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酒での失敗

 酒は飲んでも飲まれるな。冷酒と親の言う事は後で利く。酒は憂いの玉箒。
 酒にまつわる先人の言葉は数多くある。酒の飲み過ぎを戒める言葉、酒の素晴らしさを伝える言葉。そのどれもが納得出来るし、うまい事を言うものだと感心する。
 私は酒を飲める体質を持って生を受けた。それに気づいたのは小学生の頃だ。晩酌の時間、父はコップに少しビールを注ぎ私を試した。大人への憧れからか私はそれを飲み干した。

 酒での失敗。基本的に1人で赤提灯からバーを飲み歩くスタイルの私は性格もあるが、出来るだけその場の人と仲良く飲みたい。口論はもちろん、知らない人に絡まれた事はほとんど無い。絡まれたとしても受け流す術は長年の経験で体得しているつもりだ。

しかし、時に店で寝てしまう事がある。その事については店主に申し訳なく思っている。出来るだけ店の外に出て寝る事にしている。財布を抜かれた事は2度、3度ある。自業自得である。
 始発まで飲みあかし、たった一駅の間に寝てしまい県をまたいだ事があった。
「次は~加古川~加古川~」JRの車内、目覚めた時はその声が夢なのか現実なのか理解出来ず、うっすらと目を開け車窓に映る景色をぼんやりと眺めた。
 岐阜県でさっきまで飲んでいたのに、今は兵庫県である。車内では関西弁の会話が聞こえ異世界に迷いこんだ様な感覚に陥った。
「そうか、寝過ごしたんだな。」
 寝過ごしたというレベルを越えた現実を受け入れられず、逆に平静を装った。
 日曜日。気候は良い季節。晴れている。二日酔いの頭で考えもまとまらないまま私は姫路駅に降り立った。
 姫路城の大改修工事が終わった頃で、観光客がたくさんいる。宵越しの金はもたないという先人の教えを守り財布の中はスッカラカンである。かろうじて乗り越しの料金をクレジットカードで支払い、私は姫路城への一本道を歩き始めた。

 途中で城下町の路地に入りハンバーガー屋に立ち寄りハンバーガーを食べ、コーラを飲んだ。
「何やってんだ?オレ。」心の声に蓋をし、ハンバーガーを食べ終わったオレは城を目指して歩きだした。元来ポジティブである。失敗は失敗。自業自得。あきらめて城を観に来た事にした。
'「ええ、大改修をやったと聞いたものですから是非来たいと思ってたんです。」顔で観光客に紛れ込んだ。
 白鷺城と呼ばれるだけあって純白の城壁は私の心とは真逆で美しく輝いて見えた。「なるほど。あの穴から鉄砲で狙うのか。」などとパンフレットを見ながら天守閣へ。
 天守閣からの景色は素晴らしく観光客のフリはしているものの本当に来て良かったと思えた。

帰りは新幹線なんか使えない。もともと日帰り旅行なんかする予定は無かったのだ。思いがけない出費は痛い。来月のクレジットの引き落としの事を思うと心は憂い、在来線に乗り込んだ。岐阜県に到着したのは夜8時頃だったか。テレビをつけると爆笑問題の番組で姫路城を特集していた。
「今日、観てきたわ。」と、少し笑えた。
 
 そんな私も現在、3ヶ月ほど断酒している。やめるきっかけはあったのだが、ここには書かない。今はやめているだけ。それだけの事である。
 まだ酒を飲んでいた頃、町田康さんの「しらふで生きる」を読んだ。勝手に破天荒な方だと思っていた町田さんも断酒されているんだなぁと興味深く読ませてもらった。
 半年が経った時、1年が経った時、自分は以前の自分と変わった何者かになっているだろうか。






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