北海道の最果て、襟裳岬にワーケーションに行って感じたこと。
はじめに
昨年の4月に渋谷から札幌へ移住し、北海道の成長産業支援をテーマに活動している株式会社POLAR SHORTCUT(ポーラー・ショートカット)の大久保です。もうすぐ札幌へ移住して1年が経とうとしています。
そんな最中、古くからの友人から「えりも町が『ワーケーションモニターツアー』なるものをやっていて、参加者の宿泊費と交通費が無料らしい」と誘われまして、3泊4日でワーケーションに行って参りました。
今回は、"リモートワーク" や "地方活性化" と同じ文脈で語られることの多い「ワーケーション」について実際に体験し、感じたことをざっくばらんに書き綴ってみました。企画・運営する側の方にとっても何かしらの参考になればと思っています。
札幌から226km、日高山脈の麓へ
えりも町は "北海道の背骨"と称される日高山脈の南端に位置する町で、北海道最果ての岬の一つ「襟裳岬」がある町です。札幌から車で約4時間半。
札幌から向かうと千歳市より先に大型の都市はなく、馬の名産地である日高町・浦河町など人口12,000人規模の町が地域の基幹自治体になっているようでした。
また、道外の方には馴染みがなさそうですが、北海道は道内の地域がそれぞれ "振興局(旧支庁)" という14個の行政区画に分かれており、日高山脈を隔てて西側が日高振興局、東側が十勝振興局になります。
地政学的にも日高山脈は周辺の気候に大きく影響を与えており、昨年の夏に十勝側の広尾町や大樹町が37度だったとき、日高側のえりも町は15度くらいだったとか...。特に筆者は十勝の帯広市出身のため、日高山脈の影響力のお話を郷土資料館で興味深く聞かせて頂きました。
写真ではややわかりにくいですが、南北150kmにわたる日高山脈が、徐々に標高を下げてそのまま太平洋に沈んでゆく大パノラマが見られる襟裳岬。海に沈んだ日高山脈はさらに6キロメートル続くそうです。
なお、襟裳岬は微妙に北海道最南端ではなく、北海道最南端は津軽海峡に面する松前町(函館方面)の白神岬とのこと。なので襟裳岬を形容するにあたり「最南端」というワードを使えないのはやや残念。
人は何を求めてワーケーションに行くのか?
ワーケーションに行って仕事は捗りましたか?とよく聞かれるのですが、結論としては全然捗りませんでした(笑)。
みついし昆布温泉、絶景スポットである襟裳岬(日中も夕日も星空も素晴らしかった)、地元の方々との交流などなど、道中にも滞在先近郊にも魅力・誘惑が多すぎたのです。
ですが、私の場合は「仕事に集中するため」でなく「いつもと違う環境でリフレッシュすること」を今回のワーケーションの一番の目的においていたので、そういう意味では充分に目的を達成できました。
今回の私のような目的であれば、良いワーケーションにするために必要な要因は以下の2つです(今回の学び)。
1つ目は「地元の情報に詳しく人脈がある人が、現地での様々な手配や情報提供をしてくれること」です。
今回のケースでは、えりも町観光協会の方がツアーガイドのような形で、アクティビティの手配や送迎、お薦めの食事処の紹介などを積極的にしてくださったのが良かったです。担当の観光協会の方も20代中盤の方で、ツアー参加者の私たちと世代的に近い感覚を持っていたのも上手くハマったポイントだと思います。
2つ目は「もともと気心の知れている友人と一緒でのワーケーションツアー参加だったこと」です。
仕事中はともかく、バケーション的な部分では、その良さ・感動を分かち合える相手がいることはやはり重要だと感じました。
また、今回のワーケーションでは「オンのときは仕事に集中し、オフのときに雑談・遊びに付き合ってくれる相手がいる」という、私が普段コワーキングスペースに求めている環境を、そのまま別の町に持ってくることができたような感覚がいくつかの瞬間でありました。このあたりの感覚は今後ワーケーションを何度か重ねることで、より言語化していきたいところです。
なお先日、私がお手伝いしている起業家の方が大雪山国立公園の層雲峡で1週間ほどワーケーションしていたのですが、その際は適度に屋外でリフレッシュしつつ、集中して溜まっていた仕事に取り組めていたそうなので、仕事集中目的のワーケーションも全然ありだと思っております。
ワーケーションを「事業・サービス」として捉えてみる
せっかくなので「もし自分が地方でワーケーション事業をするならどのようなポイントを考えるか」という切り口でいくつか触れておきたいと思います。
<ポイント①:目的地までの導線の作り方>
今回のえりも町の場合、ワーケーション顧客の主な流入元は、札幌市もしくは新千歳空港経由で北海道外から来る方になると思います。そうすると移動ルートは基本的に、札幌市(千歳市)→ 日高町 → 浦河町 → えりも町と言う流れになります。
私たちは途中で浦河町近くの "みついし昆布温泉" に寄ってきましたが、これは参加メンバーの一人がたまたま前日に見つけてくれて行ってみようという流れになったものでした(ちなみにここはかなり良かったです)。
車で4時間半という長時間移動が前提であるなら、朝イチで札幌を出発した後に、途中の日高町や浦河町でのアクティビティ・食事処・温泉などを意識的に挟めると、移動がメインとなる初日も満足度が上がるだろうなと感じました。
日高は馬の名産地なので、馬乗りたいよね〜という話を移動中の車内でもしていました。ワーケーションは市町村単位で企画されることが多いので、他の市町村との連携は難しい部分もあるのでしょうが、北海道であれば同じ "日高振興局" として合同企画するワーケーションツアーの方が、参加者目線ではより面白いものになりそうです。
<ポイント②:リフレッシュコンテンツ>
今回ひしひしと感じたのが、やはり温泉って旅行中のリフレッシュコンテンツとしてはめちゃくちゃ強いなということでした。
私たちの場合、初日は新ひだか町の "みついし昆布温泉"、2日目は、えりも町の隣町である様似町の "アポイ山荘の温泉" 、3日目はえりも町内の "日帰り入浴" と、毎日どこかしらの温泉的な場所へ行きました(写真はみついし昆布温泉の露天風呂。見渡す先は海)。
とても良かったえりも町で惜しかったなぁと感じたのが、本格的な温泉が隣町の様似町まで行かないと無いことです。
ワーケーションをするような職種の方って、起業家であったりフリーランスのエンジニアであったりで、最近そういう方々ってサウナ(とそれに紐づく温泉)にハマっている人がものすごく多い印象なんですよね。
キラーコンテンツとして、大自然・クオリティの高い温泉/サウナ、後述するワークスペースの3つがあれば、あとは工夫次第で人を呼び込めるチャンスは充分にあるように感じます。食事は北海道内どこに行っても大体美味しいという強みもありますね。
<ポイント③:ワークスペースの環境整備>
今回のワーケーションツアーで「もう少し頑張ってほしい」という評価だったのが、ワークスペースとしての環境整備です。
宿泊先の施設には無料のWi-Fiもあったのですが、業務使用に耐えうる水準では無く、基本的にはスマホのテザリングで対応する形でした。
前提として今回私はバケーションモードだったので、仕事量もせいぜい数回のオンライン会議、Slack・FBメッセンジャーでのやり取り程度で、あまり通信環境を意識せずにすみました。一方で、同行したメンバーには編集した動画のアップロードなどにかなり難儀している方もいたようでした。
また、通信環境以外の部分では、仕事をする物理的なスペースが宿の自室のこじんまりとした一角だけであったり、本格的に仕事をするならもう少し改善が必要だなと思われる部分が散見されました。
一方で、今回のワーケーションツアーで唯一長時間集中して、ものすごく仕事が捗ったのが、帰路に寄った厚真町のコミュニティスペースの "Ichikara" 。えぞ財団団長の成田さんが普段拠点としている場所です(写真はIchikaraの内装)。日曜にも関わらず開けて頂きありがとうございました!
ワーケーションって結構バケーション部分がメインでフォーカスされがちですが、厚真町のように快適なコワーキングスペースを用意したり、もしくは宿自体における通信環境整備や、ワークスペース確保をするなど、"ワーク" の部分へのフォーカスは重要だなと思いました。このあたりは普段からリモート環境で働いている方と、そうでない行政などの方とで、必要な環境のイメージギャップもひょっとするとあるのかもしれません。
ワーケーションが地域活性化に繋がるために
以前のnoteにも書きましたが、ワーケーション事業が閉塞感の強い地方を変えるきっかけになるためには、自分の町の外から来た人たちを、如何に上手く自分たちのプロジェクトに巻き込んでいくかが重要です。
変化の大きいこの時代、全ての物事を同じ価値観を持つ町の仲間・自分たちのコミュニティだけで完結させるのではなく、地方に興味を持ってくれる外部の人たちと共創する仕組みを作っていけるかどうか、それがこれからの地域の発展に繋がっていくのではないかなと思っています。
例えば今回のえりも町ワーケーションモニターツアーで言えば、その共創のファーストステップとして「えりも町の人たちと参加者が一緒にワーケーションについて考える」みたいな時間が、最終日の夕方〜夜あたりに強制的に組み込まれていても良かったんじゃないかなと思います。
えりも町の方々は本当に良くしてくれたし、無料でここまでやってもらっていいのかというくらいの "おもてなし" を頂いたのですが、逆にもっと「参加者の僕らを今後のワーケーションの品質向上のために使う」という気持ちで捉えてもらっても良かったのではないかなと。今回は交通費も宿泊費も無料のモニターツアーだったからこそ余計にそう思います。
特に今回ワーケーションツアーに一緒に参加したメンバーは、北海道の地域活性化の文脈に興味がある人たちだったし、経歴や物の見方もバラバラで、もしそういった機会があればそれぞれ面白いフィードバックができたような気がします。
また、今回のツアーに限定せずとも、地域の観光協会や地域おこし協力隊の人たちが、Sapporo Incubation Hub DRIVEやえぞ財団など、北海道内で新しい取り組みをしている人たちと接点を持つことで、できるようになることやアイディアの広がりはとても大きいと思うんですよね。
どうしても一つの町だけで物事を進めていると、閉塞感や限界感を感じてしまうことも多いと思うので、もしそう感じている地方の方がいたら、何かしら僕らのコミュニティにコンタクトしてもらえると、それが何か地域を変えるきっかけになるのかもと、帰路にぼんやりと考えていました。
最後に
今回は「ワーケーション」というテーマで、実際に感じたことを書き綴らせていただきました。いろいろと課題や改善点の話が目立ってしまった気もしますが、決して今回のワーケーションへの不満ではなく、これからの北海道・地方のポテンシャルへの期待から出ている言葉としてご理解いただけると幸いです。
最後に、観光協会をはじめとしたえりも町の皆さま、一緒にワーケーションを楽しんだ参加者の皆さま、本当にありがとうございました。とても充実したワーケーション体験となりました!!次は安平町・厚真町エリアか、函館方面にワーケーションに行きたいな。
※補足:やや悩んだのですが、noteが多くの方の目に触れる可能性を考慮し、参加者など個人の名前については伏せさせていただきました。
引き続き、POLAR SHORTCUTでは北海道の成長産業支援の取り組みを行っています。何かご一緒できそうな方、興味があるという方がいれば、ぜひご連絡ください!
Mail:info@polarshortcut.jp
Twitter:@OkbNori