8人が亡くなった音楽フェスの群衆事故、ニードル・スパイキングが原因の可能性?
人気ラッパーのライブで起こった事故の概要
日本では報道されていないかもしれませんが、テキサス州ヒューストンで開催されたトラビス・スコット(Travis Scott、ラッパー、ヒューストン出身)主催の音楽フェス”アストロワールド”で、クラウド・サージと呼ばれる現象が起こり、8人が死亡、20人弱の入院患者のほか、300人近くが会場に設けられた野外病院で治療を受けたとのことでした(死亡者数以外はメディアにより若干数字が違うようです)。
警察やヒューストン市の発表によると、ライブに集まった観客は約5万人。会場となったNRGパークは20万人収容できるということでしたが、SNS上に上がっている写真は「えっと、まだコロナ中ですよね?」というくらいぎゅうぎゅう詰め。20万人対応できるNRGパーク内で、ライブの観客席としてどのくらいのスペースが確保されていたのか分かりませんが、参加者の話ですと、”前に前に”という動きが後ろから伝わってきて、押されるように前に進まざるを得なかったということで、その結果の鮨詰め状態だったのかもしれません。
ただ、この辺りは想定内のことで、ライブ等、大勢の人が集まる場所では、”群衆管理”が行われているのが通常だそうです。NBCLXの報道によると、ブライアン・ヒギンズ氏(公認群衆管理者でジョン・ジェイ・カレッジ・オブ・クリミナル・ジャスティスの教授)は、群衆管理の基準が改善されたおかげで、最近では起こっていなかったと語っています。今回のライブでも、群衆管理分野におけるパイオニアであり、専門家であるコンテンポラリー・サービス社が警備にあたっていたといいます。
ただ、別の報道によると、音楽フェスティバル”Astroworld”の緊急計画には、クラウド・サージについてのプロコトールが入っていなかったともされています。この辺りは、現在、捜査中ですので、後に明らかになるかと思います。
クラウド・サージとは?
先ほどのヒギンズ教授のインタビュー記事から、コンサートのような集まりでは、”クラウド・サージ”が起こりやすくなる原因をまとめますと・・・。
ライブに集まった群衆(観客)は、周りには何もない環境の中で、目の前のパフォーマンスだけに集中するという、みんなが同じことをしている状況にあります。群衆はパフォーマンスに魅了されている、つまり、群衆の間で対立したり、違う方向に向かったりしているわけではありません。
後方にいて、前に押し出されていると、もっと近づきたいという気持ちになり、この圧力が前方に向かってどれほど強烈なものか気づかないのです。これは意図的に「(他人のことなんて)気にならないから、潰してやる」と、言っているのではありません。人々はただ、その瞬間に夢中になっているだけです。「みんなが前に行っているのだから、私ももっとステージの近くに行けるはず。みんなが動いているのには何か理由があるはずだ」というような気持ちからです。
そのような人の動きは、ある時点で、”固まった塊”にぶつかって動けなくなり、観客はどこにも行けなくなってしまいます。後ろから来た人たちは、まだ前に出ようとし続けます。フロント部分にいけばいくほど、後ろからのプレッシャーが増してきます。前方の人が押しつぶされていることに気づいていないものです。
一方、ステージ前方にいた人たちは、普段からライブに行っていて、見知らぬ人と肩を並べて群衆の中にいることに慣れている人も多かったかもしれません。そのため、危険な状態になっても気づきにくかったのではないかとも考えられます。
"力で押しつぶされて死んでしまう”という意味で、クラウド・サージは暴力的です。世界中のスタジアムで壁が壊されるのを見たことがありますが、その力はすごいものでした。しかし、”群衆は非常に利他的であり、お互いに助け合う傾向がある”という調査もあります。この傾向が崩れ、騒乱が起きるのは、”人々が何が起こっているのかさえ気づかない”ところまで到達した時です。いったん地面に倒れ込むと、立ち上がるのは非常に困難です。人々は意図的に他の人を倒しているわけではありませんが、倒れた人に気づかないかもしれません。
さらに、観客が呼吸困難に陥ったという報告も、観客のパニックを助長した可能性があります。群衆は”呼吸困難に陥るレベル”に達すると、闘争か逃走が始まると考えられています。意図的に人を踏みつけようとしているのではなく、生きていくための努力をしているのです。
(https://news.yahoo.com/2-weeks-astroworld-tragedy-playboi-164952775.html より抄訳)
クラウド・サージが新たなテロに使われる可能性
これは現在、捜査中の内容となりますので、あくまでも私が勝手に考えている可能性の問題です。
ヒギンズ教授によると、クラウド・サージは、意図的に他人に危害を与えるために起こるものではないということでしたが、気になる話が2つあります。暴力的な観客と、ドラッグの問題です。
1つは、5万人という観客総数に比べればごく少数ですが、荷物検査のところで逮捕された人もいます。セキュリティゲートを無断で超えたとか、違法薬物を持っていた等が逮捕理由です。この音楽フェスの2週間前にも、同じ会場で同様のライブが開催される予定でしたが、入り口のところでの観客の無法ぶりが懸念され、ライブ自体を中止にしたとのことでした。ファンの中にも、一定数、暴力的な人がいるのか、もしくは、単純に暴れたいだけでライブに来ている人もいるのかもしれません。
ただ、数人のそう言った人が”前方の人を押す”という行為を行っただけでも、クラウド・サージは起きる可能性があるのではないかと思います。これは現在も、捜査が(おそらく)続いている、アメリカ大統領選挙をめぐる1月6日の議会侵入事件にもある疑惑です。本来、建物によじ登ったり、侵入することは違法ということは分かっていたことで、群衆の中にはそのような違反行為をする人に注意する人もいたと言います。しかし、ボルテージが上がっている中で、群衆として建物に侵入する流れができれば、その流れに流されてしまうということは、ヒギンズ教授のクラウド・サージの説明から考えられることです。
つまり”悪意ある誰か”が先導すれば、クラウド・サージを起こすことは、難しいことではありません。武器もいらないし、証拠も残りにくいかと思います。今回の件がこれに当てはまるとは、警察も報道も一切言われていない話ですので、私の個人的な懸念というか、あくまで事故の可能性の1つです。ただし、今後の留意点として、大勢の人が集まるイベント等では、クラウド・サージを使ったテロに対して、もっと警戒するべきではないかと思います。
2つ目は、”ニードル・スパイキング”という、ドラッグによる犯罪です。これはもともとはデート・ドラッグの1種だったようですが、針を使ってドラッグを他人に投入することで、同じ効果を狙ったものとされています。打たれた方は、チクリという痛みを感じた後、意識を失い、翌朝を迎える・・・そしてその間の記憶は全くないといいます。ヨーロッパでは5年前くらいから被害が広がっているようで、一番多くの被害があったのは、ロンドンだったようです。アメリカでは今年10月くらいに、ロンドンの事件を伝えたような報道が見つかりましたが、特によく知られた犯罪ではありません。
今回、SNSではこのニードル・スパイキングが行われた疑いも出ています。実際、ヒューストン警察も、この路線での捜査を行っていることを認めているようで、警備員の一人がニードル・スパイキングの被害を受けたそうです。観客の1人に手をかけようとしたところ、チクリという痛みを首に感じ、意識がなくなり倒れたそうですが、応急処置を受けたところ、違法ドラッグの解毒剤で回復したと言います。
「医療スタッフによると、昨夜、警備員が市民を拘束しようと手を伸ばしたところ、首を刺されたとの報告がありました」と、ヒューストン警察署長 トロイ・フィナー氏。「診察を受けたところ、彼は意識を失いました。彼らはナルカンを投与しました。彼は蘇生しましたが、医療スタッフは、誰かが注射をしようとしたときにできるようなチクチクした痛みに気付きました」。ナルカンは、緊急時に麻薬の過剰摂取を治療するために使用されます。ヒューストン消防署長のサム・ピーナ氏によると、アストロワールドでは他にも数件、この薬が投与された事件があったとのことです。https://www.msn.com/en-us/news/crime/what-is-needle-spiking-astroworld-drugging-reports-investigated-after-tragic-event/ar-AAQsxvY yより抄訳
次の文章は、”アストロワールドの緊急運用計画にはサージプロトコルが欠けていた”という記事からの引用です。ニードル・スパイキングについては全く触れられていない記事ですが、気になる記述もあります。
その中には、父親と一緒にフェスティバルに参加していた9歳の男の子も含まれていましたが、観客が危険な状態になったために、離ればなれになってしまった、と家族が語っています。バーノン・ブラウント氏によると、彼の孫のエズラくんは、ヒューストンの病院で昏睡状態になっており、乱闘で心臓、肺、脳に損傷を受けたとのことです。
「私の息子(エズラくんの父親)は、コンサート中に圧迫されて気を失い、エズラは群衆の中に落ちてしまいました」とブラウント氏はAP通信に語っています。息子が目を覚ましたとき、エズラはそこにいませんでした。
当日の観客の声でも、周囲の人が突然倒れ込んだという話は出ているようです。突然、隣の人が倒れこめば、パニックに陥る人が出るのも想像ができます。人々が薬漬けになっていたことがクラウド・サージの原因になっていたのではないか?ということについても、捜査中であるとのことでした。
このニードル・スパイキングがどのような”針”で行われているのかはわかりません。ただ、(昔からあるものかもしれませんが、個人的に)最近知ってびっくりしたのが、貼るタイプのニキビ薬です。これに小さな針があり、そこからニキビに直接薬を入れ込むのだというのですが、子どもたちによると、痛くはないそうです。もちろん、意識を一瞬で失わせるほどのドラッグということですので、この貼るタイプのニキビ薬よりも、もっと多くの量の薬が必要だとすれば、もっと大きな”針”が必要になるかとは思います。・・・とはいえ、警備員の話からは、両手を使って打ち込むようないわゆる”注射器”が使用されたようにも思えず・・・。片手で、軽々と打てるようなものだとすれば、怖い世の中になったなと思います。
ちなみに、ニードル・スパイキングの予防策としては、”ライブやクラブ等、密集した場所に行く際には、気を失った時に、安全な場所に連れて行ってくれる友達と一緒に行くこと”と、いくつかの記事で書かれていました。・・・まだ、しっかりとした対策はないということなのでしょう。
気になること
これは私が個人的に勝手に気になっていることです。この事件は、金曜日(11月5日)の夜に起こったことですが、日曜日(11月7日)にはすでに主催者民事訴訟が起こされました。11月10日現在、20件以上の訴訟がすでに起こされています。訴訟王国とはいえ、早くないですか? アメリカでは弁護士があまり気味ですから、このような事故が起きると、被害者のもとに駆けつける弁護士がいるというような噂は聞いたことがありますが、定かではありません。
この訴訟では、トラヴィス・スコットは、主催者としてだけでなく、クラウド・サージが起きたときに、パフォーマンスを続けたことについて批判されています。ヒューストン警察によると、事故が起きていることは、主催者側とも連絡をとっていたものの、ライブを突然辞めてしまうと、ボルテージが上がりきった観衆がどのような行動を起こすかわからないということで、ライブが続けられたとのことでした。
これは確かに一理あります。映画館でのタイトルロールや、プロ野球のヒーローインタビュー等を行う理由は、観客が出口に一斉に集中しないための工夫だとされているからです。ただ、そこで続けたトラヴィス・スコットは、”ファンを熱狂させることで有名な30歳のラッパー”ということでした。途中で、ライブを止め、救急車がきていること等を知らせたというのですが、最終的には観客の方からライブの中止の声が上がるまで、おそらく通常通りのパフォーマンスを続けてしまったとのことでした。
ここは、そもそもトラヴィス・スコットが誰だかわからない私が語ることではないのかもしれませんが、もし、パフォーマンスしているのがラルクのHydeさんや、X JapanのYOSHIKIさんだったら、うまく観客をコントロールできたのでは?という気もします。本来、音楽が専門であるシンガーにその能力を求めるのも?とも思いますが、今後、パフォーマンス中に事故や事件が起きる可能性がゼロでないとすれば、観客をうまく誘導する役割というのは、警備員だけでなく、ステージの上にも必要かと思います。ステージ上に登壇し、パフォーマーと絡みながらうまく観客を誘導できるような、そのような役割が不可欠かと思います。
個人的に今、一番気になっているのは、このような大規模イベントがそもそもNGであるという空気が作られようとしているのではないかということです。メディアは一斉にこの件で主催者側の批判を行なっていますが、多くのメディアは、クラウド・サージの件に触れる際に、ニードル・スパイクリングについて触れていないようです。この事故が意図的に起こされたのか?、大規模イベントとしての宿命なのか?では、今後の対応が全く異なるかと思います。
ヒギンズ教授によると、最近では起こっていないというクラウド・サージ。それが起こった会場NRGパークでは、2週間前にも、セキュリティゲートを突破した観客により、ライブが中止されています。NRGパークのセキュリティ体制には、見直しが必要なのは言うまでもありませんが、そのような”セキュリティの穴”を攻撃してくる層もいるということも留意すべきかと思います。
しつこいようですが、昨今のアメリカの共産化は、ひどいものです。共産党は、人が集まることを嫌います。共産党以外の目的で、団結する人々のことは特に目の敵にします。
さらに、アメリカの共産化を進めている民主党は、”人集め”という点で、共和党に完全に負けているという現実もあります。先日のバージニアの知事選では、民主党の牙城を破り、共和党知事が勝利しましたが、そこでも明らかになったのは、オバマ元大統領による応援演説でも人が集められないということです。現役のバイデン大統領に至っては、スポーツやライブでの観客が批判コールする中で、”Let's Go Brandon”という新しいスラングが生まれたほどの、不人気ぶりです(このスラングが意味することは“《Fワード》 Joe Biden”です)。これは退任後に支持率が上がっているトランプ大統領とは、対照的です。
”人がたくさん集まること自体を禁止する方向に持っていきたい”。 そう考える層が出てきても不思議ではありません。
このような惨劇が2度と起きないような対策を検討していくことは、最も重要なことですが、この事件をきっかけに、大規模イベントが全て禁止されるようなことがないように、モニタリングしていくことも大切だと思います。