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「アイとアイザワ」第19話

前回までの「アイとアイザワ」

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愛は走りながら、花に状況を説明した。セカンドフラグと思わしき女性を12分後に見つけないといけない。その場所は新宿御苑。今いる歌舞伎町から御苑は徒歩圏内である。

「あーもう!どっちに行ったんだろう!?モーリスも居なくなってる!」

愛は直感に身を任せて、歌舞伎町から新宿御苑に行く最短経路を走った。果たして、これで正解なのだろうか?愛はアイザワに尋ねる。

「NIAIの社屋でやったみたいに、監視カメラの映像に侵入して居場所を特定できない?ほら!さっき女性の顔は見たでしょ?」

「愛、残念ながらカメラが女性に向けられていた訳では無いので、身体の一部しか視認できていません。ですので顔写真から人物を特定する事は不可能。ただ、特徴的なイヤリングが見えたので、防犯カメラに彼女が映れば判別はつくでしょう。しかしー。」

「そんな都合よく防犯カメラなんて無いわよね…。コンビニに入ってくれたら分かるんだけどな…!」

「そうですね、彼女はコンビニ及び防犯カメラがあるデパートの様な商業施設には立ち寄っていない様です。」

「だったら、まずは新宿御苑に向かおう!彼女がセカンドフラグって事で間違いが無いなら、御苑に来るのは確定してる!あとは、だだっ広い御苑の範囲で彼女を見つけられるかだけれど…!あー、御苑の中なんてますます防犯カメラ無いじゃん!」

「新宿御苑前という駅もあります。新宿御苑の園内とは限りません。いずれにせよ、目視で見つけるか、防犯カメラに映るのを待つしかありませんね。」

愛は眉間にしわを寄せ、考えを巡らせた。頭の中の新宿周辺の地図を立体的に再現し、彼女が行きそうなルートを割り出そうと試みる。しかし、歌舞伎町から新宿御苑は大通りで通じているので、ルートのパターンは限られている。どこかに寄り道しなければ、一本道と言ってもいいくらいだ。

「そうよ…彼女はきっと逃げてる。あの怯え方…一刻も早くここから立ち去りたいと思っているに違いない。彼女の気持ちを推測すれば…。」

愛は立ち止まり、辺りを見渡した。花は、急に止まった愛の背中に軽く衝突し鼻を打った。

「ったぁ!どーしたの?愛!」

「気が動転し、とにかく人が多い方へ逃げる…。」

「愛?」

「彼女の気持ちになるのよ…。私は今、あのモーリスって男から少しでも遠くに行きたい…。それも、少しでも人が多い方に行きたいと思うに違いない。映画やドラマで、よく人気が少ない方へ逃げてピンチになるの、本当観ててバカだなって思わない?逃げるなら、人気が多い方が安全に決まってる!だとしたら靖国通りに出るはず…。人が多く居るからと言っても、わざわざ伊勢丹に隠れたりしないわ…防犯カメラに映ってないし、なにより遠くに逃げたいんだもの。遠くに逃げたいのは、もう本能みたいなもんよね。そのまま寄り道をせずに走って行き…やがて…人通りが減ってゆき、また不安に駆られる…。三丁目を過ぎると、急に人が減るからね。…で、その時にする行動は?」

「うーん…警察に電話する!」

「違うわよ。あのバックの中身は知らないけど、きっと悪い取引だったんでしょ?警察に頼れる事なら、とっくにしてる。」

愛はアイザワをポケットから取り出した。

「アイザワ、新宿御苑前周辺にいるタクシーの車載カメラに侵入して!」

「愛、わかりました。なるほど、不安に駆られた彼女はー」

「タクシーを拾うはず!そもそも、始めからそうすりゃ良かったんだけど、気が動転してるからね!だから新宿御苑まで走ってしまったってワケ!」

「愛、車載カメラに映る彼女を見つけました。あのイヤリング、間違いありません。手を挙げてタクシーを呼び止め…じき停車します。どうしますか?」

「ここで逃しちゃダメよ!タクシーの運転手の携帯電話に侵入!アドレス帳を参照!」

「参照しました。」

「母、という文字が入っている連絡先はある!?」

「見つかりません。」

「実家、は!?」

「見つかりません。」

「ママ!」

「ありました。」

「アイザワ、その連絡先を偽装して電話を鳴らして!その女性を、タクシーに乗せちゃダメ!」

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ルミは新宿御苑前でタクシーを拾おうとしていた。しかし、いくら手を挙げてもタクシーが止まってくれない。一度はルミを見つけて減速するものの、何かに気を取られて通り過ぎてしまう。数分が経ち、恐ろしくなったルミは新宿御苑前駅から移動しようかと地下鉄の入口の方へ振り返るがー。

「きゃあ!」

思わず声が出た。そこには、さっき喫茶店でバックを渡した白人の男が立っていた。恐ろしさのあまり、立ち尽くす。

「ぜーっ、ぜーっ!ちょ…ちょっと待て…逃げるなよ…このバック…何だ?中身は!」モーリスは英語でルミに話しかけるが、ルミは英語が分からない。なにやらバックについて言っているのは分かるが。

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「見えた!モーリスも居る!運転手さん、止めて!」

愛はアイザワを、電子マネー決済の機器にぐいっと押し付けた。時にアイザワは、まるでスマートフォンの様に便利だ。愛と花は、勢いよくタクシーから飛び出した。

「アイザワ!時間は?」

「セカンドフラグ回収の時刻まで、あと25秒です。未来予報が更新されました。対象は、安西ルミ。読みが当たりましたね、追っていたあの女性です。安西ルミを地下鉄に乗せてはいけない。ちょうど電車が到着しています。今、地下鉄に降りられたら、95%の確率で逃げられてしまいます。」

その言葉を待たずに、ルミは決死の思いでモーリスを突き飛ばした。全速力で走り回ったせいで、モーリスの足腰はガクガク。か弱いルミのタックルでさえ、踏ん張れずに尻もちをついてしまう。


「あっが!ってぇええ!」

モーリスの悲鳴。愛はルミを止めようと追いかけるが、まだ距離がある。このままではマズイ。

「安西ルミさん!!!」

愛は、全力で彼女の名前を叫んだ。思わず、ルミが愛の方を向いた瞬間ー

「アイザワ!フラッシュトーク!!!」

辺り一帯を白い光が包む。地下鉄の入口付近には自転車が大量に停められていた。その自転車たちの反射板にフラッシュトークが反射し、愛も思わず仰け反ったが、幸い以前NIAIの追っ手に放ったものより大分加減されていたため、元々フラッシュトークの耐性がある愛は気を失わずに済んだ。アイザワは女性には優しい様だ。

糸が切れた人形の様に、ルミの身体は支えを失った。ちょうど尻もちをついたモーリス(顔を伏せていたのでフラッシュトークには晒されていない)の上に倒れ込んだので、頭を打たずに済んだ。

モーリスの悲鳴が、またも響いた。


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