投資家から見たASEAN諸国の「中進国のワナ」
皆さん、こんにちは。
「中進国(中所得国)のワナ」という言葉ご存知ですか?
これは開発経済学の考え方なのですが、投資家としても非常に重要なんです。今回はASEAN諸国をこちらの観点で見ていきたいと思っています。
中所得国の罠(ちゅうしょとくこくのわな、英:Middle income trap)は、発展途上国が一定規模(中所得)にまで経済発展した後、成長が鈍化し、高所得国と呼ばれる水準には届かなくなる状態ないし傾向を指す通称。 2007年に世界銀行が『東アジアのルネッサンス』にて、同現象を形容する言葉として用いたのが初出である(Wikipedia)
ASEAN10か国の中ではマレーシアとタイが当てはまるのではないかと思います。一人当たりのGDPはマレーシアが1万ドルくらい、タイは7000ドルくらいですね。ちなみに日本は4万ドル弱といった感じです。
発展途上国と呼ばれる国々は、まずは労働集約型の1次産業や軽工業を中心に産業が興ります。人件費の安さを武器にグローバル企業の工場などを誘致し、雇用を創出し国民が安定的な収入を得ることができるようになります。
その軽工業で習得したスキルを武器に今度はより大規模な重工業にシフトしていきます。タイとかは自動車の組立工場が有名ですよね。また重工業は周辺産業も多いのでより大規模で国全体の経済が発展していきます。
大切なのはここで、「国民の生活が豊かになる」ということは「人件費が高くなる」ということを意味します。そうなると人件費の安さを武器に誘致していたグローバル企業は、今度は安い人件費を求めて工場を他の国に持っていくことになり、その際に知的産業など高度産業へ移行出来ていないと国の成長が止まってしまうというわけです。
なぜ中進国のワナを突破できないのか
このことを前提にASEAN諸国を見てみるとマレーシアとタイ以外はまだまだそのステージに直面している国はないのですが、今後他の国が直面した場合でもなかなかハードル高そうです。
専門家の方からすればいろいろ理由があるかと思いますが、私は居住者としての肌感覚の意見を。なにはともあれ、一番は「国民性」が大きく影響していると思っています。これは「完全に個人的な印象」ですが、暖かい国の方々はなかなかのんびり屋さんです。特に男性は(笑)。私も現役の頃は仕事でバンコクオフィスに良く行く機会があったのですが、バンコクのポジションが高い方々はすべて女性でスタッフが男性という構図でした。
ある程度「生きるための糧」を得てしまうとそれ以上頑張ろうと思う方は少ないようです(笑)。まあ、気候は温暖だし果物も良く実るし、生きていくだけということであれば、そこまで頑張らなくてもいいですしね。タイでは男性は、休憩時間とか多い運転手やGrabの仕事についている方が多いですね。
また、成長戦略の点でも人口はマレーシアで3000万人くらい、タイで7000万人くらいですので、国の規模としてもそこまで大きくはありませんし、人口増加も頭打ちです。
マレーシアでは国家主導の成長戦略でもあった「イスカンダル計画」ですら、かなり難しい状況になっている感は否めません。
このようなお国柄ですので、投資家としては中進国であるマレーシアやタイにはなかなか投資がしづらいのです。以前お話させて頂いたようにどうしてもて海外では細かい情報の収集が必要なミクロ投資より、国全体の成長性と連動したマクロ投資に軸足が行きがちです。
ASEANでは都市国家のシンガポールは別としてこの「中進国のワナ」を突破できる国があるかどうか判断が難しい所です。個人的に可能性があるのがベトナムだと思っていますが、共産主義国でもあり現在は外国人の投資などには厳しい規制を敷いていますのでなかなか手を出しづらい状況です。
というわけで投資家目線で言いますと、ASEANは「アーリーステージ」の投資に注力したほうが良いのかなと思っています。少なくともマレーシアのように一人当たりのGDPが1万ドルまで行くと仮定して、あとどれだけ「伸びしろ」があるかを判断するという感じです。私がカンボジアに不動産投資しているのはこんな感じの期待を込めてですね。
ASEANで「投資」よりも魅力的なこと
一方、投資ではなく「住む」ということであれば、これはこれで非常に魅力的な国となります。マレーシアもタイも「リタイアした方が住みたい国」の上位になっているのは偶然でありません。ある程度社会のインフラが整っており、かつ生活コストがそこまで高くない「中進国」というのは住民としては大変魅力的です。
また、ホワイトカラーの労働の担い手としては日本人はとても評価されるはずです。先ほど申し上げたように基本ASEANの男性はのんびり屋さんです(笑)。ですので、普通の日本人(特に男性)がASEANにいけば、必ず「意識高い人」に認定されること間違いなしです。
また、これからASEAN諸国は必ず日本が経験したことを時差つきで必ず経験することになります。その際に文化が異なる欧米の知見より同じアジア人の日本人の知見が重宝されるのは言うまでもありません。
どこでもまずは自身のスキルを向上させるというは大変大事なことですが、ある程度まで行った際には今度はどこのフィールドであれば「自身の価値が最大化出来るか」を見極めなければなりません。
個人的には必ず、一定期間は「修行」のステージを皆さん経験したほうが良いと思っていますが、日本人はそこで満足してしまう傾向があるように思われます。まあ、それが日本人の美学でもあるんですが。
これからの時代で大事なのは、「修行」の後に自分の「努力」をどのように「マネタイズ(現金化)するか」ということだと思っています。