ダイブ・ダイブ・アンダグラウンド

 29歳の誕生日。それが終わろうとしているいま、おれは窮地に立たされていた。
————バン!バァンッ!
 飛び出しざまリボルバーを二発。着弾を確認する間もなく駆ける。たかがリボルバーでなんとかなるほど「モグラ」どもは甘くない。
 赤く明滅する第九層のシャッター街を全力で走る。警報が鳴り響く地下街で、おれの心臓がバクバクと鳴る。
「クソ……なんだってこんなッ!」
 なんだってんだ。今日はなるはやで退勤して、第三層のスペイン居酒屋で、ユキとワインを呑み明かすはずだったのに。
 ガシャリガシャリと「モグラ」どもの足音が近づいてくる。おれは目についた角に飛び込み、リボルバーをリロードする。
 もつれる指で弾丸を込めながら、おれは覚悟を決めた。帰ったらユキに好きだと言おう。必ずしよう。もし生きて、帰ったなら。
 しかし、その覚悟に水を差すヤツがいた。そいつはおれの頭上で、香ばしい揚げ油の匂いを漂わせていた。

続く
#逆噴射プラクティス

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