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大谷選手とアカデミー賞と、アメリカにおけるアジア系に対する扱いと。②

本題の前に事件の概要

本件ご存知のない方のために・・・。ご存知の方はこの章はスキップしてください。さらに4月中旬くらいに書いた記事を、なぜかその1カ月間、パソコンの中にキープしてしまっておりました・・・。

連邦地検の発表で明らかになっていること(4月中旬くらいまでの情報)

  • 大谷選手は完全な被害者である(違法賭博にも、賭博業者への送金にも関与していない)被害総額は24億円以上

  • 元通訳にかけられている容疑は、大谷選手名義口座から胴元へ不正送金した銀行詐欺。具体的にわかっていることは・・

    1. 不正使用された口座は、大谷選手が渡米直後に開設した球団からの給与振込用のものだった

    2. 口座開設時の通訳業務を通じ、得た口座情報をもとに、銀行連絡用のメールアドレスや電話番号を変更した

    3. 送金確認時に、大谷選手を装った通話記録が残っている

    4. 送金には、元通訳の通信機器やIPアドレスが使われていた

    5. 会計事務所からの指摘(監査?)を免れるため、通訳という立場を利用し、会計事務所を騙していた(下記は共に嘘)

      • 使用した口座は、大谷選手本人が、会計事務所ではなく、自らが管理したいと言っている

      • 大谷選手が体調を崩したため、ミーティングは元通訳のみが対応することになった

  • 公開された、元通訳と胴元との通信記録によっても、元通訳の単独行動であったことや、詐欺の手口の一部が明らかにされた。公開情報によると・・・

    1. 不正送金するにあたり何度か失敗していた

    2. 大谷選手への接触(暴露?)を匂わせることで、連絡を無視していた元通訳に胴元がプレッシャーをかけていた

    3. 本件に関する第一報が出た際に、大谷選手のお金に手をつけたことを胴元に明らかにしていた

大谷選手関与説を唱えていた人の指摘とその誤り

大谷選手の記者発表の後から連邦地検前までに、頑なに大谷選手関与説を唱えていた人が根拠としていたことには下記のようなことがあったかと思います。これらの根拠がおかしいということについては、以前のコラムで紹介しました。連邦地検によると、元通訳の手口は、大方以前のコラムでシェアさせていただいたような内容でした。ただ・・・私は元通訳があくまでギャンブルでおかしくなってしまって、思わず手を出してしまった・・というような感じで捉えていたのですが、実際の手口は、想定していた以上に悪質で、それは本当に残念でした。

  1. アメリカの銀行は不正アクセス対策が厳重で、他人の口座にアクセスし、送金するのは無理→連邦地検が不正アクセスの手口を発表

  2. 実は大谷選手が振込した(ギャンブルを行った)が、元通訳に罪をかぶってもらっている。→大谷選手が提出したスマホや、元通訳の機器、IPアドレス等から、大谷選手の関与は完全否定

  3. 6億円以上もの資金が消えているのに、本人やマネジメント、会計事務所が気が付かないのはあり得ない。→実際の被害総額は、24億円以上だったが、それでも元通訳が役職を悪用したことにより、これまではバレることがなかった

連邦地検発表直後の日米メディア等の反応

アメリカのメディアも、日本のメディアも、さすがにまだ大谷陰謀説を唱えることは不可能になったようです。が、大谷選手マニアで有名なスポーツキャスターで、サイ・ヤング賞を受賞した兄を持つ、ベン・バーランダーさんが、今回の発表を受けても、未だ大谷批判を続けている人たちへのメッセージを投稿していることからも、未だ・・・いるんでしょうね・・・。彼も大谷選手が被害者だということを証明する37ページにも及ぶ報告書が出たにも関わらず、「翔平が悪事を行なっていてほしいと思う人がいるのかわからない」と疑問を呈しています。そして、その理由の1つとして、「誰もが自分が間違ったということを認めたくはないもの」として、そのような人に諭すようなメッセージを送っています。

”謝ったら負け”

日本とアメリカを比べれば、確かに”謝ったら負け”という態度の人は多くいるような気がしま・・・いえ、多くいます。しかし、「アメリカ人が謝らないか?」と言われたら、これは回答が難しく、州によっても、仕事か私生活かというシーンによっても、違うような気がします。

後は・・・相手によっても。というわけで、ここからが今回の本題です。

「アメリカ人には全然知られていない」という大谷批判(?)に対するナニそれ?

❶アメリカにおける野球の位置付けを考えたら当たり前

日本人が世界的なスターだと考える大谷選手けど、
アメリカではほとんどよく知らない!

と、主張するアメリカ在住日本人もいますが、これはちょっと説明不足だと思います。大谷選手の前に、アメリカにおける野球の位置付けが微妙であるということに触れる必要があるからです。

野球はアメリカの国民的スポーツであるか?と尋ねられれば、YES。
ですが、野球はアメリカで人気のあるスポーツか?と尋ねられたら、微妙・・・。

例えば、私が住むヒューストンをベースとしたMLBのチームには、アストロズというかなり強いチームがあります(サイン盗みで批判を受けたこともありますが・・・)。シーズン中には、職場や学校で、「チームTシャツやチームカラーを身につけて、アストロズを応援しよう!」という”アストロズ・スピリッツ・デー”もあり、ヒューストンに住んでいるならば、とりあえずアストロズのTシャツは必須といっても過言ではないほどです。もちろん、着ていなくても、何も言われないのですが、ヒューストニアン(ヒューストン在住者)とのコミュニケーションをスムーズにしたいのであれば、地元チームのTシャツは一通り抑えておくのがベストだと私は考えています。スポーツに精通している必要はありません。私はここがポイントの1つだと思います。

ヒューストニアンならば当然、アストロズを応援しているのだけど、
毎日、野球を見ているわけではない。

それどころか・・・

優勝が見えてきたら、応援する!

という、アストロズファンのヒューストニアンも少なくないのでは?というのが、個人的な感想です。

だとすれば、野球ファンとはいえ、他球団のことなんて、よく知っているわけはありません。大谷選手を知っているヒューストニアンは日本ほどではないというのは、その通りなのですが、では、同じ球団だったトラウト選手のことはよく知られているのか?といえば、大谷選手とあまり変わらないのではないかなという気がします。

そもそも近年のMLBは、アメフトやバスケの人気におされ、ちょっとマズいポジションにあった上、アメリカのスポーツ市場では新興勢力であるサッカーからもファンを奪われている状態だったといいます。MLBが世界一の野球リーグであり、アメリカは野球大国であるということは間違いのない事実ですが、そのこととアメリカ人がMLBの選手のことをよく知っているということにはつながらないのです。大学や高校にあるスクールカーストでも、圧倒的な上位に君臨するのは、アメフトの選手だと言われています。そのようなアメリカのスポーツ市場を考えると、熱心な野球ファンではないアメリカ人に、大谷選手が知られていないというのは、ごく当たり前のことかと思います。

というわけで。相手がアメリカ人というだけで手当たり次第に、「大谷選手って知ってる?」と尋ね回ってみたところで、その結果が大谷選手へのアメリカでの評価にさほど大きな意味はないと思います。

❷関心のない一般時事ネタは興味なし!?

さらに・・・ですが、これは野球に関する話題だけではないのですが、自分の関心のない一般時事ネタは一切知らないという人は日本よりも多い気がします(とりあえず話題のニュースを抑えておく・・・みたいなことをしない)。

例えば、政治に全く興味のないというアメリカ人(それなりの企業にお勤め)から、「今って副大統領誰だっけ?」と尋ねられたこともありますし、歴代アメリカ大統領の中でも人気が高いと言われている大統領であっても、「第二次世界大戦の時に、最初に大統領だった人って誰だっけ?」とか、「キューバと何かあった時の大統領誰だっけ?」とか尋ねられたこともあります。尋ねてきた人はみんなおそらく大学は卒業している人たちですが、「こんなことも知らなくて恥ずかしい」という感じは全くありません。それは・・・

 政治に興味がないし、知らなくても生活に支障はない知識だから。

アメリカ人本人が知らないアメリカのことについて、外国人である私が知っている前提で質問してきたことにもちょっとびっくりですが、そこは「アジア系なら知っているでしょう!」くらいの感じなのかもしれません(*アジア系の学生は成績優秀だというステレオタイプがある上、大体それは事実)。「次のオリンピックがいつ、どこで?」とか、「ロサンゼルスでオリンピックあったんだぁ?」とか・・・日本では一般的に広く知られているようなことに対する質問であっても、「関心がないのだから、知らなくて当然でしょ?」という印象を受けます。

何はともあれ・・・。この辺りは、時事ネタを満遍なくチェックしている日本の社会人事情とは、そもそも少し違う気がします。そのようなことも、野球ファン層以外のアメリカ人に対する大谷選手の認知度に大きく影響しているのではないかと思います。

❸野球界での大谷効果は抜群!

実際、この私の推測が大きくは外れていないだろうなと思うのが、大谷選手がもたらす経済効果です。”大谷効果”については、元々ドジャースへの移籍が決まった頃に報じられていたことで、その多くが・・・

びっくりするほど高額な年俸だけど、大谷効果で回収の見込みあり!

だったと思います(ポジティブ記事とネガティブ記事の比較をしていないため、あくまで肌感覚です)。これらはあくまで”予測”。これに対して、今年4月下旬ごろには、それらの結果の一部として・・・

大谷効果でホームだけでなく、アウェイのチケット販売だか急増

という記事を目にするようになりました。

「大谷選手のことはそれほどアメリカで知られていない」と断言され、アメリカでの日本人選手の活躍を認めたくない日本人もいたようですが・・・

大谷選手の出場する試合だけ、
敵地の人もどうしてこぞって観に行こうとするのでしょうか?
野球界における認知度だけではなく、注目度、人気の高さがあってこその話です。

❹ルール・メーカーに、正攻法でルールを変えさせた”大谷ルール”

先ほど、「野球界では、認知度だけではなく、注目度も高い」と考えられる話をシェアさせていただきましたが、それだけではなく、大谷選手は、アメリカ野球界でも、すでに影響力を持った選手だといえます。

大谷ルール:大谷選手が二刀流に挑戦するために、MLBが行ったルール改変

ルール・メーカーであるアメリカが、日本から来た1人の選手のためにルールを改変したというのは、アメリカに住んでいるアジア系住民にとっては、驚きのヒトコト自分のことを”アジア系”とわざわざ書いたのは、日本人というカテゴリーで認識されることは、なかなかないからです。さらに、その”アジア系”という、私にとってはとてつもなく雑多で大きなカテゴリーにも関わらず、”アメリカにおけるアジア系”は、残念ながら重要度の低いマイノリティ。だからこそ、大谷ルールはものすごいことなのです。

なぜそこまでMLBが動いたかといえば、大谷選手の能力を買って・・・の部分もあるかもしれませんが、ここはアメリカですから、一番の理由は、経済効果。「❶」でもシェアさせていただいたように、アメリカのスポーツマーケットにおける野球の位置付けは大変苦しいものになっていました。マーケット拡大のために、MLBがどうしても獲得したかったファン層は、女性と子ども。一般的に、女性ファンが増えると、男性ファンも増えていくものですし、子どものファンの獲得は、ファミリー単位で球場に訪れる人を増やしてくれるだけでなく、未来の投資にもなります。
そのような重要なファン層獲得にピッタリだったのが大谷選手

❺日本が誇るゲーム・チェンジャーを、日本人がむやみやたら叩く意味は?

以上を踏まえて、私は、大谷選手の認知度の高さは日本人にだけみたいな主張をしていたおじさま、おばさまたちにとても腹が立つわけです(私もおばちゃんだけど)。日本人に限らず、アジア系がアメリカの第一線で頑張るというのは、本当に大変なこと。アメリカにおけるアジア系の立場というのは、過去記事のハーバード大学VSアジア系学生の記事をご覧になっていただくと、さらにご理解を深めていただけると思います。

ハーバード大VSアジア系受験生
❶アジア系は学業成績は良いが人格に問題あり!?(2022年11月)
❷多様性を守るために、アジア系学生を制限!?(2022年11月)
❸アジア系差別の本当の狙いは・・・?(2022年11月)

イチロー選手ほどの(MLBでの記録を更新した)選手でも、やはりいろいろ大変だったというインタビュー記事も読んだことがあります。大谷選手も、二刀流であることに散々批判されましたし、今でも、何かにつけて大谷批判を展開したいと考えているメディアはあるようです。そのような中でも結果を出している彼らのことを本当にすごいなと思いますし、「”日本人”の知名度と評判をあげてくれてありがとう」と、心から感謝しています。

大谷選手のアメリカでの認知度がイマイチと思うのであれば、インフルエンサーを自覚しているのだから、足を引っ張るようなこと言っていないで、応援してあげたら?と。おそらく、海外在住といっても、実際の仕事のベースは海外ではないというか、外国人と競い合うという環境に身を置いていないから、大谷選手の活躍の凄さが理解できないのかもしれません。変な話ですが、私はK-popは色々な意味で好きではないのですが、K-popの子たちがアメリカでひどい扱い・雑な扱いを受けたニュースを見ると、胸が痛みます(先日の罵倒を浴びせたカメラマンたちの件だけでなく、インタビューで、グループ名を間違ったまま何度も連呼されたり、アメリカやオーストラリア等英語圏出身者<英語ネイティブ>に対し「英語、上手ですね」と言ってみたり・・・。こんな雑なインタビュー、インタビュアの素質を疑ちゃいますが)。あちらの国はあまり・・・という日本人の友人も同様のことを言っていました。アメリカでは日本人も韓国人も”アジア系”と一括りにされた上、同様に雑に扱われることが少なくない・・・という体験をしているからではないかと思います。

微妙な話ですので少し濁して表現しますが、数年前に加熱した人権運動は、色々な問題があったとは思いますが、不当な立場を解消するためには、まとまって闘うという姿勢は不可欠なんだなとも思います。そして、ここはアジア系の課題ではないかと。自分を律することで、問題を解決しようとする姿勢やその達成力はすごいと思うのですが、それだけでは社会は変わることがありません。とはいえ・・・「社会はすぐには変わらないのだから、人一倍努力して、その社会の中での生き残りに努力する方が確実」・・・と考えてしまうのがアメリカ在住のアジア系の共通点・・・。そのような社会を変えようと努力したアジア系グループの1つが先ほどのVSハーバード大学の学生グループだと思います。一度出ていた最高裁判決をひっくり返したことは、ものすごいことです。

大谷選手の話に戻ると、彼は「社会を変えよう」とは考えていないと思いますが、彼の野球は確実にMLBを変えており、そのインパクトはじんわりとアメリカ社会にも影響を与えてくれるんじゃないかなと期待しています。それだけに・・・意味がよくわからない揚げ足取りはやめていただきたいです。


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