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百人一首24番 このたびはぬさもとりあへず手向山 もみぢの錦神のまにまに 菅家(菅原道真)
この小説は三羽烏様の
百人百首の企画小説です
よろしくお願いいたします
父が京都の僕のところに訪ねてくるのは
初めてのことである。
最近盆と正月に福岡に帰省するたびに
そろそろ学問は諦めて
自分の秘書になれと、うるさかったので
今年の夏は、論文作成が忙しいと帰省しなかったからだろう。
逃げらえては困ると思ったのか、
わざわざ訪ねてきて
都ホテルのロビーで会おうという。
父も今は会期中で忙しいはずだ。
いよいよわたしに研究を辞めて、
自分の秘書になれと引導を渡すのか。
いづれはそうなるにだろうと諦めてはいたが。
中学校の社会の教師が
志賀島の金印が本当に中国の漢から送られたかものかは
諸説あり、これを解明できれば、すごいことだぞと言ったのが始まりだ。
その研究に最も力を入れている京都大学に入り
漢の倭の那国はどこなのか調べてきたが、
まだ決定的な物証が志賀島でも大和でも見つかっていない。
自分の研究もそれまでの研究の踏襲に過ぎず
大きな成果もなく12年を費やした。
その日は三連休の土曜日でホテルのロービーは賑わっていた
父は顔が知れているので個室をとっていた。
「おぉ~道也‼変わりはないか?」
「今日はお前の結婚相手を連れてきたぞ」
ほっそりとした黒髪の女性が父の後ろに立っていた。
「お前も、もう32歳だ。跡取りのことを思えばそろそろ身を固めろ」
少し驚いたが、父らしいとも思った。
「この人は母さんの従妹のお嬢さんで、お宅は有名な神社だ。
國學院を卒業して、高校の書道の教師をしながら、
神社の手伝いもしておる。お前には過ぎたお相手だ」
そう言われて、よくよく見れば
まだ幼さが残る顔立ちで、ほとんど化粧気もない。
それでいて、透明感のある肌。黒目の大きい瞳。
まるで神の使いのようだと思った。
「父さんは仕事があるからもう東京にもどるが、
聖子さんは今日このホテルに泊まり、明日の夜大宰府に戻ればいいから
あすはどこか案内してあげなさい」
数万円を握らせて去って行った。
僕たちは食事をゆっくり楽しんだ後
明日9時にロビーでと、約束して別れた。
ちょうど京都は紅葉の時季で
有名な東福寺や南禅寺は嵐山のトロッコ電車などは
身動きもとれない状態だと分かっていたので
比叡電車に乗って、鞍馬山までやってきた。
「ここに来るのは初めてです」
と、聖子は目を輝かせている。
仁王門から参道ににかけて
紅葉が両側から燃えるように色づき
「やはり、京都はいいですね。うちの境内は梅ばかりです」
そう言いながら、スマホで写真を撮る彼女の横顔が美しく
自分も普通の男だったのだと、ふっと息を吐いた。
彼女は読書が好きだとというので、
紅葉を入れ込んだ栞と、キーホルダーを土産に持たせた。
「大事にしますね」と受けとった、その指の細さにまた驚いた。
どんなリングが似合うだろうと想像してみた。
鞍馬の川床で食事をとり、京都駅まで送った。
夢を見ているような時間だった。
2月で大学を辞め、3月に聖子と結婚をし、
しばらく地元の支持者に顔見世をして、
9月から東京で父の秘書として働き始めた。
聖子とならどんな苦労も乗り超えれる気がした。
ヘッダーはkeiさんの絵です
ありがとうございました
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