無理のない範囲の優しさ|ハンブレッダーズ
ハンブレッダーズというバンドが好きです。
バンドが好きって、アイドルを好きっていうのとまた違うと思っていて。アイドルは「存在」とか「メンバー間の関係性」とか、あとはシンプルにビジュアルとか、彼女ら彼らが表に出す全てをコンテンツとして享受しているけれど、バンドは逆にメンバーの顔も年齢も関係性もあんまり興味がない。(とはいえ、ちゃんと仲の良いバンドのライブの方が遊びがあって面白いなぁとは思う)
では、何をもってそのバンドを好きだというのか。
それは、「刺さった曲があるかどうか」だと思う。
一曲刺さればそこからAppleMusicのトップソングをシャッフル再生する。他にも好きな曲がいくつかあれば、割と好きなバンドに。ライブに行きたくなったり、フェスのお目当てに据え始めた頃には、好きなバンドになっている。
そしてその時、私は大体「歌詞」で刺さっているのだ。
言葉の力に心を動かされて、端的に言い当て切り取ることの美しさに魅せられて、広告代理店に就職してしまったわけだし、
音数の規制の中でメッセージを歌に昇華する歌詞に惹かれるのはふしぎな話ではないが、ハンブレではとりわけそれが顕著だと思う。
大体一曲にワンフレーズ好きな言葉があれば満足なのに、ハンブレの曲は結構全編好き。AメロもサビもBメロも好き。
で、ハンブレを追いかけ沖縄遠征。大好きな先輩とドライブ中にハンブレ縛りシャッフル再生しながら、各パートの演奏がかっこいい話とムツムロさんの言語化能力に無駄がなさすぎるって話を無限にしていて、見つけてしまった。
ハンブレの歌詞に時々出てくる、「自分にとって無理のない優しさ」好きだなあ、と。
一番顕著だと思っているのは、『またね』のこの歌詞。
ああなんて、なんてちょうどいいんだろう。
そもそも『ひとりぼっちの大きさは、人によって違うから 君の気持ちがわかるだとか 言いたくないけど』もすごいんだけど、この内容をこのバランス感覚で、この軽さで端的に過不足なく伝えているのも大好きなんだけど。
今回叫びたいのはその下で、『この星のスピードに追いつけなくなったら 僕も一緒に考えるよ 遅刻した言い訳を』である。
一緒に遅刻もしてくれないし、間に合うように迎えに来てもくれないし、庇ってもくれない。
世間に溢れる曲なら、君のために僕は世界も敵に回しちゃうのに、ここで提供されるのは至って現実的で日常的な範囲。
でもそれって、実は最大限にとっても優しいことなのではないか、と思うのです。待っててくれて、一緒にいてくれる。頑張らないとできない優しさを振りかざすんじゃなくて、自分は自分の生活をしながら、それでも寄り添う。(「遅れる」じゃなくて「追いつけなくなったら」って表すのもいいよね)
追いつけなくなった子を無理に連れ出すわけでなく、でも遅れて行くのもちょっと勇気が必要で。後ろめたくて、逃げ出したいけど逃げたくない、別に世界の方を恨んでいるわけでもない時に、「言い訳一緒に考えてやるから」なんて言われたら、それが後からでも来る理由になると思うのだ。
同じ理由で『ペーパームーン』のここも好き。
これは手前に『大作というよりきっと 低予算のB級映画』とあるので別に悲しかったり辛かったりして泣いているわけではないんだろうけど、泣きそうな相手にハンカチを差し出すわけでも涙を拭ってあげるわけでもなく、ただティッシュを取って渡してくれるの、最高にちょうどいい優しさだな、と思う。
ちゃんと自分のために生きてて、それでもあなたのためにできることを探している。あなたのことが大切なんだと伝えてる。これはラブソングのはずなので、ひょっとしたら照れ隠しなのかもしれないけど、このパフォーマンスも下心も感じさせないライトさが受け入れやすくてあたたかい。
『十七歳』の
もいい。
歌い出しがこれっていうのも最高だけど、この後に『心底どうでもいいから 多数決に手をあげなかった』と続く。
多数決は放棄しちゃう尖り方なのに、君が勧めてくれた歌には言葉を濁しながらもリアクションしようとしている。でもめっちゃよかった!と嘘をつくことはできないんだね。
『十七歳』っていうタイトルも込みでめちゃくちゃ可愛くないですか。
あとは『BGMになるなよ』。
最高にロックバンドだなあ。
俺たちが世界を変えてやる!じゃなくて、この変わらない世界に対する自分の姿勢として、「変わらず愛と平和を歌」い続ける。
お前を変えてやる、とも言わない。戦う時の主語があくまで自分なのもいいな、と思う。
の2番サビとラストサビも好き。
変わらない世界に必要以上の文句を言わず、それでも自分はこうするんだ、を続けることは、偉大じゃないかもしれないけど、簡単なことでは決してなくて。 それを確かめさせてくれる歌詞だ、と思う。
私は悔しいこと続きだった時、ずーっとこれを聴いていた。ままならなくても、自分が自分の輪郭を捉え続けるためには、悔しいこと自体にのまれちゃだめだよなって。誰かにむっとしてしまう瞬間にも自分にも。
目の前の返信を、態度をおろそかにしたら、なりたくない自分になるだけだぞって。
ハンブレの歌といえば、『再生』の歌詞で『そいつは世界以外の全てを変えてしまった』が流れてきたのを初めて聴いた時、思わず巻き戻すくらい衝撃だった。
そうだよなぁ、世界は変わってくれないもんな。
自分が変わったから、世界が変わったように見えるんだよな。
だったら自分はどうするのか、に戻ってくるこの話が、『変わらず愛と平和を歌う』『愛することをやめない』『目の前の君に優しくできる』に帰結するのはとてもコンパクトで過不足なくて、素敵だと思うのだ。
歌なんてビックマウスでナンボだろ、も全然わかる。サンボマスターの全肯定ソングも大好きだし。
でもやっぱりハンブレが歌う具体的で自分の生活に無理のない範囲の優しさが、それすなわち愛であり誠実さであってほしいし、大事にしたい。