不安タスティック!
りょうへ
お手紙ありがとう。親子イモリの絵はとても美しく、永遠が刻まれていた一枚でしたね。そして、失われていくもの守られるもの、と受けてウクライナや沖縄の現状をふと考えました。どうした世の中でしょう。ついでさらに先日のコザロックの件は大変興味深い話でした。そこで、私自身のことをふと振り返り、ある一首が浮かびました。
The flowers withered
Their color faded away
While meaninglessly
I spent my days in the world
And the long rains were falling
ドナルド・キーン氏の英訳による、小野小町です。そう。私もこうして来月57歳になり、なんだかんだあっという間に還暦。いつまでこの世にいるつもりなんだろうって軽く考えます。特に惜しい人を亡くしたり、桜が咲いて散るたびに、いつまで生きるつもりなんだろかおいあんた。と、あのアメリカ大使館から雲南坂を越えるあのあたりで夜桜を独り眺めながら思うのが毎年の恒例。だけど最近そういえばあそこで夜桜お七もやらないし、そもそも桜を眺めるたびに、死を思う私なので、本当に私は一体なんのためにこうしてここで何をしてるんだと、先日も泳いでいながら自分が今どこにいるのかという感覚すら失って、足のつかないプールの底でジタバタもがいて、危うく水を誤嚥しそうになりました。果たして今自分はどこら辺にいるんだろう。もういいだろうと人生のクロージングボタンを押すタイミングはいつなんだろうかと。でも、ここにいて自然の中に身を投げ放っておいたり、はたまた、我慢していたレコード漁りや新生バンドニャーニャーず、キツラノキャッツのことなど考え始めると、一抹の不安は消え去り、不安を抱くごとに、不安不安不安と唱えていたら、「fun fun fun」とビーチボーイズは流れくるし、「フアンタスティック」と呟いたら、みうらじゅんさんの「不安タスティック」にもつながってゆき、なんだか不安を抱えているこの瞬間が実にファンファンファンと楽しく、ファンタスティックにすら思えてくるわけで、私がどんな老化をたどろうが、ドレミファ娘の頃と違うといわれようが、なんでこんなに太っちゃったの?なんでおばさんなの?なんでなんでとなんと言われようが、全て私自身はファンファンファンでファンタスティックなんだからどうでもいいじゃんと。それに、私自身の永遠や継承などは一切不要だし、幸運なことに継ぐような子供もいないし、「私は私よ!元々こんなよ!」と、シャンソンの歌詞のように簡潔なまでなので、ホッとしている次第です。何も残したないという私ですが、映画に出てしまったり、写真に撮られて作品として残ってしまっている。これをどうすることも今はできないので、まあそれは仕方ないこととして、それでも私自身は継承されない自分という存在は本当に心からよかったと思うし、そろそろ女優という生業も、書くことも、私からするりと抜けて私はゴーストのように、本当の意味でファンタスティックな最後が早く来ないか、そればかりを待ち侘びる、人生は死に至るまでの本当に長い暇つぶしなんだろうなあって。そんなことを考えた朝です。いきなりニコチンアレルギーになってしまってジタンも葉巻もやめてしまった私ですが、遠い昔に散々吸ったことを記憶の箱から取り出して、口中にその記憶を呼び起こしながら今日のことと来るべき彼岸への招待を考える、今朝はそんな気分です。そう。いつまでも世にしがみついてないで、とっとと、彼岸へ参りたいものですが、お迎えはなかなかきません。あ。こんなこと言ったら、うちの母が気の毒ですね。ここ数日連続で知人をなくしてしまったのでちょっと敏感になってますね彼岸の話。春の彼岸も近いですしね。
失われいくものとしての私が予告されたようにその存在はすでに生まれてから時限爆弾が仕掛けられたようにあって、守られるものとしての私はすでにもう不在で、その代わり私は何かを守らなければならない、それはなんなのか。とりあえず、今はここにいるので、自然を守ったり?スタッフを守ったり?弱きもの、ういもの、なんやかんやプロテクトしながら、まあタバコも葉巻も忘れさらにはもう酒すら2杯程度で蕁麻疹が出てしまうほどに、ロケの時もぐるぐるの着物の下でおしっこいつ漏れるか不安になりながら、そういう時も、不安タスティック!と叫んで楽しくなればいいかなと。ああもう不安も何もどんとこーい!と貫禄だった30歳の誕生日の朝、尾道ロケ中の私の写真を挟んでおきます。尾道にはあの阪神淡路大震災で陸路が困難な中、矢作さんと小学館の稲垣氏が遠路はるばる陣中見舞いにきてくれましたが、あの尾道ロケの昼夜逆転生活もキツかった。しかしこの写真の私は本当に太々しさが眩いわね。それにこれはどう見てもスナックパイミのチイママの出勤前でしょうかね。ではHB-101のキャップが似合う南部のハルサーオジーにゆたしく。
不安タスティック!
洞口依子より
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