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【NORERU? スタッフの紹介 Vol.3】ディレクター 権丈 泰巳

NORENAIズによる、NORERU?のスタッフに取材してみた企画。
第3回目は、NORERU?ディレクター 権丈 泰巳さんです。

NORERU?は、自転車文化発信・交流拠点としては一見無関係そうなスペースがたくさんあって、どのように使われるのかちょっと「?」な場所。

2019年いわきに移住し、NORERU?設立に関わった権丈さん。この場所のコンセプト、空間、それぞれに権丈さんの思いが詰まっています。権丈さん、そして、NORERU?の「?」をディープなところまで徹底取材してきました。

プロフィール
1972年福岡県福岡市生まれ。中学1年生の時にテレビで見たツールドフランスに憧れ自転車を始める。大学時にタンデムのパイロットをボランティアで行ったことがパラサイクリングとの出会い。2004年アテネ~2020年東京パラリンピックまでコーチ、監督を歴任。現職は、日本パラサイクリング連盟専務理事。2019年5月にいわき市へ連盟事務局と共に移住。NORERU?では様々な方に自転車の楽しさを伝えていきたい!

NORERU?「こんなありえんやんか。」

―権丈さんは、「何を考えているかよくわからない」とよく言われるそうですね。直感で動いているというか…。

そうですね。降ってくるアイディアがあり、実際に動いて、決める。決断したら、あとは物事が勝手に流れていくというか。

初めてそういう部分にに気づいたのが、東京2020が決まった時ですかね。福岡で不動産会社を持ちながら日本パラサイクリング連盟の事務局をやって生活していたのにもかかわらず、「あ!伊豆に引っ越さなきゃ」と、ふと降ってきたんですね。

その時は収入が0になるという心配よりも、行かなきゃ!という思いが優先されて。行けば「なんとかなる」と。

「なんとかなる」というのは、一生懸命やっていないのに「なんとかなる」という行き当たりばったりではなく、あれやこれやが決まってないくても一生懸命やっていれば、次の扉がバンバンと開いていく、そんな感覚が福岡から伊豆に行ったときに生まれたんですよね。

そんなことの延長線上で、自分の「やりたい!」という想いが人に伝わって、NORERU?という場を実現させてもらって、自分の気持ちが伝わってるというところがすごく嬉しいと思っていますね。

だって、(NORERU?の室内を眺めながら)こんなありえんやんか(笑)

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―「こんなありえんやんか」を実現してしまった権丈さんですが、それに繋がるような大きな影響を受けた経験はありますか?

やはり父親の影響はあるかもしれませんね。小さい時は家が工務店だったんですが、長男がいて僕は次男だったので、一切何も言われず自由にさせてもらっていて。それで中学の時にツールドフランスがきっかけで自転車に出会って、大学も行って。

卒業後は、オーストラリアに行って自転車の選手として活躍するつもりだったんですが、大学4年生の時にいきなり、帰ってこいと言われたんです。尊敬していた大学の先生にも「親と過ごす時間はそんなにないぞ」と言われて。

それで、父親の後を継ぐため、秘書的な感じで全部付いて回って勉強させてもらって。そこで父親の損得関係なくまず動いてみよう、お金とかどうこうはとりあえず二の次、自分が動くことで相手が良くなればそれでいい、という精神を学んだと思います。

父親はいろいろとすごい人で、ご近所の老夫婦でおばあちゃんが亡くなったら、近所で1番に電話をする人がなぜか父親になっていたり(笑)。最終的に父親の工務店はつぶれてしまうんですが、その時も、家具屋さんとか塗装屋さんとかみんな集めて、ごめんなさいと言うのかと思ったら、「いつか返すけん、待っときや!」と言って、来た人全員、「ほぇ?」みたいな(笑)。

でもなんだかそんな父親にみんな動かされたりするのを見てたので、人の思いっていうのは、強く思えば通じるところってあるんだなと思いましたね。

自分の思いが動き、人の心が動くときに物事が動くのかもしれませんよね。お父さんの振る舞いも、捉えようによってはエンターテイナーのようで、サーカスの奇術師のようにたくさんのものを動かしている。周りは少し迷惑がりながらも、思いを動かされて、楽しんじゃってるみたいな。

自分も父親のそういう部分を繰り返しているのかなと、まんま自分やん!とおもいますね。

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―いわきに来て、NORERU?が形になるまでのお話も聞かせてください。

いわきに来て市役所の人と、いわきFCパークのスペースを借りて何かできたらいいですね、という話になったのが事の発端です。

市役所の人との共通認識で、いわきを全部網羅したり繋げたりしたいというイメージだけありましたが、やりたいことは漠然としていました。

それからちょうど去年の11月ごろ、市の人と協力して、いわきFCパークのこのテナントがこんな風になればいいんじゃないか、という提案書を出して、それから今年の3月に具体的に実現に向けて話が動いていったんです。

―権丈さんの夢や想いもNORERU?には詰まっているんですか?

そうですね。最初から、小さな箱がある室内というイメージだけは、自分の中に明確にありました。

建築をやっていたときから狭い部屋はいい空間になるという実感をもっていて。ひっついたりできる、密接な関係を作る空間にしたいという想いがあって、NORERU?の設計をした設計事務所であるHACO PLUSさんに、小さい箱をいくつも作ってもらったんです。

撮影:鈴木宇宙

NORERU?という名前は、5、6年前、そもそも僕自身がなんで自転車をやっているのかっていうのを、行動学の凄い人に協力してもらって全部頭の中を整理してもらったことがあったんです。そのときに、自分は、人が自転車に「乗れた!」時が喜びなんだというキーワードを導いてくれたんですね。

その気づきがあって、乗れた!から少し下がって、手前の段階の「乗れる?」というキーワードが最終的に施設やプロジェクトの名前になっていきました。

何かのブランドを作る時、既存の概念の上へ行こうとして、「なんとかプラス」というのはよくあるパターンだと思いますが、逆に目線を下げていったところに行けたというのは、よかったなと思いますね。


NORERU?の役割は「間」?

―建築、つまり、箱もの・ハードウェアを作る業種から学ばれたことはどういったことでしょうか?

箱ものだったりハードのものって、建ててゴールになっているものがほとんどなんですが、ただそこに建築物があったからといって、何か問題を解決するわけじゃ無いんです。それが学んだことかもしれませんね。

新築を作ったから幸せな家庭が生まれるかといったらそうでもなくて、やっぱりソフトの部分、思いやりだったり、愛があったりという部分が1番大事なんだなと。

スロープ1つでもそうなんですけど、実際、車椅子の人が来て、1人では進みづらいですね。それなら、「押して」って言えばいい。それが言えない。こっちも「押しましょうか?」と言えない。そうではなくて、お互い話せばいいだけなんですよ
ね。

撮影:鈴木宇宙

そこのコミュニケーションというのが、そもそも今、少ないんだろうなというのはずっと感じています。

僕が初めてタンデム乗って後ろに乗せた、視覚に障がいがある方が柳沢春樹さんといって、高校生のときに大好きでバイブルのように読んでいた本にも関わっている人だったんです。

それで、その方ともう1人視覚に障がいがある方が来られてて、駅で駅員さんと揉めていたんですよね。2人で駅のホームに行くのは危ないということで駅員さんが、誰か付き添いで目の見える人を連れてきて欲しいと言い合っていたので、自分は良かれとおもって、柳沢さんを連れて行こうとしたんです。そしたら「余計なことをするな。今、自分が助けを求めたら、一生その助けを求めないといけないんだ」と言われて。

そうか、やりすぎるのもいけないのだな、と思ったんですが、声をかけてみて、僕にとっては気づきがあったわけですよね。どうなるかわからないけど、一回声をかけてからどうするかを考える、そんな触れ合いが大事なんだと思います。そういう体験をNORERU?では作っていきたいですね。

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ー現実ではなかなか勇気が出ない場面が多いかもしれませんが、NORERU?のプロジェクトがあることで、少しだけ勇気を出して手を伸ばしてみることができる。我々はNORENAIズという名前で活動していますが、ノレナイとノレタ!の間をジャンプして飛び越えるのでなく、「橋」のような空間があって、それがNORERU?の持つ機能なのかもしれませんね。

そんな権丈さんは、NORERU?で「人生相談」をしたいと答えている場面も見かけるのですが、まさにひとりひとり違う「橋」の架け方が必要になってきますよね。

僕は人に自転車のことを教える自信は全然、全くなくて(笑)。

梅沢さんはメカニック、沼部さんはトレーニングという具体的な解決策をそれぞれ持っているけど、僕、正直何もないし。今まで監督業で選手の就職の斡旋とか、そういったところまで含めて、人の人生を左右するようなことをいっぱいやってきているので、できることといったら人生相談ぐらいなのかなあと(笑)

自分自身、実は昔から同じことを言い続けていて、でもやっぱり、自分がブレてないからここまでこれたんだなと思うんですよね。

みんなそれぞれの人生を生きていて、価値観も違えば生きてきた経験も違う。それぞれの理由でそれぞれの選択肢を選べばそれでいいと思っているので、これがいいという人がここに来れば良いのかなと思います。万人受けするようなスタイルは求めなくてもいいかなと。

前は「こうしたいという答えを持ってないといけない」ということを常日頃から言われていたんですけど、自分の中で常に答えというのは無くて。

僕はその曖昧さがすごく心地いいし、気持ち良いし、別にそれでいいんじゃないみたいなところが大事だと思ってるんですが、人は答えを全部欲しがる。答えなんてどうでもいいんです。

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今後のNORERU?のイメージ

―NORERU?が完成した今、どのような仕事をやっていきたいか、何かイメージを持たれていますか?

ここで自分のやるべき仕事があるとしたら、やはり、自転車を好きになってもらうことですかね。

好きになるというのは単純なことではなくて、自分で少しでも自転車チューブ交換できるようになれば、近所ではなくて50キロ先まで行って、途中でパンクしても安心して乗れる、とか、交通ルールを守る、とか、いろんな要素があって楽しいということになると思います。

ひとりでも多くの人が自転車を好きになって、好きだから楽しい、乗ること自体が楽しい、乗るだけで楽しいという部分に気づいてほしいという想いがあります。景色の中をぴゅーっと駆け抜けて行く時の気持ちよさとか、逆に今まで車じゃ見えなかった看板が読めたりとか。

僕自身がやっぱり自転車に乗ることが楽しくて、ずっと乗っていた人間なので、最初にまず「自転車に乗ってるだけで楽しいじゃん!」という部分に気付いてほしいなと。

―自転車本体に乗ることにしても、景色の中を走ることに楽しみの本質を見出す人もいれば、ペダルを漕ぐことが楽しくてそこに本質を見出す人や、速度が楽しい人もいる。それぞれの楽しみ方で自転車を楽しんでいけばいいのかもしれませんね。

そうですね。それから、身近に困っている人がいれば一緒に何か解決できるようなことがしたいです。今まで自分の経験値の中で言ったら、そこに、自転車や障がいのある方、というキーワードを使えるかなと思います。

アリオスのような文化施設や市民の人と話をする中で、煮詰まってなかなか新しい提案が出てこないというようなことがあったら、そこに、障がいのある人と一緒に何かをやるとか、自転車を交えて何かをやるというところを提案できるといいなと思います。

あとは、全く立場を変えて、逆にアリオスの人に自転車のことを考えてもらって、僕たちが劇場のことを考えたら、お互い面白い発想が出てくるのかなと思ったりしています。

自分の中では、運営者としてNORERU?をどうこうするというよりも、ここをどう楽しく使い切っていこうかという気持ちでいます。

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自分たちの身体の限界を超えた世界観から、「足るを知る」という世界観へ。間を媒介する選択肢としての自転車。


―普段自転車に乗らない人も多いいわきに向けて、NORERU?が発信できるメッセージは何でしょう?

たとえば、コンビニに行く時だって、車で行くんじゃなくて、自転車という選択肢があるんじゃない?と。自転車だったらガソリン代も節約できた上で、健康になれますよと、そういったところまで、皆さんに伝えていけるといいですね。

コンビニ行って100円のものが、車で行ったらもしかしたらガソリン代が上乗せになって150円になって買いに行ってるわけなのに、表面の金額だけ見て、高い・安いって言ってる現状に、もし気づいてくれたら、もっといいんだろうなと思うんですね。

そこを考えて初めて、ECOや環境負荷のことを考えていけるのかなと。

例えば、ペットボトルの数って、多分全然減ってないと思いますよね。バンバン作ってリサイクルの能力だけ上がっていって、それをどう処理するか、次の新しいものに変えるとか、そういう話ではなくて、そもそもペットボトルをなくしましょうよっていう話になってないことすらおかしい。それと同じで、自転車に乗らないことがまずおかしいって、気づいてくれたら。

―便利さを追い求めすぎた時代の中で、自分の力で移動できる自転車の身体で生きることは、自分の身体で動ける限界の範囲の世界観に戻ることに繋がるのかもしれませんね。そこで初めて、世の中の無駄がみえてきて、具体的にペットボトルの削減などにつながる。SDGsのように、スローガンとして掲げてやってこうというだけではなく、「自動車から自転車に戻す生活」という具体性のある環境へのアプローチでもありますね。

そういった思いはずっとあるのかなと思ってますね。それでいろんなことが解決できるのかな、と。

僕、ヨーロッパには年間5〜6回、2〜3週間くらい行く機会があるんですが、土日なんかにはスーパーはほとんど休みだし、金曜日の夜にみんな買い物をして、土日は家でみんな過ごすみたいなライフスタイルなんですが、「それでいいじゃん」って。

24時間のコンビニなんて世界中ないですよ、それもこんな近くになんで2つもあるの?自販機もこんなにあるところは世界中にないんですよね。

―自分たちの身体の限界を超えた世界観から、「足るを知る」という世界観へ戻る/進む。これ以上進歩しなくても、この私たちの身体で、十分楽しいよねと。私たちのこの体と、人間が進歩により獲得してきた便利さと、「間」をもしかしたら自転車が媒介してくれるのかもしれませんね。

なんかそれこそ、自分を超え出た話になっちゃってるかもですが(笑)「間」を攻めつつ、自分の限界は超えていきたいですね。

ー権丈さん、今日はありがとうございました。

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NORENAIズ×権丈泰巳

取材:寺澤 NORENAIズ 鈴木、新田、松井
文:NORENAIズ 新田
構成:寺澤
写真:NORENAIズ 松井

【NORERU?関連リンク】


◇12月にNORERU?×Kuramotoコラボ企画として、自転車映画「今さら言えない小さな秘密」トークイベントを開催します!美しいフランスの風景と自転車文化について、権丈ディレクターに語っていただきます!

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【あわせて読んでほしい!】
自転車を活用した町づくりについて、権丈さんが語っている、地域包括ケア推進課「igoku」の記事はこちら


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