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TEXIT(1)               テキサスのアメリカ離脱をめぐる大まかな議論

テキサスは特別な州だから、離脱もOK?

昨年の大統領選挙で、投票のあり方にさまざまな疑問点が指摘され、テキサス州が激戦4州(ジョージア州、ミシガン州、ペンシルべニア州、ウィスコンシン州)相手取り、不正選挙の是正をめぐり、連邦最高裁に提訴しました。”新型コロナ・パンデミックに乗じて大統領選の手続きを不当に変更し、選挙結果をゆがめたテキサス州を含むあらゆる州における投票の公正性も汚した”というのがテキサス州の主張です。他州やトランプ大統領が支持し、大注目となったのですが、最高裁判所は、テキサス州には「原告の資格なし」として裁判を行わないことに決めました。これは、万が一、各州の決定を覆すことになった場合、すでに各地で起こっていたアンティファ等の破壊活動がエスカレートするのではないか?という懸念があったためと言われていますが、実際のところ、どうなのかはわかりません。

この決定後、テキサスがアメリカから離脱する”TEXIT”(TEXAS +EXIT)が行われるのではないか?という話が再燃しました。”再燃”と言ったのは、TEXITが噂されたのは、これが初めてではないからです。古くは南北戦争まで遡ります

テキサスのアメリカからの離脱が可能という根拠として、アメリカ加入時の契約にあるとされています。ところが、この時の”テキサス併合の批准書”に書かれてあるとされるのは・・・

1)テキサス州は、将来5州以上にならない範囲で分割されうる       2)テキサス共和国の公有地と債務はテキサス州に引き継がれる        3)境界は連邦政府の調整に委ねる                     4)奴隷制度はミズーリ協定線より北側では禁止される

等で、離脱の方法については、特に書かれてないとされています。

これを公式に示したのが1869年に行われた最高裁判決、テキサス対ホワイト判決と言われるものです。”憲法ではその全条文において一体不可分の州による一体不可分の合衆国を目指している”とし、1861年にテキサスが合衆国を離脱したのは違法であるというのがこの判決です。この判決では、離脱できるとすれば”革命もしくは他州の合意”によるとも。

”1861年の合衆国から離脱”とは、南北戦争時のことです。併合の批准書と同様、アメリカの憲法には、州の新規加入時のことは定められてありますが、脱退については触れられていないようです。そのためこの1869年の最高裁判決が今のところの基準となります。つまり”TEXITは批准書で定められていないため、離脱するなら、革命もしくは他州の合意”となります。

併合批准書の抜け道?

ただ、TEXIT推進派が言っているのはあくまで先ほど批准書をベースにしています。先程の条件のみで、どうやったら離脱OKの理論が作れるのか? このときに、使われているのが下記の条項です。

1)テキサス州は、将来5州以上にならない範囲で分割されうる 

例えば、人口の条件ギリギリのところで、小さな1州を作り、そこをテキサスとして、合衆国に残し、残りのエリアを新たな名前をつけ、州の認定は受けないとしたら、州ではないから、離脱したことになる?ということなのでしょうか。

州になるためにはいくつかの条件をクリアしなくてはなりません。例えば、ハワイは州ですが、グアムはテリトリー(アメリカの領土)です。州に昇格するためには、1787年の北西部条例(Northwest Ordinance)”がその基準とされています。

北西部条例による州昇格までの道:                     新しい土地を開拓し、入植 有権者(成人男子)が5000人に達すると準州として、議会を設置する自治権が付与される。準知事の選出は連邦政府による  人口6万人を超えると、州昇格の条件を満たしたとして、連邦議会に昇格を申請 → 連邦議会の承認を認められれば新しい州に。

州に昇格する特典:                              ・州民の選挙により州知事の選出が可能                    ・連邦政府の上院議員(2名)、下院議員(人口比により人数を割当て)を選出できる                                                                                                                         ・州民は、大統領選挙の投票権を得る                 

州になると、州民による自治の度合いが高まるだけでなく、連邦政府にも州民の意見を反映させる機会が持てるようになります。この北西部条例によって設立された最初の州はオハイオ州(1803年)であり、現在のところ、加入した最後の州(50番目)はハワイ(1959年)です。

3つ目の大統領選挙の投票権については、びっくりしませんか? 先ほど例に出したグアムの住民には、大統領選挙の投票権がありません。ストローポールと呼ばれる擬似投票は行われるようですが、実際の投票には反映されません。

ということは、テキサスを分割して、小さなテキサス州を1つ作り、あとの4つ(以下)のエリアを”州”としないならば、ここは単純にテリトリーということになります。そうすると、自治権や連邦議会への影響力も落ちるため、得策ではありません。

そもそも”5州以上にならない範囲で分割”とあるので、分けた5つ(またはそれ以下)の全てが最初から”州”扱いではないかとも思います。

結局のところ、TEXIT推進派がいう、加入時の批准書があるため、テキサスはいつでも離脱できるというのは、見つけることができませんでした。もしかして、これも都市伝説? 実はテキサスにはいろいろな都市伝説があります。これはこれで面白いので別途ご紹介します。

テキサンは本気。”離脱”を可能とする憲法解釈

ここまで見てくると、TEXITは都市伝説ではないかと思う方もいらっしゃるかと思いますが、テキサンのTEXITは本気です。

時を少し戻して、“Yes, we can!”盛り上がった2008年の大統領選。この時もテキサスはレッド・ステイト(共和党優勢州)でしたが、オバマ大統領が再選された2012年の選挙でも、テキサスは赤組が勝利しています。それどころか、オバマ大統領の再選後、独立請願するための市民による署名は、1ヶ月以内に必要とされる2万5,000を大幅に上回る3万4,000名分集まったと言われています(ホワイトハウスのホームページに設置されているオンライン請願システム「We the People」必要数集まると、ホワイトハウスは回答しなければならない仕組み。ちなみにこの時、独立を請願した州は合計10州)。請願の大多数は1776年のアメリカ独立宣言の一部を引用し、”政府の正統性は国民の同意に基づく。いかなる政府であってもこの原則に反した場合、国民は政府を変更・廃止して新たな政府を樹立できる”と主張していたそうです。オバマ政権が特に大きな反発を受けたのは、”大きな政府”だったから。その意味ではバイデン 政権も同じです。

2016年にトランプ大統領が選出され、2020年までは共和党政権でしたが、この運動がなくなったわけではなく、一部の団体により続けられています。今年、7月にも推進派の1つテキサス・ナショナリスト・ムーブメント(TNM)による会合が行われました。TNM会長のダニエル・ミラー氏によると、テキサス州憲法とアメリカ合衆国憲法の両方を使って1869年の最高裁(テキサス対ホワイト)判決に闘いを挑むと言います。

TNM会長のダニエル・ミラー氏による脱退可能説:                                                    テキサス州憲法:「人民は、いつでも、自己の都合のよいように政府の形態を変更し、改革し、または廃止する奪いがたい権利を有する」            米国憲法修正第10条州が禁止されていることのすべて書かれているが、その中に、”連邦の脱退”は入っていない。(憲法で連邦脱退は禁止されていない)

これだと確かに離脱できそうな感じがします。

TNMは、住民投票の実現に向け、必要とされる1党あたり7万人以上の署名を集める活動を行っているとのことでした。ミラー氏が引用した、2014年頃に行われたロイターの世論調査では、「共和党員の54%、無党派層の約半数、民主党員の35%が、テキサス州が自治権を持つ独立国になることに賛成」ということで、ミラー氏はTEXITへの支持が高まっていると語っていました。(Texas Nationalist Movement presents case for Texit in Amarillo より)

TEXITはテキサンに有利か?

テキサス州が離脱について検討できるのは、アラスカにつぐ米第2位の土地の広さを有し、人口、経済力(GDP)、ともにカリフォルニア州に次ぐ全米2位であるからだと思います。人口・経済力1位のカリフォルニア州でも、独立や、3分割を目指す運動が行われているようです(Calexit)。さらに、テキサス州の輸出高は全米最大であり、2018年時点で全米の19%を占める大きさです。2位はカリフォルニアで10.7%

推進派がいうTEXITメリットの1つは、連邦政府に支払っている高い税金をテキサス内で活用した方が良い政治が行えるというものがあります。

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ただ、実際、離脱となると、個人的にはそう簡単ではないかと思います。例えば、ソーシャル・セキュリティー(社会保障)やメディケイド等は、連邦政府の支援事業です。中でも最も気になるのが年金です。これは給料から天引きされているソーシャル・セキュリティ・タックス(給料の6.2%)が原資になっているかと思うのですが、離脱した場合、現在、または将来の年金受給者が問題なく受け取ることができるのか?という点に不安が残ります。

この問題に対し、先ほどのTNM会長のダニエル・ミラー氏は、ローンスター・ステートがローンスター・ネーションになれば、最大で1600億ドルの超過連邦税がテキサス州に残ることになると言います。連邦政府の支援事業はなくなりますが、「連邦政府のプログラムをひとつずつテキサス州で再現しても、1,300億ドルから1,600億ドルの余剰金が残るでしょう」というのがミラー氏の試算です。

他にも個人的に懸念するものとして、テキサスの多くの産業にとって”アメリカ”は重要な市場であることが挙げられます。テキサスが独立すれば、NASAや政府関連の組織は、テキサスから移転しなければならないでしょう。テキサスでは、サイバーセキュリー産業も有名ですが、主な顧客は軍だと聞きます。NASAや軍等、国防に関わることは、自国で行うことが一番安全です。これらの周辺業界としてテキサスで発展してきた業界は、大ダメージを受けるかもしれません。

さらに、トヨタ等の民間企業の動向も気になります。そもそもトヨタがアメリカに進出したのは、アメリカで製造した方が税金面で優遇されるからだったかと思います。テキサスがアメリカでなくなれば、再び、デトロイド等に移転してしまう可能性は、連邦政府の決定次第で、あり得ることです。自動車産業は周辺事業がたくさんあります。トヨタが移転すれば、周辺企業も移転する可能性が高く、失業問題が浮上するかもしれません。

連邦政府はそんなに優しい組織ではありません。

1月に政権が共和党から民主党に変わりました。それまで出ていた大統領令が新しい大統領令により廃止され、さまざまな政策が尽くひっくり返されました。この政策転換により、テキサスの国境、オイル・ガス業界はかなりのダメージを受けています。が、ひっくり返されたのは、政策だけではありません。テキサスのとある医療施設では、前政権で承認されていた補助金がカットされました。政府系機関のフィナンシャルイヤーは、10月に始まりますから、年度途中の変更です。

余談ですが、このドタバタの渦中で問題に対処しなければならなかった友人は、「政権が変わったらよくあること。すごく困るけどね」と、このトラブルを理由に民主党支持を辞めるわけではないようでした。この辺の感覚は、日本人とは少し違うのかもしれません。

民主党政権とバチバチやりあっているテキサスが独立したとき、現在の連邦政府は必ずテキサスが不利になるようなことをしてくるはずです。テキサスの製品に高い関税をかけてくるかもしれないですし、ワクチンパスポートによる入国制限は間違いなく行われるでしょう(今年11月中国より、アメリカに入国する外国人にはワクチンの接種を義務付けする方針のようです)。最悪の想定をすると、エンティティリスト(米製品輸出禁止対象企業一覧)に、敵国認定したテキサスの企業を入れてくるかもしれません。ただ、これらは個人的な心配事で、推進派の団体には何か策があるのかもしれません。

私自身の生活にも大きく関係してくることですので、引き続き、リサーチしていきたいと思います。

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