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ビジネス目線でのPCR検査

パンデミックが始まって以来、以前には聴いたことがなかったのに、日常会話で普通に使われるようになった単語があります。PCR検査もその1つではないでしょうか。普段はあまり注目を浴びることのない検査業界ですが、技術革新の競争も激しく、さまざまな可能性を秘めた、興味深い業界です。今回は「ビジネス目線でのPCR検査」についてシェアさせて頂きたいと思います。

PCR検査は、遺伝子を増幅させるPCRの技術を使うため、少量のサンプルでも検査ができる画期的な検査と言われています。開発者のキャリー・マリス博士は1993年、ノーベル賞を受賞しています。

パンデミック当初、世界的に検査不足が問題視されましたが、それはPCR検査が専用の機器を使うだけでなく、熟練した検査技師が必要になるため、限られたラボでしか行えないということに原因がありました。1回の検査に時間がかかる性質の検査であったことも、限られたラボにサンプルが集中し、ビジネス再開予定日等、結果が必要な日までにPCR検査結果がわからないというような問題も生じていました。

Research and Markets社による市場調査

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早速、数字の話です。Research and Markets社による、下記の2本の業界レポート(Global $13.82 Billion PCR and Realtime PCR Testing Markets, 2015-2020, 2020-2025F, 2030FPolymerase Chain Reaction (PCR) and Real-Time PCR Testing Market Worth $22.4 Billion in 2020, due to the Surge in Number of Tests Being Conducted for the Diagnosis of COVID-19)から拾ってきた数字です。

すごいですね。75億ドルから一気に225億ドルに拡大!爆増の要因は、新型コロナ。PCR検査はコロナ(感染症)以外にも使われる検査ですが、今回、標準検査として(RTー)PCR検査が使われたことが大きかったようです。

新型コロナ対策として重視されていたのが、感染者の早期発見。感度の高いPCR検査は、感染の早期発見に適しているということで、早期発見の必要性がPCR検査市場を拡大したといえます。

アメリカの州によっては、ドライブスルー型の検査場を用意したり、希望する人が無料で検査できる場所を設けたりするところもあったようです。工場等では、ソーシャルディスタンシングが取れない環境にある従業員を対象に、定期検査を実施しているところもありました。

ハンデミック初期に起こった検査需要にラボの供給が追いつけないという問題は、感染症以外の分野でPCR検査を行なっていたラボが対象分野を広げ新型コロナ向けの検査を開始したり、リアルタイムPCR検査により時間短縮を行ったり等、業界全体の尽力があり解決できたようです。

今後の展望

PCR検査の現在の使用方法に関しては、問題もあります(【論争】PCR検査の問題点)。新しい検査の開発も行われているようですが、それに関するResearch and Markets社の見解は下記の通りです。翻訳に私の解釈が入らないように、グーグル翻訳を使ったものをそのまま掲載させて頂きます。

代替技術の開発は、PCR およびリアルタイム PCR 検査市場の成長を妨げると予想されます。迅速検査であるCRISPRなどの新技術がまもなく発売される予定です。 2020 年 2 月、Sherlock Biosciences Inc. と Mammoth Biosciences は、CRISPR ベースのテクノロジーを使用した改善された診断方法を開始しようとしています。代替検査の開発は、PCR およびリアルタイム PCR 検査市場を妨げると予想されます。

新技術は、医者や患者目線では、大変ありがたいものですが、ここはあくまでビジネス目線でのPCR検査の話ですから。PCR検査の弱点を補うような検査が開発されれば、そちらが標準検査とされる可能性がゼロではありません。

また、「これからはWithコロナ」ということを言われる方もいらっしゃいますが、コロナが収束すれば、コロナ用検査分の需要は当然なくなります。Research and Markets社の見通しとしても、2021年には99億ドルまで減少するとしています。ちなみに、パンデミック以前のPCR市場はどうだったか?というと、20年以上にわたり順調に成長していたものの、現在は頭打ちになっているとのことでした(同社2018年のレポートによる)。

「世界のPCR検査およびリアルタイムPCR検査市場」の数字だけ見ると、ボロ儲け感があるかもしれませんが、PCR検査に限らず、業界全体が想定を超えた技術革新によって生まれた投資競争に悩まされている・・・という話を聞いたことがあります。検査そのものではなかなか利益が取れないが、そこから生まれるビッグデータには無限な可能性がある・・・。ロシュ(製薬)による、ファンデーション・メディシン(遺伝子解析ラボ)の買収は、ゲノム情報を活用した創薬(プレシジョン・メディシン)のための関係強化が目的でした。この話は遺伝子解析ラボの方にもメリットがあります。検査はそれだけで完結できるものではなく、そこで出た結果に基づいたアクション=治療が必要だからです。例えば、高い技術で、病気の原因となる遺伝子変異が見つけられたとしても、それを治療する薬がなければ、医師や患者にとって、その検査は意味がないこととなってしまいます。検査需要を高めるためには、その検査の先にある治療があることが重要です。

コロナ向けPCR検査を通じて集まったデータを創薬する・・・というような流れがPCR検査業界の主流ビジネスモデルになるかどうかはわかりません。ただ、すでにビッグデータの蓄積を目的にPCR検査を広げているのでは?思われる企業の例もあります。ちょっと(だいぶ)怖い話となりますので、別記事として紹介させて頂きます。



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