車を大破させてしまいました(ToT)
車を運転するのは好きですが、高速道路を運転するのは苦手な私です。
夫が5年ほど前に亡くなって以来、県外に遊びや買い物に行く機会が全く無くなってしまいました。
「まだまだ長い人生、これではいけない」と思い立ち、高速道路を運転する練習をする事を思いつきました。
まずは1時間くらい高速道路を運転してみようと思い、行き先をどこにしようかと考えた時、久しぶりに海が見たい気分になり、『高速に乗ってどこかの海を見て、そして帰ってくる』というミッションを自分に課すことにしました。
そして、以前にテレビで、新潟県村上市の瀬波温泉の『大観荘せなみの湯』という温泉宿の前に、日本海を眺めながら足湯を体験できる場所が紹介されていたのを思い出し、ちょうど我が家から高速道路に乗って1時間くらいで行けるその温泉宿を目指して出発することになりました。
その『大観荘せなみの湯』は大きくて有名な温泉宿で、露天風呂が日本海と繋がっているように見えるらしく、絶景だそうです。
「もし、日帰り入浴が出来るようなら、宿の露天風呂にも入ってみようかな」とワクワクした気持ちで出かけました。
平日の昼間だったので、高速道路はガラガラに空いていて、とてもスムーズに運転が出来て、「これだったら、休憩を取りながら2、3時間、高速道路を運転しても平気かも」と上機嫌でインターを降りました。
すると、お腹がググーッと鳴り、ちょうどランチタイムだと気付きました。
「そうだ! 近くのパン屋さんでパンでも買って、足湯に浸かりながらパンでもかじろう」と思い、グーグルマップで検索したら、近くに小さなパン屋さんがあるので寄ることにしました。
「あっ!ここだ!」そのパン屋さんを見つけ、脇の駐車場に車を停めようと右にハンドルを切っていたら、一瞬、ガクンと体が浮き上がり、そしてトンと下に降りました。
「ん⁉︎ 何かに乗り上げたのかな?」
不思議に思って車から降りてみると、なんと、車の前の方から赤い液体がどんどん流れ出ているではありませんか!
しかも、ひどいオイルの匂いも漂ってきました。
「ひぇーっ! なんじゃこりゃ!」大パニックになりました((((;゚Д゚)))))))
辺りをよく見回してみると、その駐車場と隣の家との境目の角に、高さが30cm位のくの字のコンクリートの出っ張りがあり、そこに一度乗り上げて、降りたようでした。
すると、ちょうど近くで立ち話をしていた二人のおばあちゃん達が近寄って来て、
「あなた、いったいどうしたの?」と話しかけてくれました。
(実際はバリバリの新潟弁でしたが、たぶん通じないと思うので、ここは標準語でいきます)
私がそこのコンクリートの出っ張りにぶつかったようだと言うと、
「まぁ! 大変! あなた、いったいどこから来たの?」と訊かれたので答えると、
「そんなに遠くから来て、こんな事になって、あなた可哀想だわ。実は、この人、ここの区長さんの奥さんなんだけど、区長さんを呼んで助けてもらう?」と、隣のおばあちゃんを指差して言いました。
「これからJAFを呼びますので、大丈夫です。ありがとうございます」と言いましたが、おばあちゃん達はJAFが分からないようで、首を傾げています。
「とにかく、助けてくれる人を呼びますので大丈夫です」と言うと、
「この辺にいるから、何かあったらいつでも声をかけてね」と親切に言ってくださって、去っていきました。
それから、すぐにJAFに連絡をし、30分位で到着すると言われたので待つことにしました。
その間に姉に電話をし、村上市で車をぶつけて大変なことになっているから迎えに来て欲しいと言いましたが、夫婦で軽井沢のアウトレットに買い物に来ているからダメだと言われました。
「くっそー、奴らは夫婦仲良く軽井沢でお買い物か…」と思いました。
「どうしよう。車はオイルを吹き出しているし、誰も迎えに来てくれないとなると、どうやって帰ったら良いのか」
「最悪の場合、誰かにタクシーを呼んでもらって、瀬波温泉まで行って、どこかの宿に泊まり、明日、迎えに来てもらうしかないのか…」
そんな事をぐるぐると考えていましたが、そこで、ハッと思いつきました。
「パン屋さんの駐車場にオイルを撒き散らし、入り口にずっと車を停めているのだから、事情を説明して、謝りに行かなきゃいけない」
パン屋さんの店内に入って事情を言うと、驚いたことに、そこはそのパン屋さんの駐車場ではありませんでした。
「隣はうちの駐車場ではなく、近所の人達が借りている月極の駐車場なんですよ。当店の駐車場はもともと無いんです。そのせいでお客様が大変な事になってしまって、本当に申し訳ありません」と、逆に謝ってこられました。
そう言われてみると、地元の人達だけが訪れるような小さなパン屋さんで、買いに来る人は皆んな、店の前に路上駐車をしているようでした。
「じゃあ、その駐車場の持ち主の方のご連絡先をご存知ですか?」と尋ねると、調べてくれるとのことでした。
車に戻ると、今度は下校途中の小学生3人組が来て、
「わぁー、なんだこれ! この赤い汁、くっさー!」と言って近づいて来ました。
「ごめんね。おばちゃんが車をぶつけて壊しちゃって、オイルが出てるから、危ないから近寄らないほうが良いよ」と言うと、
「お姉さん、大丈夫? 誰か呼んで来ようか?」と言ってくれました。
「なんて良い子達なんだ。しかも、おばさんではなく、お姉さんと呼んでくれた」と嬉しくなりました。
すると今度は、さっき声をかけてくれたおばあちゃんが様子を見に来てくれて、
「あなた、お昼ごはんは食べたの? 何か食べる物を持って来ようか?」と声をかけてくれました。
心臓がドキドキして何も食べられないと言うと、「じゃあ、これでも…」とみかんを2つくれました。
食欲は無かったけれど、喉がカラカラだったのでみかんはとても有り難かった。
みかんをほおばっていると、先ほどのパン屋さんの女性が来て、駐車場の持ち主の連絡先が書かれたメモ用紙のほかに、
「お腹が空いてるんじゃないですか? よろしかったら、これどうぞ。うちの自慢の生クリームあんぱん、美味しいんですよ」と、あんぱんを2つくれました。
「あの、図々しくてすみませんが…」と言いながら、トイレもお借りしました。
トイレから出たら、「大丈夫ですか? こんな時って、とってもドキドキするし、嫌な気持ちですよね? でも、これに懲りずに、また村上にいつでも遊びに来てくださいね」と、優しく声をかけてくれました。
車をぶつけて、絶望的な気持ちになりながらも、「さっきから、なんて良い人達ばかりなんだろう。世の中捨てたもんじゃないな」と感激していました。
それから、地元の自動車整備工場に電話をして、事情を説明したり、車をロードサービスでその工場まで持っていってもらう事などを説明していると、JAFが到着しました。
車から漏れているオイルはミッションオイルというギアの潤滑剤だそうです。
まずは、漏れたオイルの上におがくずを撒き始めました。おがくずにオイルを吸わせて、そのおがくずをホウキで履いてゴミ袋に入れて回収するのだそうです。それに30分位の時間を要しました。
それから、車をキャリアーカーに乗せると、その時に漏れたオイルにまたおがくずを撒いては回収し、やっと出発したと思ったら、またその時に漏れたオイルと回収して、と大変で…
本当に申し訳ない気持ちになりました。
幸運な事に、一人ならトラックの助手席に乗って一緒に行っても良いと言われたので、乗って帰ることになりました。
車が出発するとJAFの方に、オイルの回収が大変そうで申し訳ないと伝えました。
すると、すっかり息が上がってハアハアしていたその50代位の男性は嫌な顔一つせず、
「いえいえ、それよりこんな事になって驚かれたでしょ? もう大丈夫ですよ。安心してください」と言ってくれました。
なんて親切な人ばかりなんだろうと感激してばかりでした。
安心した私は少しお腹が空いて来たので、あんぱんを2つもらった事を思い出し、
「これ、さきほどのパン屋さんに2ついただいたので、1つ良かったらどうぞ」と言って1つあんぱんをJAFの方に差し出すと、「じゃあ、遠慮なく」とにこにこ笑顔で受け取ってくれました。
帰りは1時間半ほど時間がかかったので、2人であんぱんをかじったりしながら、車中で色々な話をしました。
私はあんこが苦手なので、あんぱんがあまり好きではありませんでしたが、生クリームが入っていて、本当に美味しいあんぱんでした。あのお店の名物だとJAFの方が言っていました。
「たしかにあの駐車場の出っ張りは危ないんですよ。前にもぶつけた人がいますしね。下のコンクリートと全く同じ色だから、赤く塗るとかしてもっと目立つようにしてあれば良いと思うんですけどね。いつも駐車場を借りている人たちは分かっていて、慣れているんだと思いますよ」と言ってくれましたが、私が悪いことは間違いありません。
気になったので、JAFはどういう仕組みで、どういう人がやっているのか尋ねて見ました。
その方はJAFの社員ではなく、普段は自動車整備工場をされているそうですが、要請があるとJAFとして出動するそうで、他の人達も同じような感じだそうです。
その日は午前中に一度、出動し、お昼を食べ終わったところで、私の要請が入ったそうです。
村上市には他に2人がJAFの仕事をされていて、3人でチームを組んでいるそうですが、慢性的に人手不足で、要請があれば、車で1時間以上かかるような遠くまで行くこともあるそうです。
何の用事で村上に来たのかと訊かれたので、練習のために高速道路を運転して海を見て帰るミッションの話をしたら、
「大事な用事があったのに、それを達成できずに帰ることになった訳ではなかったのなら、良かった。これに懲りずに、また村上に遊びに来てください」と言われ、
「また村上に来て、何かやらかしたらと思うと…」と言うと、
「体が無事ならそれで良いんですよ。車が壊れたら、直すか、新しい車を買えば良いんです。だからまた何かあったら、またJAFを呼べば良いんですよ」と言ってくれました。
「ははぁー、こういう人でなければ、こういうお仕事はできないんだろうな」と感心しました。
結局、車は保険の範囲内で買い換えることになりました。
23年乗り続けた古い車をやっと手放し、新車を買って1年半しか経っていなかったので残念でした。
車の表面的には壊れているようには見えませんでしたが、下の方がえぐれて、大事な部分が壊れてしまったので、修理をするのに莫大な費用がかかるそうで、車が全損したような扱いとなり、保険が全額出ることになったそうです。
幸い、私は体がガクンと動いただけで、全くの無傷でした。
「体は無傷なのに、車は大破して、新しい車がまた買えるなんて羨ましいな」という人も周りにはいましたが、あんな思いをして、あんなにたくさんの人に迷惑をかけるのは本当にもう御免です。
「あの時、パン屋さんなんかに寄らずにあと5分、車を走らせていたら、あんなことにはならずに海が見れたのに…」と車をぶつけた直後は悔やみました。
でも、親切な人々に助けられて、最終的にはとっても温かい気持ちに包まれました。
私はパニック障害持ちだし、遠出をするのが怖い気持ちもありましたが、『感謝する気持ちさえあれば、何があってもなんとかなる、助けてくれる人がいる』という勇気をもらいました。
私も困っている人を見かけたら、今まで以上に、親切にして、自分に出来る事をしようと思います。
あの親切にしてくれたJAFの方や、おばあちゃん達にはもう会えないかも知れませんが、新しい車が来たら、またリベンジで村上に行き、あのパン屋さんに行き、お礼を言って、あの美味しいあんぱんをたくさん買って帰ろうと思います。