待度が低い今大会には、また違った見どころが存在する。確実にウケそうなネタがあまり見当たらない分、誰のどのネタがハマるかわからない、ある種のミステリアスな雰囲気に包まれている。
それでも予想しないのはやはりつまらないので、ファイナリストが発表されたいま、決勝戦の展望を少しばかり述べておきたい。
世間的に見た優勝候補は、コットン、ロングコートダディ、ニッポンの社長。おそらくこの3組だろう。知名度が高そうないわゆる人気者。なおかつ実力も十分兼ね備えている。このなかから王者が誕生すればあまりにも順当。なんというか、逆に面白くない。というわけで筆者の予想からはあえて外すことにする。そうしたなかで僕が今回の優勝候補に推すのは、や団だ。2本のネタの安定感はこのトリオが一番高かった。準決勝視聴直後、少なくともファイナリストから漏れることはないだろうと思ったグループになる。
だが、絶対の自信はない。むしろ消去法というか、判官贔屓を含んだ願望だ。これまで陽の当たらなかった実力者にスポットライトを浴びて欲しい。そうした気持ちのほうが強い。や団の決勝進出は今回が3年連続の3度目。初進出の2022年は3位で、内容も優勝に匹敵するくらいよかった。続く2度目の前回は5位で、この時はネタではなく順番が悪かった。爆発したカゲヤマ、ニッポンの社長に続く3番目は、本格派タイプの彼らにはあまりにも酷だった。力は十分備えているだけに余計にそう見えた。
今回を逃すと、優勝はおそらく今後相当難しい。どこか東京03的なテイストを持つベテラントリオ最大のチャンス。期待したい。
コットン、ロングコートダディ、ニッポンの社長を優勝候補に強く推せない理由は、その前評判の高さもあるが、もうひとつ挙げるならば、2本のネタの方向性だ。上記の3組とも、準決勝で見せた2本のネタはいずれもテイストはかなり違うもの。タイプの異なった2種類のネタという感じだった。この場合、かつてのロッチやチョコレートプラネットではないが、どちらかひとつはハマっても、もうひとつはハマらない。そうした展開になるリスクを少なからず孕んでいる。すでに売れている人気者ゆえに、その可能性はより高い。同じ方向性の2本を揃えたや団のほうに可能性を感じる理由でもある。
2本のネタのタイプは異なるが、初出場のダンビラムーチョにはそうした落差の不安は多少薄らぐ。記憶に新しい昨年のM-1グランプリファイナリストだが、キングオブコントでは今回が決勝戦初進出。コットン、ロングコートダディ、ニッポンの社長のような人気者感や常連感は現時点ではまだ備えていない。むしろ備えているのは勢いだ。M-1からキングオブコントへの連続ファイナリストはかつてのニューヨークを想起させる。加えて優勝候補ではないその気楽さも彼らには追い風になりそうな気がしてならない。こちらが決勝で見てみたいのは準決勝2日目のネタ。このネタがハマるかどうかが上位進出のカギになると見る。
立ち位置の話をすれば、前回からの連続進出、ファイヤーサンダーも悪くなさそうに見える。2本のネタのテイストにそこまで大きな差はない。前回は4位だったが、まだまだ余力がありそうなよい終わり方を彼らはした。それが今回の連続ファイナリスト繋がったと見る。さらに言えばネタもシンプルでわかりやすい。今回もボーダー(3位)を争う力は十分あると見る。
ファイヤーサンダーと同じく連続ファイナリスト、隣人とラブレターズには、準決勝を見る限りではあまり上位進出の匂いはしなかった。言ってみれば両者とも昨年のネタとほぼ同じ。少なくとも前回を大きく超えるような感じはなかった。むしろファイナリストの選出が意外だったくらいだ。フレッシュさや久しぶりといった武器も今年は特にない。今回の顔ぶれのなかでは下位候補とは個人的な印象になる。
最後は初進出の2組。吉本所属の若手トリオcacaoと、タイタン所属のシティホテル3号室。先述のダンビラムーチョとは違い、こちらは大きな賞レースでは初の決勝の舞台。早い話が今回のダークホース候補だ。準決勝のネタはどちらもまずまずといったところ。決勝をかき乱す存在になれるか、注目したい。
こうしてファイナリスト10組を見てみると、なんというか、少しばかり親しみを覚えるのは事実だ。10組中7組が過去2大会に出場したグループということもあるが、「ラヴィット!」(TBS)を見ている筆者としては、そこに馴染みのある顔が多くいることもまたその親しみに輪をかける。コットン、ロングコートダディ、そしてダンビラムーチョ。令和ロマンの抜擢もそうなのだが、「ラヴィット!」の躍進と上記の彼らの活躍には深い関わりがある。そう思わずにはいられない。
そして最後に、決勝戦の審査員についてもひと言。現状、松本さんがその席につくことはないだろう。となれば、そのかわりをいったい誰にするのか。いまお笑いファン全員が注目している人選といっても過言ではない。今年5月の「THE SECOND ~漫才トーナメント〜」における松本さんの代役はくりぃむしちゅ〜の有田哲平さんだったが、審査員となると話は変わってくる。審査員にはそれ相応のリスクや覚悟がつきまとう。コメントが求められるだけのアンバサダーではなく、自身で点数をつけ、その理由や考えをキチンと述べる必要に迫られる。時には悪役になる可能性もあるわけだ。芸人としての自分に自信がないと務まらないポジションとは僕の考えだが、それを松本さんの代わりにできる人はこの世界におそらくいない。これはある意味ではファイナリスト以上に重要な問題だと見る。
審査員を誰にするかはまだわからないが、「代わり」ではなく「穴埋め」くらいの気持ちで十分だと思う。近いうちに発表されるであろう審査員の顔ぶれははたしてどうなるのか。決勝戦を楽しみにしたい。
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