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アメリカにおける中絶問題、本当に焦点を当てるべきことは?

”中絶の権利”推しに対する疑問点

中絶の権利は、カマラが大統領になるために重要な課題だった!?

カマラ・ハリスのコンセッション・スピーチですが、聞き終わって記憶にあるのはトランプ大統領に対する間接的な批判がしれっと盛り込まれていたことと「中絶希望者、どれだけ多いの?」ってことのみ。ある程度の収入を得ている正社員であっても、州によっては一人で部屋を借りられないような物価高に苦しむ国民が少なくない中、全ての国民が今日明日に直面している緊急問題でもない、中絶のことばかりを語る・・・そんな無能さんに国のトップは任せられないと思う方は少なくないと思います。

しかし、ここでちょっとだけカマラ・ハリスを擁護するならば、アメリカ人の中には経済や移民、外交等の問題と並べて中絶の問題を扱う人が一定数存在するようで・・・

32% of voters nationwide said the economy mattered most in deciding how to vote in the presidential election. 11% said immigration, 14% abortion, 34% the state of democracy, 4% foreign policy.

https://www.reuters.com/world/us/results-nevada-exit-poll-us-presidential-election-2024-11-05/

ロイターの出口調査によると、大統領選で重視するものは・・・

  1. 民主主義:34%

  2. 経済:32%

  3. 中絶:14%

  4. 移民:11%

  5. 外交:4%

えええええっと?中絶問題が堂々3位。伝統的な考えや宗教的な教えを重んじる人が多いというグループの性質が共和党にある以上、中絶問題をここに挙げたのはほぼ100%民主党支持者かと思います。同じく出口調査によると、民主党支持者の方が共和党支持者よりも学歴が高い層からの支持を得ているとのことだったのですが・・・。

医療政策って、大統領に権限はなく、権限が与えられているのは州なんだけど?

これってワクチンの裁判でも散々争点になってましたし、昨年、中絶問題に関しても、最高裁判決でも、過去の判決を覆した上で、州の権限を認めた判決出て、大騒ぎになっていたのですが・・・。大統領に託すよりも、州議会にお願いした方が良いのでは?

実際、今回、中絶に関する法案に対し、Ballot measures(住民の意思表明みたいなもの、扱いは州によって異なるものの、賛成案そのまま州法になることが多いそう)を行った州もいくつかありました。実際、中絶を認めた1973年判決を覆した2022年の判決でも、”中絶禁止”としたわけでは全くありません。20世紀後半まで”中絶は犯罪”とされていた歴史的事実がある以上、、適正手続条項によって保護される、アメリカの歴史に深く根ざしている権利とはいえないから、1973年が間違っていたと判断したというのが本当のところ。だから、この件は、医療政策に権限がある州での議論に戻したという判決でした。

アメリカの”中絶裁判”(1):最高裁判決を適切に伝えないメディア、判決が意味するもの

それで今回、中絶に対しての住民の意思が下記の通りです。”中絶”という括りでまとめられているのですが、各州によって元々の制度や、そこからの制限強化、緩和等の現状が異なるため、単純にYESが中絶賛成というわけではありません。例えば、フロリダは昨年、制限する妊娠の週数を6週目までと厳しくしたのですが、ここにある問いは、それよりも長い週数(胎児が子宮外に出ても生存できる状態になってから)までの中絶の権利を認めるか?であり、その答えがYESだったということかと思います。

*週数に関しての話は、後の章でシェアさせていただきます。

何はともあれ、このような形で州民の意見がそれぞれの州法に反映されていきます。ですから、大統領や、他州のリベラルの方々が”自由のための闘い”とやらを展開している意味が全くわからないのです。

中絶を制限した州法の何が問題か?

この問題に対して、割と最近まで私はニュートラルな立場にいました。というのも、中絶そものもに関しては、その家庭の考えがあってのことで、私が他人の家庭に口出しすつのも・・・という気持ちがあったからです。ただし、中絶に関して、その人が信仰する神や、法律等で制限が設けられることに対しては、制限に対して反対する気持ちもありません。

ただ・・・大統領選の争点が”中絶”という勢力がやたらに大きな声で「女性の権利」を叫んでいることに対しては、理解を超えていて、気持ち悪さすら感じています。

中絶の問題は、一生直面しない女性もいますし、直面した(する)という女性もそう何度も直面する問題ではないですよね?中絶ができる州もあるわけですし、制限がある州でも週数によっては中絶が認められている場合がほとんどかと。アメリカ全土で全ての中絶が禁止されているわけではありません。

にも関わらず、何よりも優先しないといけないほど、
現在の”州ごとに定められた中絶の制限(制限なし)”は何が問題なの?

日本のリベラル・エリート、NHKさんのサイトによると、中絶を行えなくなるデメリットは下記の通りで・・・。

中絶を行えなくなるとどうなるの?
州内に中絶を行える病院がなくなった場合や、オハイオ州の女の子のように、州の法律が認める妊娠の週数を超えてしまった場合には、中絶が禁止されていない他の州に移動して中絶せざるを得ない場合があります。
ただ、アメリカの国土は広いので、中絶ができる病院まで10時間以上運転したり、飛行機に乗ったりしないといけないケースもあり、身体的、経済的な負担が今まで以上に大きくなっています。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2022/08/18/24402.html

いや、確かに10時間かけての移動は大変ですよ。でも、中絶を受けようとする全ての女性に起こることでもないですし、そういうケースも出てくるというわけだけのことです。

女性の全人口のうちの(>>>)中絶する女性のうちの(>)長距離移動する人

だと思うのです。そして、この10時間の移動も、毎週末移動しないといけないとか、毎年移動する必要があるわけでもないことです。
それよりも国家としては、物価高、不動産高、治安の悪化は、もっと多くの人が直面している毎日の問題を優先的に取り組むべきではないでしょうか。もちろん、少数派の問題だから切り捨てて良いといういいではありません。ただし、国家が取り組む問題としての優先順位は必ずあります。それで、そもそも中絶問題が関係してくる女性の割合っていうのは、どれくらいなんだろう?っていうのを調べてみると、次のような記事がありました。

リサーチ会社Guttmacher Instituteの調べによると、女性の4人に1人は45歳までに中絶を経験する。

https://www.womenshealthmag.com/jp/wellness/g45991770/celebrities-abortion-stories-20231230/

”女性の4人に1人は中絶を経験する”というデータの怪

アメリカで生活する個人の肌感覚として、”女性の4人に1人が中絶を経験する”なんてことは考えにくいデータでしたので、データの元となった研究をみてみました。

An estimate of lifetime incidence of abortion in the United States using the 2021–2022 Abortion Patient Survey

ガットマッハー研究所が、2014 年の妊娠中絶率が維持された場合、米国の生殖年齢の女性の 24% が 45 歳までに妊娠中絶を受けると推定したという研究です。この研究は、中絶に対する連邦保護を撤廃した2022年判決の直前の年における中絶の生涯発生率の推定値を更新したとのことなのですが。

2021年のCDC報告書にある中絶患者の年齢分布をAPSデータに適用し、2020年の中絶件数を使用(表4)。

上記の表はあまり重要ではないなと思って、30歳以降のデータが切れていますがそのまま使っています。気になる方は、元データをご覧ください。この表の”トータル”のところの”Cumulative Abortion Rate(累積初回中絶率)”が23.9%になっています。この累積初回中絶率というのが特定の年齢までに少なくとも 1 回中絶が行われる可能性を示したもの(予測に基づいた数字)だということで、この推定数字に基づいて、米国女性の4人に1人は中絶を経験するだろうという結果になっているようです。

補足:
・研究ではいくつかのコホートのデータが表示されていますが、大体同じ感じ
・この23.9%という数字はあくまで「1000人あたり23.9%」という初回の中絶を経験する予測に基づく数字。ここから「4人に1人」という見解が導き出された
・累積率は人口全体のスナップショットを表したものではなく、現在の傾向に基づいて、特定の年齢までにコホート内の何人の個人がイベント (”初回中絶”など) を経験するかを予測するために研究で使用される数字

でもでも、ちょっと待ってください。
この統計で気になったのは、むしろ”15−19”のところの”First Abortion(初回中絶の割合)”の数字が”82.2%”であるということ。

15歳から19歳の未成年なのに、
中絶が初めてという人が100%ではないということはどういうこと!?

15歳から19歳で中絶をした女子のうち1000人あたり17.8%は、2回目(か、それ以上)の中絶を経験したということになります。数字で見ると、CDCのデータに基づいた表4の中だけでも、15歳未満の中絶ケースが1900、15−19歳で75,300となっています(研究内で、中絶調査の特徴を考えると、実際の数字はこれよりも多いとされています)。
実はこの研究、”初回中絶”についての調査なので、繰り返しの中絶については、反映されていないようなのです。

超文系の私が言うのも何ですが、この統計、使い方がいまいちじゃない?

”中絶には5時間のドライブがかかる”とか言っている場合ではありません。この子たちの家庭環境や教育に問題があるのは、明らかです。こんなに若い年齢の子が中絶を経験せずに済むような政策の方が急がれるのではないでしょうか。

それに・・・。15歳から19歳までに中絶を少なくとも2回は経験したという女の子と、30歳以降に初めての中絶を経験した女性と比べて、再度中絶が必要になってくる層はどちらかといえば、当然、前者。にもかかわらず、この統計では、若年層で起こる可能性の高い中絶の繰り返しが考慮されていないので、この調査ででた将来の可能性の数字というのは、過大評価ではないかなっと。ここは超文系の私ですので、あくまで感覚的なものになってしまいますが・・・。

争点は、胎児をいつから1人の人間扱いするのか?

先ほどのガットマッハー研究には別の統計も紹介されていて、それによると、妊娠14週以前に中絶をする人は94%だそうです。州によって異なりますが、禁止されているのは、だいたい妊娠15週間以降に関するもの。ということは、仮にこの研究の結論にあった”4人に1人は中絶!”が妥当な数字だったとして、”4人に1人のうちの94%は中絶の希望があれば中絶できる”ということになると思うのですが。

この週数がどのように決められているかといえば、どの状態になった胎児を1人の人間として扱うべきか?という議論があります。最も厳しいのがテキサス州の妊娠6週目で、これは比較的新しい考え方で、胎児の心音が聞こえたら1つの命として扱う(ハートビート法)というもの。15週目あたりは、”胎児に痛みを感じるかどうか?”で、22週目以降は子宮外での胎児の生存が可能かどうか?

フロリダで”6週目まで”という制限が反対されたのは、この頃は妊娠の自覚がない人が多いという理由かと思います。しかし、同研究で紹介されたCDCのデータでは、中絶を受けた人の45%が妊娠6週目かそれ以前だったとされています。これ以上の情報がないため、これは憶測となりますが、この45%は、他の妊婦が気が付きにくい週数での妊娠ということで、妊娠の有無にかなり敏感だった人と考えられます。そうすると、妊娠の理由となる行為が性犯罪や近親相姦等、望まない状況で起きたケースは、この45%の中に入りやすいのではないか?と。もちろん、反復的に性的虐待を受けているケース等、早期発見が難しいケースもあるとは思います。ただ、中絶をした人のうち、妊娠6週目までに妊娠した事実を知り得た人が45%いたということは、中絶推しの人にも、考慮すべきデータの1つではないかと思います。

また、最も厳しいとされるテキサス州ですが、合理的な医療上の判断があれば、6週目以降の中絶も可能です。リベラルメディアでは、テキサス州で医療上必要だった中絶が裁判で否決された!のようなニュースが流れていましたが、これも正しい報道ではありません。裁判の争点となったのは、医師や女性が訴えた症状(状況)が、妊婦の死亡や身体機能の障害を防ぐために中絶が必要という医療上の判断が合理的と考えられるかどうか?。裁判の判決として、合理的ではないと判断されたため、この女性は他州で中絶手術を受けることになったというものでした。

オールドメディアって、本当にスポンサーのために情報の印象操作を行う、情報工作機関でしかないなと思います。

・疾病管理予防センターのデータによると、2021年には、中絶の45%が妊娠6週目またはそれ以前に行われ、妊娠7~13週で49%、妊娠14週以降で7%。

https://www.guttmacher.org/fact-sheet/induced-abortion-united-states

中絶に関して、本当に社会問題として扱うべきこと

先ほども少し触れましたが、先ほどの研究を見て、私はアメリカにおける中絶問題は、若年層に焦点を当てるべきだと思います。

15歳以下にも中絶経験者がいることや、15歳から19歳で2回目以上の中絶ケースがある等、若年女性層で望まない妊娠と中絶がこれほど多く起こっているという背景には、必ず、家庭環境や学校教育の問題があるからです。それを裏付けるようなデータが、先ほどの研究の中には含まれていました。中絶を受けた人の経済状況についてです。中絶を受けた人の中で、連邦政府が貧困だと考える収入の額に達していないという人が41%、貧困レベルかその2倍程度の収入の人が30%。

中絶を受けたうちの7割以上が経済的に困窮している

・中絶を受けた人の約41%は連邦貧困レベル(FPL)以下の収入、30%はFPLの100%から199%の収入(貧困レベルの収入か、その2倍程度の収入)だった。

https://www.guttmacher.org/fact-sheet/induced-abortion-united-states

アメリカでは貧困問題とドラッグやアル中の問題に密接なつながりがあると言われています。貧困エリアでの学校では、学業成績の前に、出席の問題があるそうです。若年女性の中絶問題と、貧困問題はおそらく深くつながる問題。問題のある家庭環境、学校に通えない・・・そのような状況にある子どもたちを想像すると・・・。15歳以下、または15−19歳という年齢で中絶を経験する女の子たちが中絶が自分の身体にダメージを与える可能性があること、出産を希望するようになった時に問題が起きるリスクもあること?等々を理解した上で、中絶という選択肢をしているようには思えません。

「中絶は女性の権利!」なんて未成年の女の子にデモで叫ばせるぐらいなら、学校できちんと教育した上で、避妊具を配る方がよほど現実的な対策になるのではないでしょうか。オリンピック等の国際大会において、避妊具の配布は当然のことになっていますから、導入に障壁があるような取組みでもないかと思います。

また、若年層に限定しなくても、中絶を受けた7割は広義の貧困層ということを考えると、解決が急がれるのは、経済問題だと思います。特に、貧困層は、前章で言及した”インフレに対応できる転職ができる層”ではありませんから、物価高の影響をもろに受けている層ですし、学校予算の削減の影響も最も受けている層です。このように考えると、経済問題を解決なくして、本当の意味で、中絶の問題を解決
することにはなり得ない
と思います。

”争点は中絶”と回答した14%はどういう人?

中絶を自由に行える権利が重要!みたいな人が、投票した人のうちの14%もいたというのは、本当に驚きというか・・・大丈夫?と思ってしまうのですが、ただ、この14%の人の考えを理解してみようと考えてみたところ、このどうにも止まらない物価高、不動産高の中、アメリカには困っていない人も存在していたことを思い出しました。

まずは、アメリカについてちょっとシェアさせていただきますと、アメリカは常にインフレ傾向にある国です。貯金よりも投資を好む人が多いのは、貯金ではインフレをカバーすることができないためというのもその一員です。そして、日本人が考えられないほどの転職を繰り返す一因にも、インフレ対策が挙げられます。転職のたびに給料を上げていく・・・のがキャリア・パーソンのあるべき姿。そして、このことは当然、企業側も理解しています。そんなわけで・・・。

リベラル・エリートの皆さんは、経済問題にお困りではないかもしれませんね。

特に何系かといえば、医療・製薬業界の皆さんは困っていないでしょうね。コロナで儲かりましたよね。トランプ大統領の1期目では、製薬価格を抑える政策をとられたとのことで、現在では民主党を支持する医療機関や製薬会社がほとんどなのではないでしょうか。コロナのおかげで、持ち直した会社も多いですしね。そのグループの中には、オールド・メディアも入ってきます。誰もコロナなんて騒がなくなってからも、ワクチンのCM量は相変わらずあったように思います(私はラジオを聴くくらいですが・・・)。購読者が激減する業界にとって、莫大な広告費が期待できる利権グループとは、仲良くしておきたいでしょうね。

ワクチン・性転換手術・中絶問題に、なぜそこまで熱くなるのでしょうか?

って考えたら・・・。利権パワーってすごいなっと痛感する今日この頃です。


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