ある生物達の物語 ~白黒男編③~
植物採取
「ギユイーン」とギターを鳴らした。
僕の趣味はスポーツ観戦や映画鑑賞、プラモ工作等、色々あるけれどその中で、ギターを弾くことは歴が長い。上手く弾けた時はとても気持ちいいしカッコいいしね。休日に新しく買ったギターのエフェクターのつまみを回していた。
「このエフェクター、ハイゲインって宣伝しているのに、ちっともハイゲインじぁないな。」
ああでもない、こうでも無いとエフェクターの配置順を変更してみたけれど、結局アンプから直接、音を出す方がよかったりする。理想の音を追い求めエフェクターを買い求めて、これじゃお金がいくらあっても足りないな、音にこだわりだすと沼だ。
そんなことを思いながら、ちょっと手を止めて濃いめのコーヒーを飲みながら窓の外を見ると、すっきりと晴れた空にもくもくと入道雲。その下の方が鼠色になってひと雨きそうだ。最近は、いきなりザザっとスコールみたいな雨が降ってきたり急に強い突風がふいたり雷雨だったり、台風も大型化してきてるから注意が必要だ。
そういえば、もうすぐお月見の季節かー。月見といえば
あの月餅事件から一年ぐらいたっていた。
時々僕の中であれは夢だったのかなと思うことがある。確かに帰りの車に乗るまでは記憶があって、その後が朧げなのだ。友達のLiveは観たような気もするのだけれど、そこはすっ飛ばして翌朝、家のベットの上だった。
友達からは「来てくれてありがとう。また時間がある時は来てくれ。楽しかったぜ。」と携帯電話にメールが入っていたから行ったんだと思う。
それに、テレビボードの端にはあの時、ロータスさんから貰った名刺と星形クッキーがまだ残っている。まぁ、その帰り以降の記憶が曖昧なだけで、すっかり元気だったのでその後連絡はしなかった。
また会えたら楽しそうだけど、変わった人たちだったなぁ。
数日後、お仕事の合間に何か良いバイトはないかなと探し始めた。僕にあったバイトは大体、ネットのバイトサイトで検索するより、地域限定タウン紙のお手伝い募集欄の方が発見できる。ぺらぺらと頁をめくって募集項目を探す。
犬の散歩毎日夕方1時間、買い物のお手伝い、庭木の手入れ&草取、子供のお迎えシッター、商店街のチラシ配り、お祭りのお手伝い等様々だ。
この前の中華満のお店チラシ配りもこのタウン紙で見つけた。あのバイトは料金が破格すぎて驚いたなぁ。あれは滅多にない良いバイトだった。
今回はまぁ金額より何か面白いバイトがあればそれに決めよう。ふと、すみっこの欄に目が留まる。
”植物採取。決まった場所&時間にて採取して指定の場所へ届ける仕事。採取料の他、交通費宿泊費等別途支給。メールにて数回往信後採用。まずはご連絡を。redmen@~“
メールでのやり取りは珍しくないけれど、大体は電話して面接採用が普通だよな。メールだけで採用ってとっても怪しい。最近は個人情報登録して隙間時間にいきなりお店のバイトもあるけれど、タウン紙でメールだけでバイト採用、さすがに新手の闇バイト勧誘なんてことは無いか。まぁ何だか面白そうなのでメールをしてみることにした。
メールの往信内容は個人情報が含まれるので、全文は載せれないけれど、満月の深夜に指定された場所に咲いている月見草を根っこごと採取して指定された場所へ届けるという内容で、大体は募集要項と同じ。どうやら植物学の研究に必要とのことで学者さんかなと思った。バイト料も1/3前払い銀行振込み、採取場所も家から近かったのでやってみることにした。
植物採取は簡単だった。月見草を根っこごと掘り出して、少しの土と一緒にビニール袋へ入れた。届ける場所はMidorigaoka駅から少し離れた静かな住宅街。次の日はちょうど休みだったので午後に届けることになっていた。電車で最寄り駅に向かい、バスに乗って5分。坂道を登り二つ目のバス停で降り、歩いて横道の曲がり角を曲がったところで微かに花の甘い匂いを感じた。
確か”トンがった屋根が見える家で門の横についているブサーを鳴らす”って書いてあったな。”応答がなかったら門から入って、玄関ドアの横のブザーを押す”。後何だっけ、”玄関ドアについている取手には触らないように”だったかな。家はすぐ見つかって、トンがった屋根のある建物と普通の家がくっついている造りで周りに芝生の庭が門越しに見えた。
「ピンポーン、ピンポーン」よくあるベルの音だ。
「どうぞ、玄関へ。今鍵を開けますね。」
「失礼します。」と返答して門から玄関へ向かう。
玄関のドアが開いて、スゥと何か風を感じた。
嗅いだことのある甘い匂いがして僕はここにきた事があるぞと思った。目の前には見覚えのある白い服の女の人が立っている。
piyoさんだ。
「poeさん?poeさんだわ。リラばあ、お客さまってpoeさんなの。」
「ああ、お手伝いをしてもらったんだよ。こちらにお通しして。」
リビングに通されると紫色のたっぷりとしたワンピースをきた白髪のおばあさんがにっこりと笑いながら話しかけてきた。
「初めまして、poeさん。依頼者のリラです。植物を届けてくださってありがとう。poe さんが良かったらまた植物採取をお願いするさね。」
このリラさんとの出会い、piyoさんとの再会が僕の平凡な日常を賑わせるきっかけになった。
まぁ騒がしくなるのはもう少し先のお話なので次の機会に。
白黒男編③植物採取 Once finshed