【短編小説】サンタ採用試験
「では、次回は来月5日の10時に来てください。ご苦労様でした」
ハローワークは指定された時間に出頭しても、就職相談窓口で呼ばれるまで30分は平気で待たされる。どうせおまえら失業中でブラブラしてるんだから少しぐらい待ってろとでも言われているようだ。今日などは1時間以上待たされた。このペースだと定時に帰れなくなりそうだと相談員が悟ってペースアップしたのか、就職活動の状況を根掘り葉掘り聞かれることもなく、俺の番はあっさりと終わってしまった。
「あぁ、ところで三田さん」
俺が席を立つと、相談員のおっさんが声を掛けた。
「あなた、いい体格をされてますが、BMIはどれぐらいですか?」
「BMI? BMIって、健康診断で太り過ぎとかって言われるあれですか? そんなの聞いてどうするんですか?」
「いやぁ、実は公表していない求人で、BMI値が採用条件になっているのがあるんですよ。ちょっと特殊な求人なので、普通の相談とは別に私が条件を満たしそうな人に声をかけているんですよ」
「ふーん、そうなんですか。でもまた、50代だというだけで、書類審査だけで不採用になるじゃないんですか?」
「いや、今回は大丈夫だと思いますよ。これがなかなかいい案件なんですよ、ここだけの話」
おっさんが、窓口のカウンターから身を乗り出すようにして言った。
「いや、でもBMI値なんて覚えてないし」
「じゃあ、計算しますから身長と体重を教えてもらえますか?」
身長と体重を紙に書くと、おっさんは電卓を叩き、
「おお、三田さん、BMI値30~35の条件をクリアしてますよ。これより上でも下でもダメなので、なかなかクリアする人は見つからないんですよ」
「つまり、いい感じの肥満ってことですか?」
「ここではお話しできないので、早速あちらの部屋に入ってもらえますか」
おっさんが窓口のカウンターが並ぶ通路の奥を指さした。
不審に思いながらもおっさんについて行くと、彼は会議室のドアを閉めるなりカギをかけ、大事そうに持ってきたファイルにはさんだ1枚の紙きれを取り出し俺に手渡した。
「まず、今からお話しする内容は、ご家族や友人なんかにも絶対に口外しないでいただきたいのです。約束していただけるなら、これに署名してください。ムリならここで帰っていただいてもかまいません」
「えっ、なんかヤバい系の仕事ですか?」
「いや、危険が伴ったり、犯罪に関わるような仕事ではありません。むしろ、仕事中に警察に捕まるようなことがあってもお咎めを受けないことが保証されています」
「いや、それだけでなんかヤバそうじゃないですか」
まあ、ハローワークが紹介するのだから、犯罪まがいの仕事ではないだろう。なんだかおもしろそうだ。やるかやらないかは別にして、聞いた内容を口外しなければいいだけなら簡単なことだ。俺は言われるがままに誓約書にサインをし、おっさんに渡した。
「はい、じゃあお話しします。三田さんにご紹介する求人は、ひとことで言えば、サンタクロースなんです」
「えっ、サンタクロース? コスプレで広告を持って歩くとかですか?」
「いや、そんなのじゃなくって、本物のサンタなんです。私も聞いている範囲でしか説明できないんですが・・・・・・」
ファイルから説明資料を出して俺に見せながら説明し始めた。
「クリスマスイブの夜、子育て家庭にサンタさんがやって来て、子ども達ひとりひとりに頑張っていることを褒めてもらって、来年もいい子でいることを約束して、プレゼントをサンタから直接手渡してもらえるという体験は、日本の未来を支える子ども達の人生にとてもよい影響を与えることが研究によって明らかになっています」
「そりゃそうでしょう。それがきっかけでグレたりする子がいるわけないでしょう」
「なので国を挙げて秘密裡にかつ積極的にプロジェクトとして推進しているんです」
「えっ、サンタの訪問をですか? それが国家プロジェクト?」
「ええ、そうなんですが、国の諜報員が秘密で行っている審査をパスしたほんのひと握りの優秀な子どものところにしかサンタが訪問しないのが大前提なので、差別を助長するといった反対意見があることと、サンタは一応キリスト教系の聖人なので、政教分離の原則から見て問題があるという意見もあって、今のところ社会実験という形で極秘のうちに進められているそうです」
「そ、そうなんですか。なんかスゴいですね」
「なので、サンタはそんな大胆な任務を背負っていないような素振りも見せずに、コスプレをした運送屋さんのような感じで、街を歩いて訪問するんです」
「バイトかなんかのような感じで歩いて訪問するんですか?」
「詳しいことはこの募集要項に書いてありますから、まずお読みください。そしてわからないことがあったら聞いてください。この紙は持ち出し禁止ですから必ず返してください」
そう言うと、おっさんは封筒から出した紙を俺に手渡した。ざっと目を通しただけだが、パートやバイトではなく、いわゆる正規雇用だし、完全週休二日制で給料も悪くない。
「面接と実技試験の日程はこちらで調整します。明後日のご都合は大丈夫ですか?」
「え、ええ。失業中ですからいつでもOKです」
「場所は県の神社庁の最上階にある会議室です。一般用のエレベーターでは上がれないようになっているので、受付で採用試験だと言って案内してもらってください」
「えっ? なんで神社なんですか?」
「神道では八百万の神といって、台所の神様やらトイレの神様みたいにどんなものにも神様がついているって考えられているでしょう。そういう意味ではサンタクロースも八百万の神のひとつなので、神社の管轄になっているんですよ」
「は、はぁ」
「なので、世を忍ぶ仮の姿として、普段は神社の職員として働くそうです」
「あっ、あぁ、そうなんですね」
「で、明後日は幹部の面接を受けていただいたあと、実技試験でサンタになったつもりでロールプレイをやるそうです」
「ロールプレイって、俳優のオーディションみたいなやつですか?」
「そうじゃないですかねぇ。ほとんどの人がここまでで脱落すると聞いてます」
「素人にはムリなんでしょう? そんなの俺にはムリだな」
「でも、採用されたら国家公務員ですよ。私もあなたぐらい太っていたら、こんな非正規の契約職員なんてさっさと辞めて転職しますよ」
「太ってたらって・・・・・・」
このおっさんが非正規労働者だとは知らなかった。だが、俺はどうせ定年まであと何年もないのだから、国家公務員なんて身分はどうでもよかった。ただ、サンタというのはどんな仕事でどんな採用試験をするのかに興味があったので、おっさんの勧めるままに、明後日面接を受けることにした。
翌々日、前日から降りつづく雨の中、指定された時間に神社庁へ行き、受付窓口の女性に採用面接だと伝えると、奥から出てきたいかつい男性職員に連行され、地下の駐車場の奥にあるポンプ室のようなところから、専用のキーがないと動かないエレベーターで最上階へ連れて行かれた。周りを見回したが、このエレベーターでしか上がってこれない場所のようだ。闇の組織のボスが潜伏していそうな雰囲気だ。何かあったら逃げられるのだろうか。興味半分でこんなところに来るんじゃなかったと後悔した。
職員がエレベーターの前のドアをノックすると、「入り~」と声が聞こえた。ドアの内側は街並みを見渡せる広いガラス窓がある部屋だった。20畳ぐらいあるだろうか。左手奥に6畳間ぐらいの畳敷きの座敷がある。正面の窓際に置かれた応接セットのソファで白いあごひげを生やし、作務衣のようなものを着た小柄な老人がこっちを向いて寝転んでいた。
「理事、サンタの採用面接の方をお連れしました」
職員が大きな声で言うと、老人がゆっくりと起き上がり、
「はい、ご苦労はん。まあ、ここにかけなはれ」
と、俺に席をすすめた。
「本日は面接していただきありがとうございます。三田五郎と申します」
ハローワークの面接の受け方講習で習ったとおりに深々と頭を下げようとすると、それをさえぎるように老人が言った。
「まあ、そんな堅苦しいことはええから、はよ座んなはれ。ちょっと話でもしよか。それにしても今年の夏は暑いなあ」
「ほんとうに毎日暑いですね。これまで夏バテなんてことはなかったんですが、今年は外を歩いててもフラフラしましたよ」
「せやろ、わしも9月になってから夏バテで、こないして寝転んでばっかりやねん。寝てばっかりやったら腰が痛いし、かと言うて動くのもしんどいし、来年まで生きられるやろか」
「まだ暑い日もありますからムリなさらないほうがいいですよ」
「おおきに。ほな早速やけど、ちょっとそこを片付けて掃除してほしいねん」
老人が座敷を指さした。机の上ばかりか畳の上にまで本や書類が段雑に積み上げられている。
「本はそこの本棚へ戻して、いらんもんはほかして、掃除機で畳の上を綺麗にしてほしいねん。ついでにそこに並んでる鉢植えに水をやっといてくれるか」
なんだ、これも採用試験なのか? でもこんなことがサンタに何の関係があるのだ? と思いながらも、20分ほどかけて座敷を片付け、鉢植えに水をやった。老人はまたソファで横になり、こちらをじっと見ている。
「あの、掃除できました」
老人に声をかけると、
「ああ、ええよ。あんた一次試験は合格や」
「えっ? 今のが試験だったんですか?」
「せや、世間話をしてどんな受け答えをするかだけでも、常識のある人かどうかはわかるし、掃除をしてもらったら、その人の仕事の要領の良し悪しや、仕事への取組姿勢がわかるもんや。神社では掃除が基本中の基本やからな、一生懸命掃除してるふりしても結果として綺麗になってへんようななヤツは、全然使いモンにならへんねや。それに鉢植えに水をどのぐらい、どんな風にやるかで性格がわかるんや。ずっと見とって、あんたはちゃんとした人やちゅうことがようわかったわ」
この老人、ただ者ではなさそうだ。理事と呼ばれていたが誰なんだろう?
「そしたら二次試験をするさかい、ちょっと待っといてんか」
老人が入口のドアの横の壁にかかっているインターホンを取り、ボタンを押すと、
「一次試験終わったさかい、来てくれるかぁ」
と大きな声で言った。
しばらくすると、ドアが開き、サンタクロースが入ってきた。サンタのコスプレをしたおっさんではない。どこからどう見ても本物のサンタクロースだ。ただサンタらしくない苦虫を嚙みつぶしたような表情をしている。
「こんにちは。サンタ部門の責任者の小林です。早速実技試験をします」
髪の毛は完全に白髪で、カツラのような違和感がなく、どう見ても地毛だ。このカールはパーマをかけているのだろうか。口髭や顎髭も本物のようだ。変装ならば黒い髪の毛やつけ髭をとめるゴム紐などが見えそうなものだが、そのようなものは全く見えない。
「まずは、上着だけ脱いで、ズボンの上からでいいですから、このサンタ服に着替えてください。これを着てサンタに見えるかどうかも大事な適性なんです」
上着を脱ぎ、真紅のサンタ服を着た。
「で、ベルトを締めて、あぁ、そうそう。いいですね、フォルムは今年の最高点ですね」
全然笑わなかったサンタが少しだけ笑顔になった。
「えっ、そんなにいい感じですか。なんか嬉しいです」
「それで、次に髭を付けて、カツラをかぶって、あぁそうそう、こっちが前ですよ。それで、ゴム紐や地毛が見えないように調整してください」
俺は鏡を見て髭やカツラを調整した。
「はい。いいですよ。じゃあ、サンタのロールプレイをやってもらいます。まずこのシチュエーションでやってみましょう」
ニコリともせずにサンタが俺に「シチュエーション1(基礎編)」と書かれた一枚の紙を手渡した。
『子ども:カレンちゃん(女の子・9歳)、ほめてあげたいこと:家のお手伝いをよくやってくれた、頑張ってほしいこと:食べ物の好き嫌いをなくしてほしい、サンタを信じているか:信じている、性格:素直』と書いてある。
「じゃあ、まず私が見本を見せます。そのあとあなたにやってもらいますから、よく見ておいてください。じゃあ、子ども役は理事がやってくださいね」
「えっ、わしがやるの? まあええけど、女の子の役は他の人にお願いしたいな」
「仕方ないでしょ、女性職員はすぐに辞めちゃうんだから。いい加減セクハラめいたこといはやめてくださいよ。85歳にもなって」
「まあええがな。それは置いといて、早速見本を見せてやれや。あんた、わしの後ろに来てよう見ときなはれ」
俺が老人の後ろに立つと、サンタが入口ドアのあたりまで下がってから、こちらを振り返り、「ピンポ~ン」と呼び鈴を鳴らす真似をした。さっきまでとは全然違う柔和な笑顔だ。
「だ~れ?」
と、老人がドアを開けて覗く仕草をすると、
「ホ~ホッホ、メリークリスマ~ス!」
さっきまでの表情がウソだったように笑顔のサンタが手を挙げて家に入ってきた。
「うわ~、サンタさんだ~」
老人が頭の上から出したような素っ頓狂な声で叫んだ。
「ここはカレンちゃんのおうちかな?」
「うん、そうだよ~」
「君がカレンちゃんか? カレンちゃんがいつもいい子にしているから、今日は特別にプレゼントを届けに来たんじゃ。君に会えて嬉しいぞ」
「ええ~? あたしもサンタさんに会えて嬉しい~」
気色悪いぐらいに、老人が女の子になりきっている。そのまま、サンタがプレゼントを渡して家を出て行くまで二人で演じきると、サンタがまじめな顔に戻って言った。
「はいっ、最初からやってみましょう! ポイントはサンタがカレンちゃんに会いたかった。そして今日は念願がかなって会えたんだ~という喜びが見て感じられるような演技です。それが感じられるまで繰り返しやっていただきます。何回やっても演じられないようならここで不採用です。じゃあ、準備はいいですか? 家に入るところからやってみましょう。はい、3,2,1,スタート!」
俺に考えさせる余裕もないうちに実技試験が始まった。
「ピンポ~ン。ホ~ホッホ、メリークリスマ~ス!」
「はいダメ~! ここは子どもが初めてサンタに出会う場面です。自分がサンタで、カレンちゃんに会えてすごく嬉しいという感情を表に出してやってみましょう。自然と表情や声のトーンにそれが現れるはずです。では、最初から、さんハイッ!」
サンタが催促するように手を叩いた。
「ホ~ホッホ、メリークリスマ~ス!」
「違う! それじゃ伝わらないよ! もう一度、ハイッ!」
「ホ~ホッホ、メリークリスマ~ス!」
「そうじゃない、ホ~ホッホ、メリークリスマ~スだ! もう一回!」
「ホ~ホッホ、メリークリスマ~ス!」
「よしっ、次! カレンちゃんがいつもいい子にしているから、今日は特別にプレゼントを届けに来たんじゃ。君に会えて嬉しいぞ。はい、ここまでやってみよう。ハイッ!」
「カレンちゃんがいつもいい子にしているから、今日は特別にプレゼントを届けに来たんじゃ。君に会えて嬉しいぞ~」
「違う! 君に会いたかったんだ、会えて嬉しいんだという感情をもっとこめて!」
大きな身振り手振りで、サンタが吠えている。落語家が師匠から口移しで稽古をつけてもらっているみたいだ。
「か、か、カレンちゃんがいつもいい子にしているから~、き、今日は、特別にプレゼントを届けに来たんじゃ~~」
「大きい声で言ったらいいんじゃない! 感情をこめるんだ! こんな風に。今日はカレンちゃんがいい子にしているから特別にプレゼントを届けに来たんじゃ! ハイッ」
「か、カレンちゃんがいつもいい子に・・・・・・」
「だから違うって! カレンちゃんがいつもいい子にしているからって、もっと愛情をこめて言うんだ!」
サンタ服とは全く不釣り合いな険しい表情だ。俳優に灰皿を投げつけるという舞台監督の演技指導もこんな感じなんだろうか。
ふだんは、必要最小限のコミュニケーションしか取らない俺が持ち合わせている最大限の感情をこめて言った。
「カレンちゃんがいつもいい子にしているから・・・」
「そう、その調子だ。それにアクションも付けて! ハイッ」
「カレンちゃんがいつもいい子にしているから、特別に・・・」
声がかれてきた。
「ダメ! 特別にっていうのが大事なんだ。特別だっていうことを喋り方やアクションで表現するんだ。こんな風に・・・・・・」
サンタが理事のほうを向くと、怒っていた顔が急に優しくなり、
「おお、君がカレンちゃんか。カレンちゃんがいつもいい子にしているから、今日は特別に会いに来たんじゃ、会いたかったぞ」
と大きなアクションでありったけの感情をこめて言った。
「おお、やっぱり本物のサンタは一味ちゃうな。ほんまになんか伝わって来るわ。そっちのあんた、自分の演技との違いがわかるか?」
「いやぁ、なんとなくって言いますか、違うのはわかるんですが、自分がやろうとすると難しいといいますか・・・・・・」
「そうかぁ、どや小林? この人使えそうか?」
「いきなり、私と同じレベルを求めようっていう気はさらさらないんですが、ちょっとこの人はセンスがなさ過ぎますね。アルバイトやボランティアならこの人のレベルだったら上等なんですが、やはり国家公務員としてプロとしてやるからには、もの足りないですね」
サンタが老人と何やらひそひそ話をしていたが、1分もしないうちに俺の方を向いた。
「残念ですが、今回はご縁がなかったということで、不採用とします」
べつに俺はサンタになりたくてここへ来たわけではないので、不採用でも全然問題なかったはずなのだが、なんと言えばいいのか、このまま不採用と言われてあっさりと諦めるのが悔しくて、不甲斐ない自分に腹が立った。
「もうちょっと、やらせてもらえませんか? こんな早くに見切りをつけられちゃ、悔しくて今夜寝られませんよ」
老人が驚いたような顔でこちらを向いた。
「ええで、気がすむまでやんなはれ。ただし、あと5分だけやで。サンタもええやろ」
「いや、サンタもそんなにヒマじゃないんですよ。さっさとやってください」
サンタは怒りの表情だ。
「おお、君がカレンちゃんか。カレンちゃんがいつもいい子にしているから、今日は特別に会いに来たんじゃ、会いたかったぞ」
「だから、特別にってところが大事なんだ。抑揚をつけるとか、そこだけゆっくり言うとか表現の仕方があるだろう。何回も同じことを言わせるな!」
「は、はいっ。もう1回お願いします」
俺は深呼吸をした。
「おお、君がカレンちゃんか。カレンちゃんがいつもいい子にしているから、今日は特別に会いに来たんじゃ、会いたかったぞ」
「うん、さっきよりはいいが、まだ感情が足りない。おまえはふだん笑ったり怒ったりしないのか?」
「おお~、君がカレンちゃんか。カレンちゃんがいつもいい子にしているから、今日は特別に会いに来たんじゃ、会いたかったぞ」
なぜだろう、俺はだんだんサンタになりたいと思い始めていた。この試験に合格してプロのサンタになりたい。
「おお、君がカレンちゃんか。カレンちゃんがいつもいい子に・・・・・・」
老人を見ると、ソファで気持ちよさそうに寝息を立てている。その顔はなんだか満足そうに見えた。
「ああ、電池が切れちゃったか。こうなるとしばらくは起きないんですよ」
「電池?」
「ああ、いや、あなたを採用するかどうかを最終判断するのは、このジジイなんで、今日の試験はこれまでです。あとは結果の連絡をお待ちください」
「ジジイって? あなた方は何者なんです?」
「いや、私は文科省から派遣されている官僚で、このジジイは神社本庁から派遣されている私のボスなんですが、まあ上司がいつもこんな調子なので、私はいつもイライラしてるんですよ。もし不快に感じられたなら謝っておきます」
「はあ」
「合否についてはおってお知らせしますが、こうやってジジイが気持ちよさそうに寝ているんで、まあ期待して待っていたらいいんじゃないですか。機嫌を損ねているときは腹が立って寝られないと言ってましたから。では下までお送りしましょう」
「はあ、いや、今日はどうもありがとうございました」
エレベーターを降りたところでサンタが見送ってくれた。
受付の職員に一礼をして外へ出ると雨があがっていた。
俺はサンタになれるんだろうか。