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見分けがつかない話

最近地上波のテレビをとんと見なくなった。
アマプラやYouTubeという便利なものがあるので見たいものだけをいつでも選択して見れるが故である。
何となくバラエティ番組や歌番組などを時間潰しに流すということがなくなったのだ。

そんな生活を3年ばかり続けた結果、アイドルや若手の俳優さん、芸人さんの見分けがどんどんつかなくなってきている。
一応この世界からの断絶を防ぐために朝の情報番組だけは時計がわりに流しているのだが、出てくる方々がさっぱりわからないし覚えられない。
まあしかし共に暮らす夫も区別がつかないと言っているので、これが老化というものかと己の脳の機能低下を諦観し悪役令嬢もののアニメや魚捌き系のYouTubeチャンネルばかりを相変わらず好んで見る暮らしを送っていた。

そんな日々の中、子育てがひと段落した高校時代の友人たちと10年ぶりに遊ぶ機会があった。
その友人たちは今、各々KPOPや旧ジャニーズの若手を推しているらしい。
私は友人たちが若者のお顔に区別がつき、更に20歳も年下の現実の人物を好きになり推している事にめちゃくちゃに驚いた。
そしてそれがとても羨ましくて妬ましい気持ちになった。私だってみんなとキャッキャしたいじゃんか。

その日から私はKPOPアイドルや旧ジャニーズの方たちが見ている番組に出演している時しっかりと見るようになった。
同級生が好きになれたのだ、私もきっと好きになる事が出来るに違いない。
そうすれば次の飲み会中、KPOPの話で盛り上がってる時に中身のなくなった枝豆の皮をじっと見つめなくも良いはずだと考えた。むしろきっと新しく推しが出来た私の話を積極的に聞いてくれるだろう。もしかしたら枝豆を食べる暇すらもないかもなとほくそ笑んでしまった。

そうして3ヶ月が経った。翌日は件の友人たちとランチ飲みの約束をしているという日の夕方なのに一向に誰のことも覚えられない。
何故だ、どうしてなんだと頭を抱えて自室の床に転がっていると本棚の下段に並んでいる若かりし頃に集めたT.M.Revolutionの写真集の数々が目に飛び込んできて全てを理解してしまった。

そうだ、私はべつに昔から興味のないものは見分けがつかないじゃないか、と。
そしてみんなが好きな主流のものにはどうしても興味が持てず、高校生の頃もそれで話に混ざれず羨ましく妬ましい気持ちになっていた事も思い出した。
好きになろうとGReeeeNとケツメイシとDragon AshのアルバムをまとめてTSUTAYAでレンタルした苦い記憶も蘇ってきた。
もちろんどの楽曲もかっこよいとは思うが、正直いまだにあまり見分け(聞き分け?)がつかず申し訳ない。
例えばスナックの隣BOXで呑んでてサービスで歌ってくれても「上手い人がいるなぁ」くらいの感想で本人だとは気づかないと思う。

そうそうカラオケといえば当時はまだオタクに優しいとは言えない世界で、ギャルの皮を被っただけの小心者で卑怯な隠れオタクだった私はカラオケの選曲をミスしないようにとても苦労していた。

ONE PIECEが好きだけどアニメソングなんて歌ったらギャルサーから村八分に違いない、本当はT.M.Revolutionと筋肉少女帯が好きだけどみんなが知らない歌を歌って盛り下げる訳にはいかない。
そう悩んで悩んでカラオケに備えてhitomi、浜崎あゆみ、BoA、ハロプロあたりもレンタルしてMDに詰め込み毎日聴いていた当時の私を褒めてあげたい。偉すぎる。

自分が好きなものを好きでもう良いではないか、周りに合わせる必要なんてない!夫と末長く鉄鍋のジャンの話でもして生きていこう。
そう改めて思うことができた私は昨今の若者たちを覚えることを潔く諦めた。
というか魚種や悪役令嬢は今でもどんどん新しく覚えてブリとヒラマサも、レミリアとセレスティーヌだって見分けられるんだから興味が湧いたらSixTONESと SnowMan全員の見分けもつくし、どの歌がスキズでセブチでBTSなのかもオチャノコサイサイのはずだ。

そうやってちょっと空元気気味の気持ちで翌日のランチ飲みに向かった先週の私と17歳の私に教えてあげたい。
友人たちは当時から私がT.M.Revolutionと大槻ケンヂとONE PIECEのロロノアゾロが好きで好きで夢中になっていたことを知っていて、でも自分たちは詳しくないから私の好きを踏み躙らないようにそっとしてくれていた事を。

自分だけの推しが出来た今、当時のノラクロ(私ね)は周りに合わせるの大変やったやろうなってわかるわー!って言われて比喩なしで泣いちゃった事を忘れないようにここに書き残しておきたいと思う。

ところで何故当時の推しがみんなにバレていたのかを聞きそびれて1週間経つ今も怖くてそこだけ聞けないでいる。
当時は超イケてるギャル()になれていたつもりだったけど、もしかして友人達は優しいから1人場違いに背伸びしていたオタクの私を受け入れてくれていただけじゃないよね……?
もう少し勇気が出たら、いつか聞けたら良いなと思う。


そうだ、著名人の方の敬称を最初は付けていたのだけれど、読みにくいので外しました。失礼致しました。

end

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