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宝塚月組「ゴールデン・リバティ」観劇録

注意:

今回も多くのネタバレを含みます。まだ見ていない人で、ストーリーを楽しみにされている方は(はばかりながら)この記事を読むのは今が最適なタイミングではないかもしれません。観劇後にお越しいただけたら幸いです。


アメリカ先住民の表象

正直、見に行くまで宝塚歌劇団が、アメリカ先住民をどう表現するのかがすんごく不安だったの。
西部劇がテーマなのに、先住民の虐殺、土地の収奪、強制移住について触れないでストーリー展開されたらどうしようと、かなり緊張感があったんだけど、
結論を先に言うと、よかったァーーー!
ちゃんと触れてくれた。作・演出の大野拓史さん、ありがとうございます!

先住民のシャイアン族が、入植してきた西部開拓民に虐殺されたこと及び
たまたまジェシー(鳳月杏さん)の父(白人の入植者だと思われる)がシャイアン族のコミュニティに居合わせたことで虐殺の巻き添えに遭って殺されたことも演劇の中で語ってくれて本当にほっとした。

アメリカの西部開拓は、残酷で血まみれのえげつない歴史なので、それらをきちんと描くことが大事だと思っていて(キラキラ粉飾反対!)、こういう誠実さにわたしは救われるの。
今でもアメリカの先住民は、行方不明や殺人に巻き込まれるリスクが白人の何倍も高いから、今も続く社会問題なんだよね。

ロングロング・サーカス団が先住民をショーの「撃たれ役」にしていたのはさもありなんと思ってしまった。
あの当時は開拓民は味方で、「野蛮な」先住民は敵だったのよね。
だから同じ白人を撃たれ役にはしづらかったけど、先住民の族長とか酋長(しゅうちょう)ならできてしまう。
こういう差別意識が今の社会で感じられたら即抗議するけど、でもゴールデン・リバティの時代ではこれがよく見られるものだった。時代の風習とは一致してて不自然ではないんだよね。

あと、サーカス団の、
口に手をあててアワワワワワって発声も、先住民族の真似をする白人たちのジェスチャーって感じで、あまりいい気がしなかった。先住民への敬意が感じられないから。
でも、これもよく見られる光景。

見てて気持ちのよいものではなかったけど、見れた。それはストーリーに大事なことが織り込まれているのと、時代考証に合っていたからだと思う。

こういう歴史の負の側面を切り取らずに盛り込んで、複雑な気持ちにさせてくれる宝塚歌劇団をわたしはめちゃめちゃ信頼するの(←ほんとややこしい客)

鳳月杏さんがアメリカ先住民の羽根冠が似合いすぎる件と月組生のショーマンシップ

ちょっと話逸れますが、中詰めのシーンで鳳月杏さんほどあの先住民の衣装が似合う人おるか?って思った。
ド派手な羽根冠(ウォーボネット)と衣装を着こなして踊る。
アナレア(天紫珠李さん)はジェシー(鳳月杏さん)を撃たずに可愛く月のブランコに乗っているの、すごくよかった。あの中詰めはすごくすごーく楽しめた!!
月組生のコミカルさとリアルさの絶妙なバランスと、ショーマンシップ(観客を楽しませようとする心意気)に溢れた踊りだった。
大勢で踊ったときの華やかさは宝塚の醍醐味のひとつだと思う。

他にも好きな要素てんこもりなので、順不同で思いつくままに書きたい。

トップ男役とトップ娘役が対等な関係性

特に好きなのは、対等でバディ感のあるトップ男役(鳳月杏さん)とトップ娘役(天紫珠李さん)の感じ。

大野拓史さんの今作で言えば、アナレア王女(天紫珠李さん)をツアナキ王国の聡明な王女にして政治家として描いていたのはすごくよかった。
小国であっても、女性であっても尊重に値するんだと感じられて、こういう作品増えてほしいと切に思う。
あとアナレア王女(天紫珠李さん)はスキルの高いガンマンでもあるんだよね。カッコよーー。
自分で能動的に運命を拓くプリンセスで、少ない従者を連れて、変装してアメリカ(超大国)の大統領に直談判するためにくるんだもんね。度胸も行動力もあるし、もはやスパイじゃんっていう。アナレア(天紫珠李さん)の身のこなしが軽やかで、キャラクターの深みはあるけど、重たくはない絶妙な仕上がり。

ジェシー(鳳月杏さん)もギャングの一員だった過去を隠して生きていて、最初のウェイターのときからかっこいいのよ。立ち回りでは肝が据わってて動じないの。声の低さとブレなさを堪能してほしいです。
鳳月杏さんの役者としての安定感ともマッチしてて最初から魅力全開。芸の高さで舞台がシマる。

セクシャリティの表現

主人公のジェシー(鳳月杏さん)がモテ男ながら、興味のない女性に対して全くヘラヘラしないのも好印象。
昭和や平成のストーリーなら女を取っ替え引っ替えする男を『英雄色を好む』とか『女遊びは芸のこやし』とか言って【優れた才能や能力を持つ男性は決まって女好きである】って表現が多かったからね。
そこから、女好きな男性は優秀だみたいな、逆の意味で解釈する人もいたのよ。今から考えたら信じられないかもしれないけど。

んなわけないの。下半身のだらしなさと能力の高低は全く別物なのよ。
むしろ性欲に振り回されて自制心の弱い男が適切な判断を下せるとは思えないの。

だから、新生月組の鳳月杏さんが描写するカッコいい男性像(令和版)は昭和や平成の男とは違うんだと思えて、うれしい。

どんなに誘惑してもジェシー(鳳月杏さん)がなびかないから「もしかして女の子は好きじゃないの?」(誰か特定できなかった!誰のセリフ?)というのは一瞬、ん?と思った。
そんな軽々しく人のセクシャリティ(性的志向)を聞くなよと思ったりしたけど、このセリフは改めて聞くと絶妙なのよね。
「ジェシー、あなた好色なタイプじゃないの?」という意味にもとれる。ギリギリセーフ?かなと思った(わたしの感覚です、ダメと思う人もいるかも)。

これが「もしかして(ジェシーは)女の子に興味ないの?」だとセクシャリティを詮索する意味合いになって、ダメだなって思う。

ジェシー(鳳月杏さん)はそれには直接答えなかったのもよかった。
ジェシーがデミロマンティックなのかもな?と思わせる表現もいいな。

デミロマンティックとは精神的に強いつながりを感じる相手にだけ性的な欲求を抱くセクシャリティのこと。

出会ってすぐのよく知らない人と親密な関係を築きにくい特徴がある。だから、一目惚れとは縁がないタイプかなと思う。
よく知って、繋がりを感じて、初めて性的な欲求が湧くタイプ。この性的欲求って「この人と親密になりたい」「触れたい(手を繋ぎたい)」「キスしたい」みたいな気持ちのことね。こういう男性を描くのもいいな。

そろそろ男役さんは性的同意をとってほしい

そろそろ宝塚歌劇団の男役さんは「キスをしていいか?」と性的同意をとってからキスをしてほしいと思う。
言葉でコミュニケーションをとって意思確認。なんなら、トップ娘役さんからトップ男役さんに「キスしたい」という意思表示するのもありだと思う。女性にも性的欲求はあるし。

フィクションでは、女性は性的に受け身なものとして描かれることが多いから、女性には性的欲求がないと思ってる男性も実際いるし。んなわけないじゃん。

ステレオタイプ(偏見)を助長するのは罪深いね。

少なくともわたしの周りでは、性的欲求を言葉にする女性は「はしたない」、女性は純真無垢なのが望ましいという刷り込みってあるし、それって女性への抑圧だと思うの。何度も言うけど、女性にも(大小違いはあれど)性的欲求はあるからね。

宝塚歌劇団は女性を抑圧する因習に抗う責任がある

観客は圧倒的に女性が多く、出演者は女性ばかりの演劇で、女性を抑圧するような内容を披露するのは女性に対する大変な裏切り行為だと思う。

だから、宝塚歌劇団には女性を抑圧する文化や因習に抗う責任があると思うの。
ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)もジェンダーも一過性の流行りじゃなくて、全作品で(濃淡はあっていいので)感じられるようにしてほしい、というのがわたしの希望。

「説教臭い」とのバランスの取り方が難しいのは重々承知のうえで、クリエイティブの限界に挑戦するような盛り込み方をしてほしいのよ(←うるさい客)

ライマン(風間柚乃さん)役の解釈

ライマン(風間柚乃さん)は難しい役だったなぁと。パンフレットのインタビューでは「実は良い家柄出身の政治家の息子ですので、ちょっとした上品さなどを意識して周りの無法者との違いを出せたらと思います」と仰ってて、そういう考えのうえで創られたお役だと思うけど、
醜悪な役をどこまで醜悪に描けるかも力量だとわたしは思うの。(その点、雪組の夢白あやちゃんの「仮面のロマネスク」の悪女っぷりはほんとに胸くそすぎて、最高でした)

ライマン(風間柚乃さん)の場合は、出口が見えずに、消えてなくなりたいと思うほど追い詰められているけど、自分では手を下せない【しんどさ】みたいなのをお芝居から感じたかった。もっと醜く、ジュクジュク湿った感情を腐らせて、足掻く感じ。

ちょっとライマン(風間柚乃さん)が短絡的に決闘を選んだようにわたしには見えちゃって、もったいなかったのよね。わたしの好みの問題だけど。

でも、短絡的に極端な選択をするのも「お坊っちゃん育ち」らしい行動で、役を考えるとめーっちゃリアル。違和感のない役作りで、そういう風間柚乃さんの作り込み方を尊敬するの。

脇役たちのすばらしさ、キャッチーさ

ゴールデン・リバティは脇役たちのキャッチーなシーンがたくさんあって、それも楽しかった理由。

モンタナ(白雪さち花さん)が銃を構えたときの姿勢と切れ味はマジでかっこいい。セリフの「味のないスープに、革靴のような肉」だったか?にわたしは毎回吹き出しちゃう。分かる。ジャーキーのように硬い肉で、噛めば噛むほど美味しくな・ら・な・い・やつ。味がなくなっていくやつ(爆笑)

ディーン(礼華はるさん)とリッキー(彩海せらさん)の二人でワンセットな感じで可愛かった。

リッキー(彩海せらさん)「やっちまった」
ディーン(礼華はるさん)「あーぁ。またやっちまった」
は、わたしの姪(5歳)の大好きなシーン。帰りの電車では何度も真似てケラケラ笑ってた。

パール(彩みちるさん)はいい味だしてたー。母モンタナ(白雪さち花さん)をけしかける恐れを知らない無邪気さや、好きな人が思い通りにならないと意地悪しちゃう幼さとか「そういうのは幼稚園で卒業しときなさい」って言いたくなっちゃう。
ジェシー(鳳月杏さん)がパール(彩みちるさん)のこと眼中にないのは、たぶんそういうとこだぞ、っていう説得力。年齢はいくつくらいの設定だろう?わたしには15~17歳くらいに見えたけど。
わたしが暮らす日本では、未成年の子どもを性的に手なずける大人が結構いる社会だけど、ジェシー(鳳月杏さん)はそういう大人じゃないっていうのが明確になる役どころとして、いい仕事してました。ほんとに愛らしいの、声も動きも。幅の広い役者さんだと思うけど、パールはハマり役だったのでは?

ロングロング・サーカス団は
団長何人おるねん?!って観客みんなが突っ込んだと思う。

サーカスの長男団長アルバート(佳城葵さん)のときは軽やかで面白く、
カーヴィ(佳城葵さん)としてモンタナ(白雪さち花さん)の夫役をするときは、ねちっこくコミカルで、安定感のあるお芝居がとてもよい。
モンタナ(白雪さち花さん)の心底イヤそうな感じも手伝って、今思い出してもニヤニヤしちゃう。

大道具も迫力がすごいの

それから宝塚の大道具も抜群なので、それも堪能してほしい。鉄ヲタじゃないけど機関車の正面から煙モクモク出てくるのもいいし、鉄道が盆の上をグルリと回るのも迫力満点だし、車内の断面図も工夫されていて、すごくよい。(ちなみに、初めて宝塚を観たとき、わたしは役者さんがどうのよりも、大道具の豪華さに度肝を抜かれた)

宝塚の魅力満載で、同時にちゃんと社会派な作品なので、たくさんの人に楽しんでほしい。宝塚大劇場で三回見たけど、なんなら東京でもう一回くらい行きたいくらい。
テンガロンハットとカウボーイブーツ、めっちゃかっこいいんだから。


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