誘われない人のために

漫画家のかっぴーです。少年ジャンプ+「左ききのエレン 」週刊スピリッツ「15分の少女たち-アイドルのつくりかた-」など原作者やっています。

ジャンプラ「左ききのエレン 」ついに完結しました。

完結を迎えた心境は、至る所で言った気がするので長々と文章では書きませんが、とにもかくにも「最後まで完走できた良かった」という気持ちでいっぱいです。この5年間お付き合い下さった皆さま、本当にありがとうございました。

先日ジャンプラの戦友であり、原作者の先輩でもある江藤さん(終極エンゲージ)に、完結したから飲もうよと誘って頂きました。その時、何の気なしに「江藤さんは、気さくに飲みに誘ってくれるから好き」という話になりまして。

根っから明るい兄貴って感じの江藤さんとは違って、私のような根暗からすると「ご飯行きましょう、いつ空いてます?」のハードルが馬鹿高いんです。「ご飯行きましょう。」までは言えるんですよ。いや「またご一緒させて下さい。」と更に遠回しにしているかも知れない。これでは挨拶の定型文なので本当に行きたがっているのか相手に伝わりません。それが分かっていながら、具体的な一歩を踏み出すのが怖いんです。

私が最も恐ろしいのは「誘ったのに、断られた。」という事態です。余談ですが奥さんと付き合うずっと前、最初のLINEで「今度映画でも観に行きましょう!」と送ったのに対して「行きましょう、みんなで!」と「みんなで!」を強調されただけで(強調してない、してるように見えた笑)、フラれたと大騒ぎし、それから1年間LINEを無視してました(笑)結局1年後に大勢の飲み会でたまたま再会し、誤解が解けるまで関係は進展しなくて。

とにかく私は「いつ空いてますか?」の一言が言えないのです。私は誘ってもらわないと遊びに行けないタイプなんだと、37歳になって改めて思いました。思えば小学生の時からそうでした。だから、必然的に私が遊ぶ相手は「社交的で友達が多い人気者」で、そういう子って私以外にも遊び相手はたくさん居るんですよね。そういったクラスの中心人物の、周辺of周辺人物が私でした。

江藤さんなんかはつくづく漫画の主人公タイプだなと思うのですが、一番記憶に残ってるのは「左ききのエレン」の連載が決まった時の話。江藤さんは原作版時代から読んで下さっていて、私にとって「自分の漫画を読んでくれてるらしいプロの漫画家」という存在でした。言ってしまえばその程度の関係だったのに、「左ききのエレン 」リメイク連載が決まった時、江藤さんは居酒屋で「やったー!」と大声を出しました。本当に恥ずかしかったです。いや、あれは嬉しかったです。ハッキリ言って、自分は他人の事であそこまで喜べないんですよね。根本的に他人に興味が無いので。あそこで大声を出せる人が、私にとって主人公像そのもので。

そこで気がついた事があります。私にとっての主人公は「誘ってくれる人」なのかも知れないと。自分に気をかけてくれて気さくに飲みに誘ってくれる兄貴分。これまで出会った、そんな憧れの大人達の集合体が「左ききのエレン」に登場する神谷雄介なんですが、今思うと神谷と光一の別れは象徴的で、最後に神谷は「誘ってくれなかった」んですよね。本当に大事な時には誘ってもらえないんだと、この人にとって自分は数多いる周辺人物の一人に過ぎないんだと言う絶望が、あのシーンの根底にありました。

性質的に最も主人公らしいはずの神谷雄介が、結果的にラスボスになってしまう所に「キャラクター配置の歪み」があって、そこが自分らしい漫画表現なのかも知れません。私はずっと「主人公になれない私(私たち)」を、あえて主人公にしたいと思っていました。全肯定したい訳でも下駄を履かせたい訳では無く、仮に主人公だったとして物語が成立するのか知りたかったのもあります。

「誘われない人/誘えない人」は一言で表現するなら「ダサい人」です。実際自分は出しゃばりだし人前に出る事自体は好きなので「根暗」は少し違うと思うので「ダサい人」が適切かと思います。私がこれまで描いた漫画は、ギャグ漫画も含めて主人公がとにかくダサかった。それは紛れも無く、自分がダサいからそうなる訳です。

<コミックス派の方は最終回のネタバレが含まれますので、以下は気をつけて下さい。>

そして、「左ききのエレン」は朝倉光一が成長し、最後の最後で神谷雄介を「誘う」という決断で幕を下ろしました。これも象徴的な決断です。24巻を通して、少しづつ成長した主人公が、本当の意味で主人公らしい行動をした所で完結する。

そういった、自分のダサい部分をキャラクターに投影して、自分を知って成長するために私は漫画を描いているのかも知れない。最近はそんな事を考えています。

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