【短編小説】疑い教
ピンポーンと言う音で目が覚めた家のチャイムの音だ
男は眠気眼で歩いていて、モニターを確認することもなく玄関先へと出向いてしまった。
するとそこにはいかにも怪しげな老婆が立っていた
男はその老婆の姿を見て出なければよかったと後悔したが老婆の発言に足を止めてしまった
すると老婆は
「あなたは神を信じますか?」
と言ったのだ
「神など信じない。」
そう言ってしまったのがよくなかった
すると老婆目を輝かせた
「あなたは才能があります!
すばらしいですわ」
そう言われて男は驚いた。
宗教の勧誘だと思っていたから、
信じてはいないと答えたのに…
加えて才能があると言われたからだ。
そこで足を止めた男は一体どういうことだと聞き返した
老婆は答えた
「神などいるはずがないのです
疑うことが全てなのです」
そう言う老婆に男は首を傾げ
「なぜこの家へ来たのだ?」
そう尋ねると
「疑うことでこの世の真実を知ることができるのです
そして真実をこの世の真実を全て知ることができた人は永遠の命を手に入れることができるのです。」
間髪入れずに男は言った
「永遠の命などあるはずがないだろ。疑うことで真実を知る…一体何を言っているんだ、」
そう疑いの声をさらに浴びせた。
すると老婆はさらに喜び
「あなた様は本当に才能がございます。
私たちの事務所へぜひいちどでも足を運んでください」
聞いてゆくとどうやら疑う人々の集まりがあるようだ
男の性格上褒められるとすぐに調子に乗ってしまうものであったのが運悪かった
そのこともあり、男はこの疑いで集まる人々の事務所へと足を運ぶことにした
褒められてしまうと、自分の疑う力はすごいものではないのかとそう自惚れたのだ
事務所へとたどり着き、男がまず目に入ったものは年老いた老人である。
老人の姿は、男とも女とも取れるような容貌をしておりなんだか神のような見た目をしていた
その周りにいる信者と思しき人々は皆様々な疑いの言葉をぶつぶつと唱えていた
「この地図は本物だろうか」
「このネット記事は嘘に決まっているじゃないか」
そんなことをつぶやく信者たちであった。
そして最初に目に入った老人はダウトと呼ばれ、どうやらこの怪しげな集まりのリーダーのような存在であった
男は薄々感じてはいたが、
やはりこれは宗教であった。
つまりこのダウトと呼ばれている老人が教祖なのだ。
「やはりここは宗教ではないか!
このダウトと言う老人のことを皆信じているではないか。」
そう男は言った。
すると、老人は男の方を振り返り
「お主、わしのことを今疑いの目で見て、この集りのことを疑ったであろう」
そう尋ねる老人に男はうなずいた
「あぁ疑いの目を向けている。
お前たちは疑うと言いながらダウトを信じているじゃないか。
疑いで真実を知るなんて、ありえるはずがない」
そういう男に皆目を輝かせた
「あなたは本当に疑い深い人ですね!」
「あなたなら本当にこの世の中の真実を知ることで永遠の命…いいえ!
この世のすべてを手に入れることができるでしょう」
口々に褒め称える信者たち
そして
「すばらしいです。
そんなに疑い深いだなんて思わなかったわ」
と、最初に訪ねてきた老婆にも言われた男はすっかり有頂天になってしまったのだ
疑うことでこんなに褒められるだなんて思わなかった
それに加えダウトと呼ばれる老人は
「お前はこの疑い教に必要な存在である。お主こそ真のダウトを名乗れる」
そう命じられてしまったのだ
今までの男であれば、そんなもの受け入れるはずがなかった。
だが、周りからおだてられる言葉や雰囲気に飲み込まれてしまい、男はこの疑い教と足を踏み入れてしまったのだ。
そして数々の人々に疑うことを勧め、次期ダウトとして疑い教に重宝されることとなったのだ
疑い教では皆疑うことが基本。
神を疑うことから始まり、
疑うことを素晴らしいと褒め称え
布教していたのであった
疑い教の人々は全てを疑い信用していないため
「何も崇拝していない」
「洗脳されていない」と思っていた
が、本当は
「疑わなければいけない」
「ダウトと言う教祖は褒めてくれる」
「だから従わなければいけない」
と結局は皆洗脳されていたのであった。
疑うことを褒め讃えられ、気分の高揚から疑い教の信者は今日も増え続けるのだった…
あとがき
自分は大丈夫だろうそう思って何かを信じてしまっていたり、世界を狭く見てしまうことを防がなければいけないなぁと言う思いから生まれました
最後まで読んでくださりありがとうございました