毒入り娘
世間ではこんな奇妙な噂が流れている。ある通りにいるお婆さんに人生相談すると、ストレスや不安が一瞬で消える。
だけど、一つだけ不思議なことがある。それはお婆さんがだんだんと若くなり、相談者が次々と謎の死を遂げていること。これはそのお婆さんと出会った青年の物語。
俺の人生はくそだ。小説家になりたいという夢を持って投稿する毎日を送っていた。
だが、結果は散々。賞どころか、選考外扱い。今では小説を書くことなく、だらだらと過ごす毎日。このまま生きるくらいなら、もういっそう死のかと思う。
でも、俺にそんな度胸もない。だから、今もこうやってのうのうと生きている。
そんなある日のバイト帰り、俺は自分のある変化に気づいた。それはいつもと違う道を歩いていた。自分でも、どうしてそうしたのか分からない。
そして、何かに引き寄せられるように俺は裏路地に入った。しばらく歩いていると、人生相談という看板を立てかけた小さな机を広げたお婆さんがいた。相談するつもりじゃなかったけど、とりあえず寄ってみることにした。
不思議なことにお婆さんに話していると、なんだか心が洗われた気がする。家に帰ってから今回の体験を基にして小説を書くことにした。それからも取材を兼ねてお婆さんを訪ねると、その度に不思議なことにお婆さんが若くなっているような気がした。初めは気のせいだと思っていたが、一ヵ月後には二十代前半の娘になっていた。
しかし、彼はその真実を知ることも小説を書きあげることも出来ずに亡くなった。それはなぜか、理由は簡単。あのお婆さんが人間の不幸を吸い、引き換えに不老不死を得る契約を悪魔と交わした『毒入り娘』だったからだ。
不幸のない人間は生き残ることが出来ない。
だから、不幸を全て吸い取られた彼はこの世から去った。
誰もその真実を知らずにのうのうと生きている今でも『毒入り娘』は闇の中で次の標的を狙っている。