見出し画像

今だから話せる『漫画を売る』たった一つの方法。

漫画家のかっぴーです。少年ジャンプ+「左ききのエレン 」週刊スピリッツ「15分の少女たち」など原作者やっています。

少年ジャンプ+「左ききのエレン」がついに最終回を迎えました。

5年間の連載は、ジャンプラの週刊連載の中で歴代最長。全24巻となりますが(今年中に最終巻まで立て続けに発売します!)、ジャンプで言うと「ROOKIES」と同じ巻数だと思うと、ずいぶん長くやらせて頂けたと感慨深いです。

肝心の売れ行きですが、シリーズ累計270万部突破し、先日の最終回後も重版がかかったのでまた伸びるのでは無いかと期待しています。

総じて、想像を大きく超える大好評御礼で幕を閉じる事ができました。最終巻が発売するまでが遠足ですが、ひとまずは本当にありがとうございます。

で、その原作者が意気揚々と「今だから話せる【漫画を売る】たった一つの方法。」と題してnoteを書いている訳ですが、結論から申しますとー

「そんなものは無かった」です。

釣りじゃねぇかと怒られそうですが、大真面目に「そんなものは無かった」という話がしたいんです。どれだけの事を試してみたのか列挙するので読んで欲しい。漫画家は漫画を描くのが仕事ですが、私はどうしても売る事までやりたかった。ここまで手弁当で売ろうとした漫画家は他に居ないんじゃないかと思う。それくらい、とにかく動き回った5年間でした。

これだけやっても売れなかった。でも、ある日売れた。今日の文章は、そんな身も蓋もないからこそリアルなドキュメンタリーだと思って読んで頂けると幸いです。

SNSを駆使しても売れなかった

Twitterとかフォローして下さってる方はお察しの通りかと思いますが、私は見苦しいほど宣伝してきました。顔出しでYouTubeもやってるし、テレビで大喜利やった事もあります。知ってもらえるチャンスと見たら、恥も外聞もかなぐり捨てて奔走した5年間でした。

アイデアを出し尽くしても売れなかった

私は広告代理店出身で「モノを売るアイデア」で食っていた人間です。思いついた売り方は当然全て試しました。劇中に登場するコートを本気で作って販売したり(ここで購入できます!)舞台である横浜で展覧会をやったりもしました。とにかくもう、思いついたら全てやりました。

今だから言いますが、コートを作ったのも宣伝です。服の利益で儲ける気はさらさら無く、本を売るためのニュースが欲しかったんです。超売れてる漫画のグッズなら量を作れば勝手に儲かりますが、私は完全再現したらニュースになるだろうと思っていたのでクオリティだけを考えていました。正直、あれ失敗してたら借金背負ってたかも知れません。よく「服も売って、ビジネス上手ですね」って言われますけど、あんなものはビジネスと呼んじゃ怒られます。ただのギャンブルでした。

メディア化してもそこまでは売れなかった

「左ききのエレン 」はTVドラマ化、舞台化もしています。お断りしておきますがメディア化には恵まれたと思っていますし、実際それを観て存在を知ってくれた方は多かった。メディア化して頂いて本当に良かったです。あくまで今回の「実売に繋がったか?」という尺度で言うと、そこまで動かなかったのが正直な所です。ドラマも舞台も作品としても完成度が高かったので、それだけで満足させられてしまった説すらある。ただ、これも先述の通り「売れてない時期に、賭けにのってくれた」という話なんです。だからこそ感謝してます。

じゃあ、どうして売れたのか?

私は思いつく限りの事を全部やったつもりでした。それでも去年の時点でやっと100万部。100万部までいったのはTVドラマのお陰でしたが、TVドラマで売れたというよりは「TVドラマで売れると見込んで、大量重版した」というのがリアルで、このあと山積みされた在庫が無くなって再び重版するまで相当な歳月を要しました。

忘れもしない、今年4月1日に140万部に到達。この辺で少しづつ重版が続き、最近ちょっと調子いいなと感じていました。そして「最終章の最終回を公開した月」に、140万部から一気に250万部まで売れ、現在270万部に。この半年間に部数が二倍になったんです。

ですから、もう売れた理由は目に見えていて「完結したから売れた」

明確に、完結した日から売れはじめた。

この売れ方の問題点

読者には関係ないかも知れませんが、この売れ方には大きな問題があります。まず完結した漫画は重版がかかりにくくなると言われています。連載中の作品を優先するのは当然ですから仕方ないとは思いますが、その結果「売れる期間が短過ぎる」という大問題が発生する。

完結して最終巻が出る間しかフィーバータイムが続かないのは本当に勿体無い。しかもエレンなんて巻数が多いですから「やっと売れ始めたぞー!」となっても、全巻ちゃんと置いてくれてる本屋さんの方が少ない訳です。売れる期間が少ないと、需要があっても供給が間に合わない。機会損失です。

そしてもうひとつ「そもそも人気が無いと完結できない」という問題点もあります。今年に入るまで売れなかったと言いつつも打ち切られる事なく、低空飛行だったかも知れませんが最後まで完走した事をまず誇りに思いたい。

ダメ押しでもうひとつ、これは笑い話として聞いて欲しいですが「1年に売上が集中すると税金で損をする」というのもあったり。この売上を5年間かけて少しづつ貰えた方が良かったよねと…(笑)まぁこれは半分冗談ですけど、裏を返せば、未来が見えなかった4年間が大変だったんです。私は広告案件をやらせて頂く事が多いのでそこまで気になりませんでしたが、なかなか火がつかない連載を続ける事は、打ち切り云々の前にメンタル的にも金銭的にも厳しい事です。

しかし、だからと言って「推してる漫画は連載中に買おう!」とは、なかなか読者に強く言う気になりません。なぜなら百回言ったからです、すでに。SNSで、思いつく限りの言い回しで買ってくれと言いました。買ってくれbotと化していました。それでも、繰り返しになりますが売れなかった。

だって、作者には作者の都合がある様に、読者にも都合がある。完結してまとめて読みたいって気持ちは、いち読者として共感してしまうから。

【結論】漫画を売るために必要な、たった一つの事

最大のきっかけは「完結」でしたが、これは紛れも無く5年間続けて完走できたからこその結果です。連載を続けられる最低水準を維持するためには、無意味にすら思えたSNSでの発信などが必要だったと信じたい。微力だったかも知れないけど、ほんの僅かな追い風が吹き続けていたお陰で最後まで連載し、大きなチャンスを得る事ができました。

ですから、今ここで「漫画を売るために必要な事」を一つ挙げるとするならば、それは「作品と心中する覚悟」です。

この作品は誰が何と言おうと、いくら売れてなかろうと、とにかく最高に面白いんだという覚悟。揺るぎの無い覚悟です。実際、私は心から「左ききのエレン 」が面白いと思い続けて来ました。自分が疑ってしまったら、きっと途中で折れていた。

この戦いに終わりは無い

そして、この戰いは作家人生が続く限り終わりはありません。前作が売れたからといって、次回作が自動的に売れるなんて事は無いのです。

いま週刊スピリッツで連載している「15分の少女たち-アイドルのつくりかた-」という漫画は、今月末に最新4巻が発売しますが、まだ一度も重版していません。この作品も、私は心から面白いと思って描いてるし、舞台であるアイドル業界の評判はすこぶる良いのです。つんくさんや、BiSHの渡辺さんは推して下さっている。それでも、やっぱり火がつくのに時間がかかっている。

ただ、自分で面白いと信じている限り、私はこれからも買ってくれbotを続けるつもりです。だって、読んだ方が良いと思うから。いま世の中にはコンテンツが多過ぎますし、私も「チェンソーマン」とか「水星の魔女」を観るのに忙しい。それでも、数多あるコンテンツの合間に「左ききのエレン」や「15分の少女たち」を読んで後悔させない自信があります。

だから格好悪くても、これからも自分で宣伝します。

「15分の少女たち-アイドルのつくりかた-」は、アイドル・プロデュースのお仕事漫画。実際のアイドルや芸能事務所にこれでもかと取材させて頂き描いているのでリアリティには自信がありますし、「左ききのエレン」と同じ世界線の物語なのでエレンキャラクターが出まくってます。「アイアンマン」と「スパイダーマン」みたいな距離感の姉妹作ですから、このnoteを読んでくれている方々には特に楽しんでもらえるはずです。ちなみに、今週から「アンナ・キシ編」がスタートしたもんですから、描いてる方もワクワクが止まらない。

今月末に4巻が発売しますので、読み始めるには今が良いタイミングかなと思いますし、漫画というものは、ほおっておくと知らない間に終わりますので(笑)今読み始めて頂けないとそろそろピンチかも分かりません!

そして、是非とも感想をお聞かせ下さい。一説によると漫画家は漫画の感想を読むと幸せホルモンが分泌されると言われています。

今日は「今だから話せる『漫画を売る』たった一つの方法。」と題して、つらつらと長い事書いてしまいましたが、最後まで読んで下さってありがとうございました。これからも、自分の漫画を面白いと信じている限り、続けます。どうかお付き合い下さい。

ここから先は

14字
月額なら390円なのでオススメです!

漫画を描いてて思った事などを書いてます。価格は390円(サンキュー)

サポートも嬉しいですが、よかったら単行本を買ってください!